#06
夢小説設定
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「っ!!〜っ!!」
「……アンタって本当に警戒心なさ過ぎ」
「っ!」
腕がパッと解かれる。
よろけて前につんのめるも、すぐさま振り返って男を睨みつける。
「……お早い再開じゃない、チェ・グソン」
おなまーえを壁に引きずり込んだのはチェ・グソンだった。
彼女は慌てずに冷静に向き合う。
「なんの真似?また誘拐でもするつもり?」
「いいえ。ただ、あんまり壁の前で長時間居座られてこの場所がバレるのは嫌だったので。」
特別攫う気がないという発言に安堵する。
同僚にまた心配をかけさせることはなさそうだ。
警戒心を解き、おなまーえは辺りを見回す。
行き止まりのように見えた部分は廊下だった。
自分の引き込まれた壁をタッチするが、なんの手応えもなくすり抜けてノイズが発生する。
どうやら壁そのものがホログラムでできていたらしい。
「ここの廊下は旧校舎に続く回廊だったらしいんだが、増減築を繰り返すうちに図面から抜け落ちたらしくてね。私の一休みする場所として利用させてもらってたんですわ。」
「あの女学生はあなたのホロコス?」
「おや、バレてしまいました?あのデザインには少々自信があったんですけどねぇ」
「なら次は表情について研究してみることをオススメしとくよ」
「表情?」
「大雑把に同期はしてあるみたいだけど、全体的に顔のあたりが雑過ぎ。筋肉が全く動いてなくて作り物感満載だったわよ。」
先程廊下で見かけた作り物のような横顔は、まるで着ぐるみのようであった。
「そりゃいいアドバイスを聞いた。次やるときは活かせるように努力します。」
相変わらずひょうひょうとした、掴み所のない男だ。
外国人という割には日本語も堪能だし、もしや彼の国の工作員だったりするのだろうか。
「そのご様子だと、お嬢さん。アンタ俺のことを仲間に言わなかったようだね。」
「…勘違いしないでよね。別に信用したわけじゃないから。」
「はいはいわかってますよ」
利用するものはいくらでも利用する。
復讐を諦めていたおなまーえに火をつけたのはチェ・グソンだ。
シビュラの正体を暴くと言ったからには、キチンと責任を取ってもらわなければ。
「……でも、今回の事件にもアンタが関わっているってことはよーくわかった」
「……」
「公安は、まだチェ・グソンという男の正体までは辿りついてないけど、凄腕のハッカーがいることは薄々感じ取ってる」
「ほう」
「私はね、アンタのことは見逃すけど、アンタの駒のことは刑事としてちゃんと捕まえるつもり。その捜査の果てに、私の仲間がアンタまで辿り着いちゃったら、そのときは仕方がないって諦めるよ。」
こっちには狡噛も、縢も、征陸も、六合塚もいる。
いずれ、公安はきっとこの男に辿り着く。
その時になっても、おなまーえは絶対に擁護したりしないし、逆に捜査の手助けもしないと宣言したのだ。
「いいですよ、捕まえられるものならね」
「もし捕まえられなかったら、シビュラシステムのこと教えてね」
「はい。それが最初の約束ですから。」
律儀なのかそうじゃないのか。
いまいちこの男のことが掴めない。
そう言えば妹に似ているとか言っていたきがするが、その妹はどうしているのだろうか。
(……気になるけど、聞いちゃだめだね)
彼の人間性に触れてしまえば、チェ・グソンという男を利用できなくなる。
彼とは今の距離感がベストだ。
「特に私に用があるわけじゃないのよね?」
「ええ、帰りたければどうぞそちらから」
「じゃ帰る」
おなまーえはホログラムの壁をすり抜ける。
「あ、爆弾のお礼はまた今度するからね」
思い出したかのように振り向くと、やはりそこには壁と大きな花瓶しかなかった。
本当にすごいホログラム技術だ。
才能の使いどころさえ間違えなければ、この手の業界で名の通った人になれたのではないだろうか。
「やーっとみっけた」
「!!」
ホログラムの壁とは反対の方向から縢が駆け寄ってきた。
「追いかけてきたの?」
「ったりめぇだろ。はぁ…心配かけさせやがって。今までどこにいたんだよ。」
「えっと、ちょっと授業サボってた生徒がいたから、追いかけてた…」
「はぁ?んなの放っとけよ」
相当探し回ってくれたのだろう。
縢は息切れしていた。
チェ・グソンと話していたのは時間にして5分ほどしか経っていないはず。
壁から出てくるところを見られなくてよかったと胸をなでおろす。
「ほら、行方不明者の親御さんに連絡すんだろ。行こうぜ。」
「うん…」
おなまーえは半分だけ振り返って、飾り物の花瓶に手を振った。