#01
夢小説設定
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「このバ縢!!」
「っ!いきなり耳元で叫ぶなって!」
「何度呼んでもあんたが返事しないからでしょ!」
今日も今日とて絶好調。
一係名物、夫婦漫才のはじまりはじまり。
みょーじおなまーえと縢秀星の口論は犬も食わない痴話喧嘩の如く。
本人たちは至って真剣なので、周りもとうとう仲裁を諦める始末。
宜野座は当直を終えて帰宅し、六合塚は恋人のところへ行ってしまった。
「だいたい職務中にゲームなんかするなっつーの!」
「あ、おい、返せって!」
「言いたいことがあるの!聞きなさい!」
イヤホンごとゲーム機を奪い取る。
座っている縢と立っているおなまーえだと、おなまーえの方にリーチがある。
おなまーえはゲーム機の代わりに、赤字だらけの書類を叩きつけた。
「まず!こんな誤字脱字だらけの報告書をよくもだそうだなんて思ったわね!?おかげで私がどれだけ修正したと思ってんの?」
「俺は頼んでねーよ!」
昨日の縢からの報告書は、とてもとても成人男性が書いたとは思えないものだった。
よくも宜野座は一昨年までコレを看過していたものだ。
「内容も内容よ!なんで対象取り逃がしてんのアンタ」
昨夜の対象は『大倉信夫』。
街灯スキャナで色相チェックに引っ掛かり、セキュリティドローンがセラピーを要求したが拒絶して逃亡。
後ろめたいことでもあったのだろう。
逃走中に女性を人質にとり、ビルの乱立する廃棄区画に逃走。
廃墟ビルに立て籠もり、人質に対し暴行および強姦を働いていた。
それを始めに見つけたのが縢秀星だった。
「見つけたところまでは褒めてあげる。よくやった。さすがチワワね。」
「チワワじゃねーっつーの!」
「でもね、チワワ。パラライザー外すとかいったい何事よ!?」
「外してねーよ!ちゃんと報告書読んだ?興奮剤キメてたの!あのおっさん!」
「ヘッドショットはFPSの基本中の基本でしょ!?ゲームばっかしてるくせにこういう所で役に立てなくてどうすんのよバカ」
「バカっつーな!!」
ああ言えばこう言う。
相手の揚げ足を取って、罵倒を浴びせて。
これが一係の名物だとは片腹痛いものだ。
「このデブ!」
「スレンダーな足が目に入らないの?このチビ!」
「チビじゃねーし!平均くらいあるわこのハゲ!」
「ハゲてないですぅー。フサフサでサラサラですぅー。自分が気にしてるからってわざわざ言わなくてもいいのよ?」
「気にしてねーし!」
報告書とはなんだったのか。
ただの罵り合いと取っ組み合いに成り果てた2人の元に、一人の女性が恐る恐る近づく。
「……あ、あの…」
耳障りな男の声とは別に、困惑した可愛らしい声が一係のフロアに響いた。
おなまーえはふっと顔を上げる。
見覚えのない、ショートヘアのよく似合う女の子が入口に立っていた。
「ん?どなた?」
「あー、アレ。昨日付けでココに配属された新人ちゃん。」
「え、まじ」
昨日、みょーじおなまーえは非番だった。
雨も降ってたしラッキーなんて思っていたが、そういえば新人の初デビューの日だった。
こんなに可愛い子なら、残業つけてでもデビューに立ち会いたかった。
新人に気を取られている縢の肩を掴み、投げ技を仕掛ける。
「うぉ!?」
体の重心移動を意識して持ち上げ、一気に叩き落とす。
――ドシャッ
予想以上に気持ちよく決まった。
「ってぇー!この女!」
縢のことは無視しておなまーえは新人に歩み寄る。
「あー、あなたが常守朱さん?」
努めて愛想よく。
何事も第一印象が肝心だ。
新人が警戒しないように口角を緩めて、おなまーえは話しかけた。
もう手遅れだとは思うが。
「は、はい!昨日付けで刑事課に配属になりました常守朱です。」
「私は一係の2人目監視官、みょーじおなまーえ。歳はそんなに変わらないはずだから、気さくに名前で呼んで。」
「え…は、はい」
常守朱は、どこかそわそわと落ち着きがない。
初対面の女性の凶暴性に怯えているわけではなさそうだ。
何か聞きたいことでもあるのだろうか。
「朱ちゃん…って呼んでもいい?」
「…!いいよ」
ふわっと彼女は柔らかく笑った。
よかった、呼び方一つでこうも緊張をほぐしてもらえるなら、私の心理学の勉強も無駄ではなかった。
「ここだと私くらいの歳の女の子少なくて。朱ちゃん。うん、朱ちゃん。いい響き。」
「わ、私も、おなまーえちゃんって呼んでも…」
「全然オッケー」
もっと神経の図太い愛想のない女の子を想像していたため、彼女の笑顔にはおなまーえもほっと胸を撫で下ろした。
チラリと時計を確認するとまだ13:40だった。
新人の出勤時刻は14:30だった気がする。
「随分と早い時間だけど何か困りごと?」
「えっと……その、狡噛さんの容態を聞きたくて…」
「コウちゃんがどうしたの?」
「え?」
「…え?」
「そ、その…」
どうも話が噛み合わない。
おなまーえはまだ昨日の報告書を全ては把握していなかったのである。
見かねた縢がおなまーえの服の裾をチョンチョンと叩く。
「コウちゃん今先生んとこ。あとでギノさんの報告書みとけよ。」
「え、う、うん」
昨日何かあったのだろうか。
おなまーえは未だ状況が把握できないながらも、狡噛の居場所を朱に教える。
「えっと、狡噛さんね。総合分析室NO.2ってところにいるらしいから、そこで唐之杜志恩って女性を訪ねて。」
「総合分析室だね。ありがとう。」
「14時半から色々と教えなきゃいけないことたくさんあるから、それまでには戻ってきてね」
「うん」
常守はトボトボと重い足取りでフロアを出て行った。