#01
夢小説設定
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どうにも彼女は何か思い悩んでいる様子。
目の下のクマも、初対面でもはっきりわかるほど濃く現れていた。
「……なんかあったの?」
「だから報告書読めって」
「読んだってば」
「オレのじゃなくて、ギノさんの」
「……わかった」
まだ宜野座の報告書は見ていなかった。
縢のあまりの誤字脱字っぷりに頭にきてしまい、ついつい後回しにしていた。
先ほどの喧騒が嘘のように各々自分の席に着く。
縢は相変わらずぴこぴことゲームに戻った。
おなまーえは宜野座の報告書の方に目を通す。
対象を追い詰めて処理するところまでは、縢の報告書の通りだった。
興奮剤などの薬を服用していた大倉は、パラライザーが効かずにエリミネーターで処理。
(典型的なパターンだけど、配属初日にしてはヘビーな内容…)
あの新人はこれでメンタルがやられてしまったのだろうか。
エリミネーターなんて、人の肉が爆発する現場を見たら誰だって色相は濁るだろうに。
おなまーえはペラリと次のページをめくる。
(……人質も無事じゃないよね)
人質の女性もサイコハザードにより、セラピーを要する色相にまで陥っていた。
ところが、征陸と狡噛がパラライザーで気絶させようとしたところ、常守朱監視官がそれに対して抗議の声を上げる。
ついには執行官の狡噛にドミネーターを向ける始末。
(……まじか)
初日の勤務で、あまつさえプロ相手に真っ向から否定し、我を通り抜く強さ。
最近の若人でもなかなかそこまで精神力の強い人はいない。
これはかなりの大物の予感がする。
まだ出会って間もない新人相手に、おなまーえは漠然とした期待を抱いていた。
****
常守朱はとても飲み込みが早かった。
教えたことはすぐに実行できるし、何より判断が早い。
的確か否かは別としても、行動力と判断力が備わっているのは公安の一員として大きなステータスだと考えたところで、シビュラシステムの診断に狂いはないのだと改めて思う。
これなら学業の成績もかなり優秀だっただろうと問いかけて、おなまーえは目を丸くすることになる。
「は?最終考査ポイント700??」
「う、うん…」
頬を緩めて照れたように笑う彼女。
いやいやいや、本当にあのテストで700ポイント以上だす人間がいるのか。
かつておなまーえも経験した最終考査。
彼女の結果を聞いた後だととても恥ずかしくて公言できない。
休憩室でドリンクを手渡して、おなまーえは自身の缶コーヒーを開けた。
「そんなに優秀な子がきてくれて嬉しいわ。どんなイメージ持たれてるのか知らないけど、刑事課って人気ないんだよね…」
「今年も公安を選んだのも私1人だけだったしね」
自分の年もそうだった。
潜在犯と同じ釜の飯を食う羽目になる監視官という職業に、わざわざ憧れる人も少ないのだろう。
「おなまーえちゃんはどうして監視官になろうと思ったの?」
だいぶ打ち解けてきた常守朱が尋ねてきた。
その質問はむしろこちらが聞きたいくらいだったが、ここは可愛い後輩に譲ってあげよう。
「そうだなぁ」
おなまーえは考え込む。
昼下がりの日差しが窓から注ぎ込まれる。
「私、昔約束した人がいてね。その人が潜在犯になっちゃったんだ」
20年近くも前の話だ。
物心ついて間もない頃の記憶の断片。
もう彼が覚えていないであろう約束。
おなまーえは胸元にしまってある指輪に触れた。
「その人に会いたいって思ってね、いっぱい調べていっぱい勉強して、気がついたら執行官になってた」
「……その人には会えたの?」
「…さぁ」
おなまーえはどこか寂しそうに視線を下げた。
常守朱もその機微に気がついて、つい口が滑ってしまった。
「……もしかして縢くん?」
「……ヤダなぁ朱ちゃん」
おなまーえはパッと笑顔を見せておちゃらける。
「…そんなわけないじゃん」
あんな男、もう知らないんだから。
おなまーえは胸元にしまってある指輪に触れた。