#09
夢小説設定
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なるべく足音は立てないように、だが焦る気持ちが早足を促す。
連絡が取れないことはそんなに心配はしていない。
だが相手は武装した複数人。
縢1人で無事かどうか、心配だった。
(……縢もこんな気持ちだったのかな)
大嫌いと言われた。
彼が己の発言を後悔していると聞いた。
心配をしてくれた。
言いすぎたにしてはなかなかにひどい言葉だが、あれが彼の本心とは思えない。
いつも通りの口喧嘩が、ほんの少しエスカレートしてしまっただけだと思えば、己の発言も少々大人気なかったと反省する。
(謝ろう…)
「放っておいて」と言ってしまったことを。
縢の気持ちも考えずに告白してしまったことを。
謝ろう。
そして仲直りをするんだ。
今までと同じように接することはできないかもしれないけれど、少なくともこうして無視し合うような切ない関係は解消される。
また一から関係を築いていこう。
シビュラのことは憎いけれども、それ以上にみょーじおなまーえは今の生活を嫌ってはいないし、縢秀星と共に過ごせる日々を謳歌している。
光があれば闇がある。
良いところもあれば、悪いところもある。
シビュラシステムのことは憎んではいるけれど、それ自体を悪だとは思っていない。
シビュラシステムのない世界で、きっともう人間は生きてはいられない。
例えば、明日から紙とペンを使うなと言われたら、そんなの誰だって困ってしまう、だろう?
それと同じことなのだ。
今回の暴動で痛いほどに実感した。
シビュラシステムはなくてはならないものだ。
だが決してこれに依存してはいけない。
縢秀星を潜在犯として認定したことは、未だに納得がいっていないのだから。
――カツンカツン
考え事をしながら階段を下っていくと、自分以外の足音が聞こえてきた。
随分とゆったりとした足取りで、急ぎ足のおなまーえではあっという間に追いついてしまう。
(敵…?でもこの音、ヒールの音のような…)
カツンとわざとらしい音が立つそれは、女性もののヒールのある靴のように聞こえた。
武装した敵であれば、もう少し歩きやすい靴を選ぶはず。
おなまーえは警戒もそこそこに、その女性に近づいた。
――ジャキン
「止まりなさい」
圏外であるこの施設でドミネーターを向けても、システムと通信することができず、サイマティックスキャンされないため、犯罪係数は測定されない。
それでも脅しにはなるだろうと、おなまーえは銃口を白髪の女性に向けた。
「……君は上官に対して銃口を向けるのか?みょーじおなまーえ監視官」
「…この声、禾生局長ですか?」
照明は足元を照らしているため、暗闇でよく顔が見えなかった。
「失礼いたしました!」
みょーじおなまーえは慌ててドミネーターを下ろして敬礼をする。
「構わん。ところで、なぜ君はこんなところにいるのかね?各地の鎮圧はどうした?」
「武装集団がここに侵入したとの情報を聞きつけて、先行した次第であります」
「持ち場を放棄してか?」
「私の担当区域にはまだ宜野座監視官が残っていますから」
「…そうか」
命令に違反して持ち場を離れたことは処罰されてもおかしくないだろう。
こんなところで局長に出会うなんてついてない。
(あれ…?)
みょーじおなまーえは微かな違和感を抱く。
――なんで局長はここの場所のことを知っているの?
彼女は恐る恐る尋ねる。
「きょ、局長はこの地下の存在をご存知だったのですか?」
「……」
返答はない。
だがそれは無言の肯定のようにも思えた。
「…みょーじおなまーえ監視官」
「は、はい」
「そのドミネーターを少し私に貸してはくれないか?」
文鎮としてしか使えなさそうな鉄の塊を見て、局長は手を出してきた。
「え、でもここ圏外なのでシステムと接続することができませんが…」
「構わん。それを私に寄越せ。」
上官の命令には逆らえず、みょーじおなまーえは素直にドミネーターを渡した。
局長はそれを受け取ると、体をこちらに正対させた。
「悪いが、話をする時間はなくてね」
「…はい?」
ジャキと聞きなれた音が鳴った。
みょーじおなまーえに向けられたのはドミネーターの銃口。
システムと通信できないはずのそれは、まるでバグを起こしたかのように変形し、エリミネーターを起動した。
「君は模範的な監視官だったから、冥土の土産にひとつだけ教えてあげよう。ここはシビュラシステムの中枢に繋がる通路だ。我々以外は立ち入りが禁じられているがな。」
「っ!?」
ようやく思考が繋がった。
なぜ禾生局長が自らこんな胡散臭い場所に足を運んだのか。
武装集団を己の手で葬るためだ。
真実に近づいた者たちを全て消し去るため。
太陽に近づきすぎたイカロスは、ロウを固めて作った羽根を溶かされて地に落とされた。
今みょーじおなまーえは、シビュラシステムの真実に近づきすぎてしまった。
(…待って。この先には縢がいるかもしれない。)
今ここで地上へと逃げ出しても、この先にいる縢秀星は不要なものとして処分されてしまうだろう。
一番最悪なのはここで自分が死んで、下にいるであろう縢も殺されること。
それはダメだ。
今この場で、みょーじおなまーえが命に代えてでも、局長を止めなければならない。
(……やるっきゃ、ない)
文鎮代わりのドミネーターも渡してしまい、みょーじおなまーえは丸腰の状態。
武器になるようなものもここにはない。
彼女は決して上出来とは言えない頭で知恵を絞る。