#07
夢小説設定
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「どうした!?」
音を聞きつけて、宜野座が駆け寄る。
「なんだ…これは…?」
「ぁ…」
状況説明をしなければならないというのに、情けないことに声が出ない。
「あー…罠っすよ、罠。随分アナクロですけど。あまりむやみに動かない方がいいっす。」
縢が代わりに応えると、彼は体を起こし、おなまーえの脇に手を入れて無理やり立ち上がらせた。
彼女の心音はまだ早く、冷や汗も収まっていない。
「罠による大量殺人…いや、虐殺?犯人の目的は?」
「ゲームじゃないっすか?」
「は?」
「えっ、いや…この地下にやって来たときからずっと感じてたんすよ。対戦ゲームのステージみたいだなって。お前もそう思わね?」
縢は腰の抜けたおなまーえを支える。
「……バイオハザードとか、ホラー系TPSに似てるなって」
「それそれ」
「バーチャルならともかく、生きた人間を使ってゲームだと?」
話しながらも縢が背中をさすってくれているおかげで、少しずつ落ち着きを取り戻してくる。
深呼吸をして、早る心臓を押さえつける。
(今私、犯罪係数を調べたらかなりヤバイことになっている気がする…)
宜野座もそれを承知で見逃してくれているので、帰ったらキチンとメンタルケアを受けなければ。
――プルルルッ
皆のデバイスが鳴る。
動けないおなまーえに代わって、宜野座が出た。
『こちらハウンド1。誰か聞こえるか?』
無線の主は征陸だった。
「こちらシェパード1。状況は?」
『ハウンド3を保護した。生きているのが不思議なくらいの有様だ。犯人は人質をとって依然逃走中。シェパード3が単独で追跡を続行している。急いでくれ。』
「くっ…了解した。その場を動くな、すぐに救援に向かう!」
無傷で狡噛を助けだすことができなかったのが悔やまれる。
加えてあの狡噛がそこまでやられるということは、単独で犯人を追いかけている朱にも危険が迫っているということ。
おなまーえは恐怖を飲み込んで自身を奮い立たせた。
「大丈夫です、私いけます」
「悪いな、どうやら休ませる暇はないようだ。そのクソッタレなゲームとやらはまだ終わっていないらしいからな!」
宜野座は顔を歪めた。
****
征陸の無線の位置を逆探知し、4人はすぐさま走り出した。
縢がさすってくれていたおかげで幾分か体は動くようになった。
(手…暖かかった…)
彼が撫でていてくれた背中がまだ暖かい。
大丈夫、まだ自分は生きている。
今地面を蹴っているこの足から、確かにここにいるのだという実感が湧いてくる。
全く、シビュラを敵に回す時はあんな大口叩いていたくせに、我ながら情けない。
だがそれほどまでに、身近な死はなによりも恐ろしかった。
「征陸執行官!」
宜野座の声に顔を上げる。
前方に征陸と横たわる狡噛の姿が見えた。
「ちょうど良かった、監視官!狡噛が動かないように抑えつけといてくれ!」
そう言い放つと、征陸は宜野座の返事も聞かずに奥へと走って行ってしまった。
頭部、腹部に包帯を巻かれた狡噛は額を抑えて蹲っている。
確実に重傷なものの、彼は生きていた。
ここを出て、きちんと医者に診て貰えば大丈夫だろう。
宜野座と六合塚と縢は近くに散らばっていた遺体、もとい破片に近寄った。
――ペタリ
おなまーえは冷たい地面に膝をつく。
(…はっ…)
もう何十人もの血を吸収したコンクリートには、薬莢がいくつか散らばっていた。
ゲームやドラマでしか見たことのない、バーチャルではない本物の薬莢。
狡噛の体は至る所に傷ができていて、まるで銃にでも撃たれたかのようだった。
(なんで…)
――カンッカンッ
ふと、誰かの足音が聞こえた。
ハッとしておなまーえは顔を上げる。
――カンッ
まるでこちらを誘うかのようなわざとらしい足音に、宜野座たちは気がついていない。
「……」
行くな行くなと脳内で警鐘が鳴っている。
けれど、確かめない訳にはいかなかった。
もしこれが槙島の仕業で、影でチェ・グソンが関わっていたのであれば、狡噛がこうなったのは紛れもなく自分のせいでもある。
共謀者の存在を知っていながら、逮捕する機会を与えられておきながら、己が欲に負けて見逃していた。
シビュラを暴いてやろうという甘言に乗せられて、あの男のことを許していた。
ああ、それでもシビュラの正体を諦めきれない自分はなんと愚かなことか。
「…っ」
おなまーえは弾かれたように走り出した。
あちらの方向にチェ・グソンがいる。
もう手遅れかもしれないけれど、せめて復讐者ではなく、刑事としてやることがまだある。
いや、本当のところ、会ってどうするかなんてなにも考えていない。
ドミネーターで裁く?
逮捕する?
また見逃してしまう?
自分がどうしたいかなんて考えられずに、ぐちゃぐちゃのまま、ただひたすらに音の聞こえる方向へ走った。
後ろから宜野座が呼び止める声が聞こえた気がしたが、そんなことは気にならなかった。
ドローンも連れずに走り出したが、不思議なことに通路は明るかった。
まるで誰かが来ることを待っていたかのように。
「っ、いるんでしょう!チェ・グソン!」
ぐわんぐわんと声だけが反響する。
返事も、足音すらも聞こえない。
細い通路は入り組んでいて、道が幾重にも広がっている。
パイプが無数に張り巡らされ、まるで迷路の続きのようである。
みょーじおなまーえは迷わずに足を踏み入れる。
――カツンカツン
聞き慣れたパンプスの音が埃っぽい通路に響く。
(ああ、ドミネーターすら持ってきてないじゃん私…)
勢いだけで走り出したため、ドミネーターを置いてきてしまった。
我ながら、人間危機に陥るとどんな行動をするかわかったもんじゃない。
――カツンカツン
道が分かれている。
「チェ・グソン…」
おなまーえは確かめるように彼の名前を呼んだ。