#07
夢小説設定
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ドローンのわずかな明かりを頼りに周囲を見回す。
「……何もないね」
「わざわざ壁まで作ってんだから、多分こっちが正解だと思うけどね」
ジャミング装置がどんなものなのかわからない。
手のひらサイズなのか、ドローン並みに大きいのか、それすらもわからないため、しらみつぶしに見て回る必要がある。
左右で手分けして、2人は広い通路を進んでいく。
「……」
縢はほんの一瞬、腰の引けているおなまーえの背中を見た。
本当はこんな暗闇を捜索するなんて健康優良児の彼女には苦痛なのだろう。
それに関しては少なからずかわいそうだと思う。
(だけど…)
ここ最近のおなまーえの不審な動き。
まるでホロ壁があるのを知っていたかのような鋭い感。
やはり彼女は何かを知っていて黙っている。
捜査において、犯人を捕まえることに関しては協力的だ。
ならばその後ろの黒幕に関する何かを隠しているのだろうか。
(……潮時だな)
とうとう縢秀星はみょーじおなまーえに尋ねた。
「……お前さ、何か隠してね?」
――ぴくっ
おなまーえはわずかに肩を揺らした。
「……なんのこと?」
振り向かずに、努めて冷静にとぼける。
(バレた…?)
いや、そんなはずはない。
何か隠しているかだって?
一連の事件の黒幕につながっているであろう人物の名を、たしかに隠している。
それだけでなく、シビュラに仇名そうとしていることも。
縢はまだなんの確証も得ていないはず。
まだ慌てるな、見極めろ。
これは、嘘と誠の心理戦。
縢は続ける。
「最近のお前、ちょっとおかしいんだよ。ホロ壁があるかもだなんて、前のお前なら絶対に思いつかなかっただろ。」
「それは桜霜学園でたまたま見かけたから…」
「その桜霜学園でもだ。ほとんどオレと一緒に捜査してたくせに、いつそんなの見つけたんだよ」
おなまーえの額に冷や汗が浮かぶ。
本当、見てないようで見てるんだから。
あの時は一切言及してこなかったくせに、なんで今になって言うのか。
「…サボりの子見つけたって言ったでしょ。その時だよ。」
「じゃあ、なんでそのとき見つけたってオレに言わなかった?」
「……もう、今はそんな話してる場合じゃないってば」
多分、おなまーえがいくら理由をこじつけたところで、縢は納得しない。
ならばせめて、今だけはこの話題から離れたかった。
「話はまだ…」
「あとでいくらでもきくから。今は早くジャミング装置を見つけな…」
そのとき、おなまーえの視界の端に半開きのアタッシュケースと、そこから漏れる光が目に入った。
「っ!」
間違いなくジャミング装置だ。
見つけられたことといい、タイミングといい、運がいい。
「縢、あれ!」
「あぁ?」
おなまーえの指差した方向に縢は視線を向ける。
「ビンゴ。こいつか…!」
彼はアタッシュケースごとジャミング装置を蹴飛ばして破壊する。
何度か点滅すると、装置は力が抜けたように停止した。
――ピピッ
ドミネーターのオンラインランプが点灯する。
『システムオールグリーン。通信許諾確認。』
指向性音声が、シビュラシステムとドミネーターの接続確認が取れたことを報告した。
デバイスからも『圏外』の文字が消えている。
「……とりあえず繋がったみたい」
ほっと胸をなでおろす。
狡噛も、これで生存確率が上がった。
「……話はあとできっちり聞くからな」
「はいはい」
図ったこととはいえ、面倒ごとを後回しにするようなことになってしまい、おなまーえは顔をしかめて空返事をした。
****
おなまーえと縢は宜野座と合流し、朱たちが向かったであろう方向に進んだ。
先程よりもっと薄暗い。
ひたすらに先の見えない、入り組んだ迷路を歩く。
おどろおどろしい雰囲気は、まるでホラーゲームのステージのよう。
「臭い…」
ジメジメとしていて、埃と火薬とわずかな血の匂いが充満していた。
壁や床のあちこちに弾痕と黒いシミが付着している。
そのシミが血痕だと気がついたとき、おなまーえの背筋は凍りついた。
「まるで戦場…いや、処刑場だ…」
「こりゃ3人や4人なんてもんじゃない。数十人……下手したら100人近く死んでますよね。」
「ここにコウちゃんが誘いこまれた…」
おなまーえは壁伝いに曲がりくねった道を進む。
「あれは…」
曲がった先の地面に、ケミカルライトが落ちていた。
縁日などでよく見かける、折って光るタイプの簡易ライトだ。
もう光も弱々しく、随分前に使用されたことがわかる。
(なんでこんなところに…)
おなまーえはそのケミカルライトに近づいた。
「バッカ野郎…!」
「えっ…?」
縢の声が聞こえたと思ったら、背後から思い切り腕を引かれた。
勢い余って、おなまーえは彼に向かって倒れこむ。
――ガチン
――ガシャァンッ
なにかがはまったような音が聞こえた直後に、脊髄を揺するような凄まじい音が響き渡った。
まるで鉄骨が落ちたような激しい音に、おなまーえは耳を抑える。
何がおきたのかわからない。
ただ柔らかい感触に包まれたのは確かだ。
「つぁー……間一髪ぅ…」
おなまーえの下敷きになった縢が大きく息を吐く。
縢のおかげで地面に強打せずに済んだ。
――ガバ
慌てて後ろを振り向けば、先ほどまでおなまーえの立っていた場所に、沢山の棘がついた鉄の板が落ちていた。
その装置は、まるで大型の獲物を獲るための罠のようだった。
「…っ!?」
おなまーえはあまりの恐怖に声が出なくなる。
顔から血の気が失せ、それを補うように体が震える。
あと少し縢が腕を引くのが遅ければ、おなまーえはこの棘に串刺しにされ、ただの肉塊と成り果てていただろう。
思っていたより身近な死の危機に、平穏な世界に生きていた彼女は恐怖した。
こんな危険な現場は初めてだった。
「おい、生きてっか?」
「っ…生きてる…」
「それなら上々」
絞り出すように応える。
この弱々しい体に、たしかに生を実感している。
状況を理解したからこそ、あまりの恐怖に腰が抜けてしまった。
ここは戦場でも処刑場でもない。
――狩場だ。