#05
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「すぴゃー…」
「……すっごいよく寝てるね」
「起こさないでやって」
縢の部屋にきた朱は、ベットの上でそれはそれは心地よさそうに寝ている先客を発見した。
みょーじおなまーえと縢秀星は幼馴染だと聞いてはいたが、部屋に入り浸るほどの仲だとは知らなかった、と素直に漏らせば「今日はオレが朱ちゃんに手出さないか心配で来たんだって」と返された。
「ふーん。ちょうどいいや。おなまーえちゃんにも狡噛さんのこと聞きたかったし。」
余計な心配だと素直に思う。
朱は近くのゲーム機に手を伸ばした。
昔ながらのレトロなゲーム機が、縢の部屋には所狭しと並んでいる。
「そいつもあんまし詳しくないとは思うけどね。でもさ、なんでデータベースで調べないわけ?監視官なら権限あるっしょ。」
「ファイル閲覧したら狡噛さんにバレちゃうじゃない」
「バレちゃまずいわけ?」
「うーん…」
「つうか、そんなにコウちゃんのことが気がかりなのかい?もしかしてそれって恋?」
「プッ、アハハハハッ!」
縢の言葉に朱は吹き出した。
恋ときたか。
まぁ確かに似ているかもしれないが、この好奇心は恋ではない。
純粋に、この人のことをもっと知ってみたいと思っただけだ。
たとえ彼が女だったとしても、常守朱は狡噛という人物に興味を示していただろう。
「逆に聞くけど、縢くんはおなまーえちゃんのこと好きなの?」
「はぁ?なーに言ってんのかなー、朱ちゃんは」
「だっていつも仲良いから」
「あれのどこを仲が良いって思うわけ」
「んー…喧嘩するほど仲が良いっていうじゃん?」
フライパンに調味料を加えて炒める。
そうか。
配属されて間もない朱にも、この気持ちはバレてしまっていたのか。
「幼馴染なんでしょ?」
「腐れ縁だよ、腐れ縁」
「だって、縢くんはおなまーえちゃんを守って潜在犯になったって聞いたよ?」
「誰から?」
「本人から」
「あー、もう…」
奥の寝室でおなまーえがよく眠っていることを確認して、縢は手元に視線を戻す。
別に隠しているわけでもない。
唐之杜や征陸にはたびたびからかわれる程だ。
でも幸か不幸か、本人にだけは未だに悟られた事がない。
小さい頃からずっと、この気持ちは変わらないというのに。
「……んー……オレはあいつのこと好きだけど、あいつは多分好きじゃないと思うぜ」
トントンとフライパンの取っ手を叩いて食材をひっくり返した。
なんて事のない風に、料理の片手間に答える。
「え、なんで?」
「あいつ婚約者いるから」
「え!?」
朱は意外だと声をあげた。
自分からしてみれば、むしろおなまーえの方が縢のことを好いているように見える。
そのくらい彼女は縢を特別視しているし、本人もそのことには気がついているはずだ。
なのに婚約者とは一体何事か。
「おなまーえちゃん、縢くん追いかけて監視官になったって聞いたよ?」
「それも本人から?」
「うん」
「…ほんと、よくもまぁ恥ずかしげもなく言えるもんだな」
言葉に反して、彼の表情は心なしか緩んでいた。
「ま、その話はいいよ。オレもあいつもバカだったってだけだから。」
おなまーえのことはわかっているつもりでも、つい子供扱いしてしまうのは幼い頃からの癖なのだろう。
こんなことできるはずがないとタカをくくって、結果的にそれで何度も痛い目を見ている。
全く、自分もおなまーえもいつまで経っても進歩がない。
できたおかずを皿に盛り付ける。
我ながらとても美味しそうだ。
朱は納得がいかないというように食い下がる。
「……告白、しないの?」
「しねーよ」
「しなってば。おなまーえちゃんきっと待ってるよ。」
「だからしねーって」
だって告白してしまったら、今の心地よい関係が壊れてしまうじゃないか。
返事の可否に問わず、この気持ちが彼女に知られてしまえば、おなまーえは要らぬ責任を感じて婚約者と別れてしまうだろう。
それはいけない。
時任とかいう男には腹わたが煮えくりかえる程度にはムカついてはいるが、それと同時に小さじ一杯ほどの感謝もしているのだ。
潜在犯の自分ではみょーじおなまーえと添い遂げることはできない。
模範的で善良的で人畜無害な人物が彼女に寄り添ってくれるのであれば、自分はそれで満足だ。
否、そう言い聞かせてきた。
「朱ちゃんももうちょっと大人になったらわかるよ」
「とか言って、そんなに私と年変わらないじゃん」
「あのねぇ、これでもオレってば人生の先輩よ?恋だけじゃなくて、悪い遊びは一通りこなしてるんだぜ。健全優良児の朱ちゃんなんて想像もつかない世界を覗いてきたわけさ。」
「え〜」
話を逸らされ不服な顔をする朱にビンを一本差し出す。
「たとえばコレ」
「ジュース?」
「違う!酒だよ、本物の酒!征陸のとっつぁんのお裾分け!あ、朱ちゃんこれテーブル並べといて」
料理の皿を並べておくように頼み、縢は朱に話しかけつつ、寝室の方に足を向ける。
「今じゃみんな中毒性が怖いからって安全なメディカルトリップかバーチャルばっかじゃん?」
「…すや…」
「ほら起きろ」
「ん、んー……」
おなまーえにかけた布団を剥ぐ。
寒いと身をよじる彼女の背に手を回し、無理やり体を起こさせる。
まるで介護のようだ。
くったりとしていながらも再度布団に倒れ込まないのは、かろうじて起きようという意思があるからだ。
「飯できてっから」
「…ん」
まだ虚ろな目をしているが、自分の足で歩けてるのでもうじき覚醒してくるだろう。
縢とおなまーえはリビングに戻る。
配膳を終えた朱は、ワインの入ったビンを持ち上げ、ラベルをまじまじと見つめていた。
「ねぇ、コレって飲むんだよね?火つけるんじゃなくて…」
「あ?」
「う、ううん、何でもない」
おなまーえがソファに腰をかける。
「……おいしそ…」
大きなあくびをする彼女は手前の皿からつまみ食いをした。
「起きた?」
「…うん」
焦点も定まり、やっと朱を認識したようだ。
全く、小さい頃から寝起きが悪いのは相変わらずなんだから。
箸の用意をして、縢はまた朱に話しかける。
「ま、酒とかそういうイケナイお楽しみも今じゃ俺らの特権ってわけよ」
「ふーん…」
朱は尚も興味深げに酒を見つめる。
「なぁに?気になんの?」
「まぁ、ちょっとは?」
「んじゃ、朱ちゃんも試してみる?オレもおなまーえも、酔ったら口が軽くなって喋っちゃうかもよ?」
縢は人数分のグラスを手に取った。