#08
夢小説設定
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現場検証が終わり、一同は本部への帰路についていた。
制限速度を少しオーバーしておなまーえは車を走らせる。
「……」
運転をしながらも、彼女は眉間にしわを寄せて考え込む仕草を見せた。
助手席の宜野座が朱に話しかけた。
「昔は玄関に物理的なロックをかけるのが当然だった。まずは他人を疑うことを前提に秩序を保っていたからだ。」
「それ征陸さんの思い出話ですか?」
「ああ…あの老いぼれの受け売りさ。今は 誰かを疑ったり用心したりする心構えは必要なくなった。道端で会う赤の他人は全て、サイコパスの保証された安全で善良な人物。その前程でこの社会は成り立っている。」
「……まるでその根底を揺るがすかのような事件ですよね。今回のって。」
槙島の仕組んだ事件なのであれば、必ずメッセージが仕込まれているはず。
狡噛であればそれを読み取れるのだろうか。
「あのヘルメット男のように、サイマティックスキャンを欺く方法があると知れわたったらパニックは避けられん」
「もしくは槙島聖護のような存在が発表されても…」
「この国の人たちは疑心暗鬼になるでしょうね。隣にいるのが殺人鬼かもしれないって。」
シビュラに骨抜きにされた一般市民は、人を疑うことを知らない。
人の疑い方を知らない。
それに対して、啓蒙しているのだろうか。
だがそれだけがメッセージとはとてもとても思えなかった。
――プルルップルルッ
唐之杜から通信が入った。
宜野座が身を乗り出して通話ボタンを押す。
「どうした?」
『世田谷区でエリアストレス警報なんだけど……それはそれとして、ネットにとんでもない動画があがってるわよ。見て。』
それは男から女性を殴りつけている動画。
しかも大通りのど真ん中、白昼堂々と犯行は行われていた。
「え?」
「な、なんだこれは…」
監視官3人は理解不能な現象に目を丸くさせる。
「これは…一体何がおきてる?」
事件そのものは明快。
男が女を殴り殺した。
それだけである。
「…またヘルメットですね」
連続して発生した事件の共通点はヘルメット。
まるで世界の根底を揺るがすかのような事件が多発することに、一同は顔をしかめた。
****
一係は本部には帰還せず、そのまま次の現場へと急行した。
被害者の名は藤井博子。
繁華街のど真ん中での犯行だった。
「この街は一体どうなっちまったんだ?」
「薬局襲撃犯と同じ犯人でしょうか?」
「可能性は高い」
宜野座は腕を組み、苛立ったように周囲を見渡した。
「それにしても、これだけの人間がいたのにカカシか、こいつらは」
「目撃者の証言は似たり寄ったりみたいです。『何が起きているか理解できなかった』と。」
おなまーえの言葉に、朱がフォローを入れる。
「無理もないと思います。目の前で人が殺されるなんて、想像もつかないし思いつきもしない。そんな出来事が起こりうる可能性なんて見当もつかないまま、今日まで暮らしてきた人たちばかりなんです。」
これだけ人がいたとしても、誰も事件を通報せずに、看過していた。
結局エリアストレス警報で異常が発覚したというわけである。
「見過ごしたのは人間だけじゃない」
宜野座は顔を上にあげた。
釣られて他の面々も視線をあげる。
「はぁ…よりによってサイコパススキャナーの目の前でなぁ」
犯人の色相変化はリアルタイムでモニターされてた。
だというのに計測された数値は正常値。
むしろ殴られている女性の方が高い数値を出している始末。
狡噛が、周囲のサイコパスと何かしらの関係がありそうだというところまで解き明かしたとき、再び監視官のデバイスが鳴った。
――プルルッ
『監視官、また緊急事態』
「今度は何だ?」
『高速道路で現金輸送車が襲撃されたって』
「現金輸送車って…」
要は強盗事件である。
現金だなんてものは最高峰のセキュリティの下で輸送されるはずである。
普通に考えて、まずあり得ない。
だがあり得ないことが立て続けに起こっているのが事実。
すかさず狡噛が唐之杜に詰め寄る。
「志恩、そいつらもヘルメット装着者だな」
『さすが、その通り。数は3人。全員工具類で武装。さっきの事件とは別口ね。』
結局、手分けして事件を追うことにはなったものの成果は得られず。
対してヘルメット関連の事件は右肩上がりに増えていった。
数十件。
数百件。
数千件。
公安局ではすべての事件に対処できるほどの人では備わっていなかった。
凶暴性の伝染はサイコハザードと呼ばれているが、これはそんなかわいらしいものではない。
もはや暴動の域に達していた。
エリアストレスの上昇も凄まじいものだった。
ヘルメットを被った人たちだけでなく、怯えた市民があっちこっちで集団暴行を引き起こしている。
正当防衛と言い張って武器を手に取り、暴徒と化していた。
『首都圏の機能を全て麻痺させる事態になりますね』
これはみょーじおなまーえがチェ・グソンへの協力を断った際に起きると言われたこと。
あの男はその言葉通りに、人々の不安を煽ってテロを引き起こした。
事件の一端を担うことになったみょーじおなまーえは、己の選択をひどく呪った。