#07
夢小説設定
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旧銀座駅から廃線となった銀座線に足を踏み入れ、一行は北へと進んでいた。
「この辺り、局所的だけどかなり強力なジャミングがかかってますね」
「ジャミング…?」
ジャミングとは、通信やレーダーなどの電波を妨害するために発信される電波のこと。
(……もしかして、今回の事件にもあの男が関わってるわけ?)
おなまーえの頭をよぎるのは、2回しか会ったことのない細目の男。
あの男ならこの辺りのマップの穴をついて今回の事件をセッティングするだけの、技量と行動力がある。
(……いやいや、いくら何でも考えすぎだよ私)
少し人間不信になっているようだ。
何でもかんでもあの男の仕業だと考えてはいけない。
「妨害電波の発信源は?」
「南西の方角。ただマップ上だとこの区画、何もないはずです。」
「みるからに怪しいですね…」
宜野座はピタリと足を止めた。
「よし、ここに中継基地を設営する。マップデータは信用するな。隙間という隙間を 徹底的に調べろ。」
「はい」
「それと狡噛は見つけ次第ドミネーターで撃て。警告は必要ない。」
ドミネーターで撃つ。
その言葉に、朱が前に出て抗議した。
「でもまだ脱走と決まったわけじゃ…!」
「その判断はシビュラシステムが下す。狡噛にやましいところがなければ、犯罪係数にも変化はない。パラライザーモードで決着はつく。」
「まじに逃げる気だったんなら容赦なくエリミネーターが起動しますよね」
「かーがーりー?」
「いって」
これ以上、朱を不安にさせるようなことを言ってどうする。
おなまーえは彼の脇腹を肘で小突いた。
「サイマティックスキャンは誤魔化せない。それで狡噛の本心もわかる。」
「殺しても構わないっていうんですか!?宜野座さん、友達だったんでしょう?」
宜野座の目が一層細まる。
「…これで狡噛が死ぬ羽目になれば、常守監視官、全ては君の監督責任だ」
「!!」
彼とて狡噛のことを心配していないわけがない。
きっとこの中で誰よりも無事を願っているはずだ。
だが素直になれない彼は、心配のあまりその不安を常守朱にぶつけてしまっている。
「宜野座さん、流石に言い過ぎです」
たまらずおなまーえは間をもとうとするが、彼は構わず続ける。
「…君がちゃんと狡噛をコントロールしていればこんな事態にはならなかったんだ。どうだ?自らの無能で人が死ぬ気分は?」
「っ!」
朱はショックを受けて一歩後ずさる。
ああ、どうしてうまくいかないのだろう。
宜野座は間違えたことは言っていない。
たしかに今回の件は、常守朱の公私混同と監督不行き届きが招いた結果なのかもしれない。
けれど今、彼女を責め立てることは何の為にもならないはずだ。
我慢ならない。
「っ…」
おなまーえはとうとう、一歩前に足を進めようとした。
「まぁ待て」
「…え」
だがおなまーえは、宜野座に歩み寄ろうとしたところを肩を掴まれて押さえつけられる。
オートメイルの腕――征陸だ。
彼はおなまーえの肩を後ろに引っ張って縢に預けると、代わりに宜野座に歩み寄った。
「なぁ、監視官」
そして宜野座の後ろを子猫のように掴み上げた。
「っ!?」
「そのくらいにしとこうか。ちょっと陰険すぎるぜ。」
みょーじおなまーえにとって――いや、おそらくこの場にいる全員にとって初めて見る、父親と叱られる息子の図であった。
掴まれた宜野座は予想外の出来事に、鳩が豆鉄砲を食ったような顔をしている。
征陸はそのまま乱暴に腕を振り、宜野座をドローンに叩きつけた。
してやったりとでも言うように、彼はニカッと笑う。
おなまーえはグッと親指を立ててそれに応えた。
――プルルルッ
その時、タイミングよく電話がかかってきた。
「狡噛からです!」
六合塚の言葉に全員が顔を明るくさせる。
なんだかんだ、皆狡噛のことを心配していたのだ。
『こっちの位置は逆探知できるな!?現在コード108が進行中。至急応援を!繰り返す!』
普段冷静沈着な彼からは想像がつかないほど、切羽詰まった声。
きっと今、狡噛は何かに襲われている。
すぐさま宜野座が指示を下す。
「ありったけのドローンを急行させろ!」
「そうさせたいのは山々ですけど、経路が…!」
狡噛の位置は逆探知できてもマップがなければ経路が選択できない。
「っ、手当たり次第に試せ!1台でもいいから到着させるんだ!」
自体は一刻を争う。
先ほどとは打って変わって、宜野座は狡噛捜索に全力を注いだ。
「常守監視官は征陸を連れて狡噛を捜せ。俺と六合塚、みょーじと縢は、手分けして妨害電波の発信源を捜しだし潰す。」
「はい」
朱と征陸はすぐさま走り出し、暗闇へと進んでいった。
その後ろを4人が慎重に進んでいく。
「ホロ壁の可能性もありますから、文字通り手当たり次第見ていったほうがいいですよ」
「ああ」
「……」
まだ半信半疑だが、チェ・グソンが関わっている可能性も否定はできない。
妨害電波を隠すために、ホログラムの壁を利用していることだってあり得る。
念には念を入れて捜索にあたる。
「正直何がなんだかさっぱりだ。強力なジャミングに、記録にない地下空間。狡噛からの応援要請…」
「朱ちゃんの友達のメールと、廃線になった列車が動いたのもまだ謎のままですよ」
「いずれにせよ、ただごとじゃないのは間違いないっす」
「お前もそう思うか?」
「…コウちゃんのあんな声、初めて聞きました。マジで切羽詰まってた。」
応援要請は力強い声だったが、微かに息が乱れていた。
息が上がるほどに動き回ったか、はたまた怪我を負っているのか。
狡噛は暇さえあれば鍛錬をしているような男だ。
体力は人一倍あるはず。
とすれば、考えられるのは後者。
「あれ、ここ…」
壁を触っていたおなまーえが足を止める。
「どうした」
おなまーえはドミネーターをそっと壁に押し付ける。
銃は壁に吸い込まれて、向こう側へとすり抜けた。
「ホロ壁か」
「私と縢でこっちに行きます」
「わかった」
おそらくこちらのルートが当たりだと思うが、宜野座と六合塚はそのまま真っ直ぐ進んでいく。
おなまーえと縢は顔を見合わせると、慎重にホロ壁の奥へと足を進めた。