#06
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2日後。
事件についてなんの進展もないまま、ついに2つ目の遺体が発見された。
葛原沙月と同様、遺体はプラスティネーションが施され、まるで芸術品の如く公園のど真ん中に飾られていた。
「2件目か…」
「これが藤間幸三郎の犯行なら6件目ですよ」
宜野座の呟きに、六合塚が鋭く斬りかかる。
「……んー」
おなまーえはまじまじと遺体を見つめる。
人形のようだと感じた肌は完全にプラスチックに変質していた。
無機質なツヤ。
バランスのとれた造形。
一見美術品かと見間違う程の完成度。
(……なんか…オシャレなんだよね、コレ)
不謹慎だと言われるから口には出さないが、先の事件の遺体にも同じような違和感を感じた。
切断面は丁寧に真っ直ぐ揃えられ、採寸したかのようにバランスよく組み合わされている。
植物の装飾も程よく遺体を引き立てていて、趣味ではないが、素直に綺麗とさえ感じた。
「どしたん」
遺体と睨めっこをするおなまーえに、縢が声をかける。
「……いやさ、これが藤間の仕業なら、随分と趣味が変わったんだなーって」
「どういうこと?」
「だって、狙われたのって連続で女の子だったし、薔薇を添えるなんて、なんか感性が女性的だなって」
標本事件の写真は既に閲覧済だ。
あの事件では、被害者は年齢・性別ともにバラバラで、切断面も決して上手な切り方とは言えなかった。
何より異なっているのは、飾った遺体に花などの華美な装飾品はつけていなかった点である。
「3年もありゃ、趣味趣向も変わるんじゃない?」
「そんなもんかなぁ」
みんな心のどこかで藤間が犯人なのではないかと疑っているが、おなまーえにはどうしてもそう感じられなかった。
(……こんな時にコウちゃんがいてくれれば)
いない人のことを頼っても仕方がないのだが、ほんの少し宜野座を恨んだ。
****
翌朝、桜霜学園から学園への侵入と生徒への接触が許可されたため、宜野座は行方不明になった生徒の部屋の捜査、おなまーえは縢と共にホロコスを被って生徒への聴取に当たっていた。
「はーい、ごきょーりょくありがとうございまーす」
聴取に協力してくれた生徒に手を振り、おなまーえと縢は頭を悩ます。
「やっぱ2年生で2人いなくなってるね〜」
「もー、なんで教師は関与しないんだろ」
「責任とか体裁とか色々あるからじゃない?全寮制で警備が頑丈なのが取り柄なのに、2人も行方不明なったなんて知られちゃあ信用ガタ落ちだし」
「関わらない方が信用なくす気がするけどなぁ」
学園の中庭を、女の子が2人、仲睦まじそうに目の前を走っていく。
もうすぐ授業が始まるというのに長話をしていて遅れそうなのだという。
微笑ましいことだ。
「走るの一つとっても上品。結構お嬢様学校だよね、ここ。」
「箱入り娘の育成工場って感じするけどね。みょーじ監視官もここに通えばよかったんじゃない?そしたらちょっとはお淑やかな女になっただろうし。」
「こんなに可愛くて可憐な美少女、この世に2人といないって自負してるけど」
「寝言は寝て言え。つぅか、少女って年齢でもないだろ。」
「るっさい。女性はどれだけ年取っても女の子なの。そのちっさい頭に叩き込んでおきなさい。」
そろそろ授業が始まる。
事情聴取はまた1時間後だ。
「しょうがない、実家にも問い合わせるか」
行方不明の生徒の連絡先は既に手に入っている。
この空き時間を利用して電話をかけてみよう。
おなまーえは縢を連れて一旦宜野座たちと合流しようとした。
――フッ
そのとき、おなまーえの位置からしか見えない場所で、ひとりの学生が廊下を歩いていくのが見えた。
(今の子…)
彼女が歩いていく方向には、確か空き教室しかなかったはず。
これから授業が始まるというのに、サボりだろうか。
それにしては人目を憚る様子もなかった。
「……」
一度気になったら確かめるまで落ち着かないのが人間のサガ。
「ごめん縢、ちょっと忘れ物したから先戻ってて!」
「は?お前また1人でどっか行こうってんじゃないだろうな」
「そんなんじゃないってば。直ぐ合流するから、生徒さんの実家への連絡よろしく!」
「あ、オイ!」
心配してくれる縢には悪いが、あの学生が妙に気になる。
一瞬しか横顔が見えなかったが、まるで表情が作り物のように見えたのだ。
先程の女学生の跡を追う。
角を曲がる影が見えた。
おなまーえはすかさずに走る。
「――あれ?」
だが少女が進んだ先は壁だった。
床の間のように少し窪んだ場所に、大きなツボに生けられた花が飾られている。
(……見間違い?)
でも辺りを見渡しても、先程見かけた少女の姿は見当たらない。
やはりこの角を曲がったのは間違いない。
おなまーえは不振に思い、ツボの後ろの壁を触ろうと手を伸ばした。
――グイッ
「ッ――」
次の瞬間、伸ばした手が壁に引きずり込まれた。
驚きのあまり悲鳴をあげるよりも先に、大きな手がおなまーえの口を覆う。
そのままずるずると引き込まれ、おなまーえは壁の奥へと侵入した。