#06
夢小説設定
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「あんな言い方…」
「あ、朱ちゃん!」
続いて朱も部屋から出て行こうとする。
おそらく局長を通じて抗議しにいくつもりだ。
それを止める権利をおなまーえは持ち合わせていないが、せめて事情を説明して考え直してもらうことはできるはず。
追いかけようとしたおなまーえの肩を、征陸が抑えた。
「嬢ちゃんのことは俺に任せちゃくれないか?」
「っ…そうですね。征陸さん、お願いします。」
宜野座のプライベートは非常に繊細な内容だ。
おなまーえの口から聞くより、当事者から聞いた方がいいだろう。
朱のことは征陸に任せる。
(とすると――)
おなまーえは棒立ちのまま動かない狡噛の前に立った。
目を見て話をしたかったため、身長差故に下から睨みあげる構図になってしまう。
「狡噛慎也執行官」
「なんだ、みょーじおなまーえ監視官」
「私は、あなたが槙島を追いかけるのを止めたりはしません。止める権利も持ち合わせてはいません。」
「ああ」
「……遠回しな言い方はやめます。ここ最近、あなたは常守朱を利用し過ぎです。」
「…フッ」
利用という言葉が面白かったのか、狡噛は小さく笑う。
実際にここ最近の狡噛と朱は急激に密な関係になってきている。
それ自体は悪いことではないし、おなまーえの口出しすることでもない。
だが、今の狡噛は是が非でも槙島を捉えたい、その一心だ。
他のことに気を配る余裕なんてないし、使えるものはなんだって使うだろう。
――復讐とはそういうことだと、おなまーえは誰よりもよくわかっていた。
「『深淵を覗くとき、深淵もまたこちらを覗いている』。あなたが一番よくわかっているでしょう?暗い闇に、あの子を付き合わせるつもり?」
「あんたも常守監視官の能力に疑問符をつけるのか」
「言いたいことが伝わらないみたい。私はね、殺されてもおかしくないって言いたいんです」
「ご心配なく。俺は自分の身の振り方くらい自分で…」
「あんたがどこでのたれ死のうがどうだっていいの!」
とうとう我慢できずにおなまーえは叫ぶ。
捉え方によっては非情とも思われる発言に、無関係だった執行官たちも思わず振り向く。
「あなたは失うものは己の命くらいしかないでしょうけど、あの子は違う。家族がいて友人がいて、その上で自分自身を保ってる。でもあなたの復讐劇に付き合えば、それらを失う可能性だってあるのよ。」
「……わかってるさ、そんなこと」
わかってない。
きっとみょーじおなまーえの言葉は何も彼に伝わっていない。
少し前の狡噛なら、朱とも一線を引いて接することができていた。
だが今、彼の目には槙島のことしか目に入らなくなってしまっている。
「…っ」
おなまーえも耐えきれずにフロアから出て行く。
監視官3人とも持ち場を離れるなんて、局長には絶対言えない。
コツコツとビールを鳴らして歯ぎしりをする。
狡噛慎也はあんなにガサツで粘着質な性格ではなかった。
むしろ気持ちのいいくらいさっぱりしていて、監視官になったばかりの頃はとても丁寧に指導をしてくれた。
縢と喧嘩した時もよく話を聴いてくれ、おなまーえにとってはお兄さんのような存在だった。
(でも、今は別人のよう…)
復讐に囚われた鬼は、利用できるものはなんだって利用する。
狡噛も、そして自分も。
(……あぁ、むしゃくしゃする)
頭をかき乱す。
自分も側から見ればあんな感じなのだろうか。
おなまーえは行き場のない感情のままに、己が足を動かした。
朱と征陸はきっと休憩室で、宜野座はおそらく屋上だろう。
さて、行くところがなくなった。
(もう上がり時間だから帰ってもいいんだけど…)
なんとなく、今はまだ帰る気になれない。
残るは食堂か志恩のラボか。
(お腹は空いてないし…)
当て所なく廊下をふらつくおなまーえの背に、影が一つ忍び寄る。
「…わっ」
「うわっ!!」
背後から何者かに脅かされた。
こんなくだらないことをするのは1人だけだ。
「引っかかってやんのー」
「不意打ちは卑怯よ、縢」
追いかけてきてくれたのか。
縢が来てくれたということに、少しだけ安心する。
「さっき食ったばっかだし腹は減ってないよな?」
「うん」
「じゃ、コーヒー淹れてやっから俺の部屋でいいか?」
「助かる。行くとこなくて彷徨ってた。」
「だろうと思った」
みんなからは離れたかったけれど、今はどうしても孤独にはなりたくなかった。
「ありがとう」
「ん」
気を回してくれた縢に感謝の意を述べた。