#07
夢小説設定
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「ダメだなあ。地下室は水没している。」
朱から緊急要請がかけられ、本日出勤していた一係の面々は、かつて新橋と呼ばれていた廃棄区画に集合していた。
話を整理すると、昨晩常守朱が友人から直接会いたいとの連絡が来た。
その場所がこの廃棄区画で、マップ上で見ても明らかに不審だったため、非番だった狡噛に付き添ってもらってここまで来たのだという。
ナビゲートは常守、調査は狡噛が担当したが、その狡噛が建物の中に入ると突然連絡が取れなくなり、彼は行方をくらませた。
慌てて朱も追いかけようとしたが、地下へと降りる階段が水没していたというわけだ。
「臭いからして間違いなく廃液交じりの汚染水だ。あんなの生身で浴びたら無事じゃ済まんぞ。」
「でも間違いなく狡噛さんはその先に進んだんです!それどころか壁を通り抜けてもっと奥まで!」
朱の言葉を、執行官たちは半信半疑に捉えている。
宜野座に関してはほとんど信用していないだろう。
「ナビの故障じゃね?」
「でも今は通常運転してるよ、このナビ。そんなタイミングよく壊れる?」
「ハードじゃなくソフトの問題かも。この辺り再開発を何度も繰り返してるから、登録されてるデータが実態通りかも知れたもんじゃないわ。」
六合塚の意見は一理ある。
廃棄区画のデータなんてわざわざ頻繁に更新するものでもないし、再開発を繰り返したために正しい設計データが不明になることも50年前は珍しいことではなかったと聞く。
「騙されたのは君だけじゃないのか?常守監視官」
「えっ?」
宜野座は冷徹な目で朱を見下ろす。
「……狡噛は君の監視下を離れ、位置情報もロスト。つまり初めから逃亡をする目論見でこの状況を演出したのかもしれん。」
先日朱と口論してから、宜野座はすこぶる機嫌が悪い。
そんな中で執行官の失踪という情報が舞い込んできてみろ。
なんで今日に限ってこの人は休みでなかったのだろうと、おなまーえはシフト表を恨んだ。
朱は悔しそうに宜野座を睨みつける。
「あー、お嬢ちゃん」
見かねた征陸が間に入る。
「とりあえずマップデータよりナビを信じるとしてだな。狡噛はどっち方角に向かったかわかるか?信号が妙な動きをしたりとかは?」
「妙なっていえば……途中からいきなりスーっと、ものすごい速さで…」
「ものすごい速さ?」
「うん。真っ直ぐに、北に…」
ものすごい速さで移動と聞いて、思い浮かぶのは乗り物だ。
もしかしたら狡噛は何かに乗ったのではないだろうか?
それが自らの意思が、不本意なのかはわからないが。
「……もしかして、なんか乗ったんじゃないの?」
「…!そうかもしれない!」
朱は顔を明るくさせた。
「六合塚さん!この辺りに、南北に走る地下鉄路線がありませんか!?」
「ちょっと待って。……あるわね。地下鉄銀座線。でも60年前に廃線になってる。」
一同は顔を見合わせる。
廃線。
狡噛の失踪。
謎の誘い出しメール。
何か嫌な予感が、おなまーえの背筋に走った。
****
旧新橋駅は汚染水で封じられてしまったので、一行は一つ隣の駅、旧銀座駅に移動した。
車の中で、おなまーえは朱が昨夜受け取ったという友人・船原ゆきからのメールを確認する。
念のため、彼女とのやりとりをいくつか見させてもらったが、このメールだけ文面というか、書き方が異なる。
十中八九、船原ゆきをさらった犯人が代筆したものだろうが、どうして犯人は朱を呼び出したりしたのだらうか。
身代金目的にしても、いささか手が込みすぎている。
(……いや、逆か?朱ちゃんを呼び出したいから、船原さんをさらった?)
犯人は朱に恨みを持つ者だろうか。
いや、そんな単純な話じゃないかもしれない。
――狡噛がいなくなったのは偶然?
「……なんか引っかかる」
おなまーえの呟きに、同乗していた縢が反応する。
「みょーじ執行官は朱ちゃんの言うこと信じてるわけ?」
「うん…。朱ちゃんはここ最近コウちゃんにお熱だったけど、法を犯すほど自分を見失ってはいない。コウちゃんも、四六時中槙島のことばっかり考えてたけど、今公安を抜け出すメリットって何もないんだよ。」
「一人で集中して調べたかったとか?」
「自由に動けるメリットはあるかもしれないけど、公安の権限で使える物とか入れる場所とかもあるわけで、それらを捨ててまで一人で捜査したい理由が思いつかない」
狡噛とて馬鹿ではない。
槙島の足取りを掴むのなら、素直に執行官として捜査した方が何かと都合がいいはずなのだ。
少なくとも現時点では。
「むぅ…」
「……」
顎に手を当てて真剣に考え込むおなまーえを見て、縢は微かな違和感を思い出す。
みょーじおなまーえという女は、刑事としてはともかく、監視官としてはその性格上かなり適していると言えた。
執行官たちの行動を監視することに徹底し、事件に関して余計な口出しはせず、物言わぬ飼い主として職務を全うしていた。
ところが最近はどうだろう。
アバター事件では珍しく積極的に捜査に参加し、逆に誘拐されて被害者になってしまった。
狡噛に説教をしたり、こうやって事件の推理をしたり、ここのところみょーじおなまーえらしくない行動がかなり目立つ。
それに関係しているのかはわからないが、最近の彼女は不審な行動が時折見受けられる。
誘拐された時、結果的に無事なのは幸運だが、そもそもなぜ御堂はおなまーえを見逃したのか。
誘拐されてから気絶させられていて記憶がないと彼女は述べているが、どうにも様子が怪しい。
ついこの前の桜霜学園の事件でも、おなまーえはほんの5分程度、どこかに抜け出していた。
あの学園にホログラムの壁があるというのも、縢は初耳だった。
共に行動していたというのに、そういう類のものは一切見ていない。
見ているとするのなら、その抜け出した5分の間でだ。
(……こいつ、何か隠してる)
縢はおなまーえに対して、漠然とした微かな疑惑の念を抱いていた。