#05
夢小説設定
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こうして寝顔をまじまじと見る機会もなかなかない。
写真でもとっておこうか。
(……黙ってれば可愛い顔してるじゃない)
よく似合っている茶髪。
一重の瞼。
とんがった唇。
少し太い首。
浮き出た鎖骨。
筋張った腕。
(…って、かわいくないかわいくない)
どっからどう見ても男らしい。
フィルターがかかるとなんでも良く見えてしまうのが恋の難点だ。
少しムカついたので頬をぐりぐりと突く。
「えいえい」
「…ん…」
身じろぎこそすれど、起きる気配はない。
だんだんと嗜虐心が増してきた。
「寂しいの?ほらほら、おなまーえお姉さんが一緒にいてあげますよー」
ふざけ半分で縢の布団に足を入れる。
顔が近づいたことにより、酒臭さが増す。
「……どっからどう見ても何にも変わらないんだけどなぁ」
もっと間近で縢の顔を観察する。
潜在犯だなんて、言われなければ気がつかないものだ。
現に今社会に蔓延っている犯罪者も、ぱっと見は普通の人と変わらず、案外普通に生活していたりもする。
そいつらがのうのうと外を歩いていて、なにもしていない縢が潜在犯として隔離されているのは納得がいかなかった。
(
シビュラがなければ、おなまーえと縢は普通に小学校に通い、普通に進学し、普通に受験して、普通に就職していたはずだ。
こんな、執行官と監視官なんて主従の関係になることもなかっただろうに。
『殺したいほど憎んでるよ、私は』
チェ・グソンに焚きつけられたとはいえ、この発言は本心だ。
彼からの連絡は未だにない。
最早、夢だったのではないかと思うほど非現実的な逢瀬だった。
チェ・グソンを信用したわけではない。
けれど試す価値はある。
「……ふぁーあ」
大きなあくびをする。
先ほども思ったが、縢の布団は妙に居心地が良い。
「あんたが潜在犯にならなきゃ、私たち付き合ってたのかなぁ…」
トロンとした目で、縢の頬をツンツンと突く。
この15年間で縢は大人になってしまった。
それなりに恋愛もしてきたことだろう。
おなまーえの知らないことだって、やったことがあるかもしれない。
「……バーカ」
本当にバカだ、私は。
ヤケになって時任と付き合い、別れる理由も原因もないため、ズルズルとここまできてしまっている。
結婚の日取りが先延ばしになることを、心のどこかで安堵している。
時任のことでは嫌いではない。
人として尊敬もしているし、理想的な旦那だとも思ってる。
彼と結婚すれば人並みに幸せになれることもなんとなくわかる。
(……でも、そうじゃないんだよ…)
胸元のリングをいじる。
縢にはこの指輪のことは言ったことがない。
まさか5歳の時のおもちゃを、おなまーえがいつまで経っても持ってるなんて思わないだろうし。
おなまーえはそのまま目を閉じて、欲に抗うことなくそのまま寝落ちた。
****
意識が覚醒する。
電気が付けっ放しだ。
「……あー」
寝起きはいい方なのですぐに体を起こそうとしたが、どうしようもないほどの頭痛に見舞われる。
(ダッセェ…二日酔いか…)
昨晩、朱のペースにつられてかなり飲んだ記憶がある。
女子に負けるなんて、ちゃちなプライドが許さなくて、ついつい容量をオーバーしてしまった。
水を飲もうと体を起こして、自分の隣の毛布が盛り上がっていることに気がつく。
嫌な予感がした。
(……おいおいおいおい、ウソだろ)
やってしまったか?
昨晩の記憶を辿る。
おなまーえを起こして、夕飯を食べて、晩酌をして、朱に標本事件のことを話して……
(それから?それからオレどうした!?)
落ち着け、まずは状況把握だ。
服は着てる。
下着もバッチリ。
ベルトもそのまま。
大丈夫、間違いは起こっていないはず。
(つーか、そもそもこれどっちだ…)
常守朱か、みょーじおなまーえか。
(まぁでも多分後者なんだろうな…)
自分が布団に引きずり込んだのか、おなまーえが入ってきたのかはわからないが、十中八九彼女なのだろう。
(どんな顔すりゃいいんだよ)
ラッキーと思う反面、おなまーえに嫌がられたらどうしようという懸念もあった。
縢は恐る恐る毛布をめくった。
「……は?」
そこにあったのはクッションの山。
意図的に人のサイズと形に盛られている。
一番上のクッションには手紙が貼り付けられていた。
『私かと思った?残念でしたー!朝ごはん軽めの作ってあるよ。じゃ、私今日日勤だから。みょーじ』
それはつまり、縢の思考をおなまーえが予測して、自分はまんまとその通りに頭を動かしてしまったわけで。
「あんのヤロウ…」
おちょくられたことに意識を持っていかれていた縢は、おなまーえが朝方まで隣で寝ていただなんて、思いもしなかったのである。