#05
夢小説設定
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数日後。
相変わらずおなまーえはファイル整理という名の罰をこなしていた。
もうそろそろ終わりも見えてきているため、縢のフォローはもう不要だ。
その日、執行官・監視官そして分析官の唐之杜志恩が一係のフロアに召集されていた。
艶やかしい香水の香りが鼻を掠める。
「八王子のドローン事件で金原が使ったセーフティー・キャンセラーと、御堂のホログラフクラッキング。まあどっちのソースコードもほんの断片しか回収できなかったんだけど……明らかに類似点がある。」
一見なんの関係もなさそうな事件だったが、唐之杜の分析の結果、似たようなプログラムが組み込まれていたらしい。
「同じプログラマーが書いたって線に、私は今日付けてるブラジャーにかけてもいい」
「いらねーよ!」
縢のツッコミがすかさず入った。
六合塚がピクリと反応したのは見なかったことにする。
(にしても…)
おなまーえの頭に、とある男の顔が浮かぶ。
『私の名前はチェ・グソン。しがないエンジニアですよ。』
彼はそう自己紹介していた。
(……どこがしがないエンジニアよ)
チェ・グソンがドローンの事件に関与している確証はないが、これらのプログラムはほぼ間違いなく、彼が作った物だと予感した。
チェ・グソンが高度なハッキング技術を持ったプロだとすれば、金原や御堂があんな事件を起こせたことに理由がつく。
(だからシビュラシステムに興味があるのか、あの男)
どんなハッカーでもシビュラシステムの中枢にアクセスできたことは1度たりともない。
ある人はスーパーコンピューターだと言うし、ある人は超高性能なAIだというが、核心部分は謎に包まれたままだ。
「……」
今ここでおなまーえがチェ・グソンのことをバラせば、こちらは一気に形成逆転できるし、次起こり得る事件を未然に防ぐこともできるだろう。
だがそれでは、自分はもう二度とシビュラシステムの真相に近づく機会を失う。
――秩序を取るか、欲望を取るか
(……私も大概ひどい人だね)
チェ・グソンもなかなかだが、自分も人のことを言えない。
おなまーえは黙って胸元のリングをいじる。
金原も御堂も電脳犯罪のプロからバックアップを受けているという宜野座の推理に、おなまーえは肯定も否定もしなかった。
「しかし肝心の金原の供述がこれじゃあなぁ…」
征陸は、宜野座による金原の事情聴取の録画を再生する。
『本当だ!ある日いきなり俺宛てに郵送されてきた!送り主の手紙には名前もなくて、ただあの工場に恨みがあるから一緒にめちゃくちゃにしてやろうって…!』
宜野座のチクチクとしたこわーい尋問に、金原は必死に言い訳をする。
心理学的に見ても、彼が嘘をついているようには見えない。
「愉快犯…にしては悪質ですよね」
「そもそも金原が殺人を犯すと、送り主はどうして予測できたんだ?」
「案外、金原と御堂の知古だったりとかはありません?」
「一応それも疑ってはみたけど、両者とも交友関係はかなり狭くて、少なくともハッキング技術を持っているような友人はいなかったわよ」
そりゃそうだ。
チェ・グソンはあくまで仕事で御堂に付き合っていると言っていた。
交友関係があるはずがない。
まるで人狼の狂信者役になったかのような気持ちで、おなまーえは適度に会議に参加する。
「別に知り合いじゃなくたって、とっつあんも職員の定期健診記録だけで金原に的を絞ったんだ。同じマネをできるやつがいた。あの診断記録が部外秘だったわけじゃない。」
「じゃあそいつが御堂を手伝った動機は?」
「……動機は金原と御堂にあった。ヤツは、きっとそれだけで十分だったんだ。」
狡噛の声色が明らかに変わる。
一同の視線が狡噛に向いた。
彼の目は憎しみに染められ、獲物を追い詰める肉食獣のようであった。
「殺意と手段。本来揃うはずのなかった2つを組み合わせ、新たに犯罪を創造する……それがヤツの目的だ。」
狡噛は乱暴に立ち上がり、部屋を出て行った。
彼の言わんとしていることはわかった。
3年前の、佐々山執行官の殺された事件に、様式が似ていると言いたいのだろう。
それが的を得た推理なのか、こじつけなのかはわからない。
「……」
チェ・グソンは佐々山の仇で、狡噛の追い求めていた犯人と繋がっているのかもしれない。
「……」
それでもおなまーえは、あの細目の男のことは一切公言しなかった。
#05 終