#06
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雑賀譲二。
臨床心理学専門の元大学教授。
犯罪心理学に関しては権威と言っていいほどの実力の持ち主だ。
かつて公安局の刑事に向けた犯罪心理学の特別講義を受け持ったこともあったが、受講生の犯罪係数が上昇したことからその任を解かれた経歴を持つ。
みょーじおなまーえは、まだ臨床心理士を目指していた頃、一度だけ彼の講義を受けたことがある。
講義と言っても講演のような形で、中には寝ている学生もちらほら見かけた。
結論から言うと、彼の話は素晴らしいものだった。
犯罪者の行動をいくつかの事象に分けて、その傾向から犯人の性格を割り当てる。
そんな方法があったのかと目からウロコが出たことを覚えている。
だが講演後、みょーじおなまーえを含めて、受講生の犯罪係数は僅かに上昇した。
もともとそれを承知した上での公聴だったので文句はないが、それでもこの人の話は善良な民間人にとっては危険だと、身をもって感じた。
で、そんな雑賀譲二のことを、宜野座監視官はえらく嫌っている。
いや、正確には雑賀譲二個人を嫌っているのではなく、犯罪係数を上昇させる彼の思考や話し方を嫌っている。
だから狡噛と常守が揃ってフロアに入ってきた瞬間、彼は目の色を変えて2人に詰め寄った。
「ギノさんステイ!ステーイ!!」
告げ口をしたおなまーえにも一旦の責任があるため、彼女は宜野座を引き止めようと体を張って止めようとするが、惨めにもズルズルと引っ張られていってしまう。
「常守監視官を雑賀譲二に引きあわせたそうだな」
「ああ」
「それは私が紹介を頼んで…」
「どういうつもりだ?彼女を巻きぞえにしたいのか。貴様と同じ道を踏み外した潜在犯に。」
「宜野座さん!」
宜野座の心配する気持ちは最もだし理解もできる。
だが言い方というものがある。
この男はいつもそうだ。
ツンケンして愛想のないやつに見えるが、本当は抱えているものが多すぎて、常に張り詰めていないと崩れてしまう脆い人なのだ。
初対面の人には勘違いされがちだが。
案の定、朱は顔色を変えた。
「ちょっと待ってください。私を子供扱いしてるんですか?」
「事実として君は子供だ!右も左もわかってないガキだ!」
「!!」
「宜野座監視官、言い過ぎ!」
「みょーじ監視官は黙ってろ!」
「うわっ」
宜野座の激昂を抑えるために肩に手を置いたのが良くなかった。
振り払われた拍子におなまーえはバランスを崩す。
倒れる、と思った瞬間。
「キャーッチ」
椅子の向きだけ変えて、縢がおなまーえを支えてくれた。
興味なさげにしていたから、こちらのことなど見ていないのかと思っていた。
縢はグミを一つおなまーえに差し出す。
「食う?」
「…食べる」
躊躇することなく一つ頂く。
味はレモンだった。
糖分を摂取したおかげで少し落ち着いた。
みょーじおなまーえもどこか焦っていたのだと自己分析して反省する。
倒れたおなまーえの無事を確認した宜野座は謝る事すらせずにまくし立てる。
「何のために監視官と執行官の区分けがあると思う?健常な人間が、犯罪捜査でサイコパスを曇らせるリスクを回避するためだ!二度と社会に復帰できない潜在犯を身代わりに立てているからこそ、君は自分の心を守りながら職務を遂行できるんだ!」
宜野座の言い分は正しい。
だが言い方に棘がある。
「そんなのチームワークじゃありません!犯罪を解決するのと自分のサイコパスを守るのと一体どっちが大切なんですか?!」
朱の言い分は少し幼稚だ。
だが実際にチームワークが蔑ろにできないのも事実。
「君はキャリアを棒にふりたいのか?ここまで積み上げてきた全てのもの犠牲にするつもりか!?」
「っ!!」
「ストーーップ」
両者の主張が明白になったところで、おなまーえは宜野座と朱の間に割って入る。
「互いに言いたいことは言ったでしょ。これ以上は誰も得しないし、時間の無駄だから…」
「私は…!」
「…朱ちゃん?」
おなまーえの言葉を遮って、朱はなおも主張を続けようとする。
彼女は肩を震わせている。
まずい。
宜野座の言い方に、ついに頭にきてしまったらしい。
怒髪天を突く。
「私は、確かに新人です。宜野座監視官は尊敬すべき先輩です。しかし階級上は全くの同格ということを忘れないでください!」
朱の反論に、興味なさげにしてしていた執行官たちがこちらに目を向けた。
感情的になるのを無理やり抑えて、震える声で常守朱は続ける。
「自分の色相はちゃんと管理できています。いくら先輩とはいえ職場で…執行官たちの目の前で、私の能力に疑問符をつけるような発言は慎んで頂きたい!!」
「…おぉ…」
おなまーえは思わず感嘆の声を漏らした。
今度はこちらの言い分が正しい。
「……」
宜野座は何も言わずに朱と狡噛の横を通り抜けて、フロアから出ていく。