#03
夢小説設定
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時任と話を終え、おなまーえはやる気に満ちた顔つきで車に戻った。
時任の家でパソコンを借りて、レイニーブルーと接触することに成功したのである。
この後14時に、今のレイニーブルーを操っている人と会う約束も取り付けた。
あとは縢にも協力してもらい、その人物に会いにいくだけだ。
制限速度を少しオーバーして帰路につく。
一度公安に戻って、宜野座に報告してからレイニーブルーの中の人と会遇しよう。
「ふふ…」
「……」
自らの功績というものは嬉しいもので、おなまーえは頬が緩んでいた。
だが助手席に座っている縢秀星には、その顔が恋人に会えた喜びを表しているように見えた。
「縢、ちょっと手伝って欲しいことがあ…」
「断る」
「いいじゃんちょっとくらい。あと少しだからさ、手伝っ…」
「断るっつってんの」
いつもの軽口とは違う。
縢は低い声で冷たく突き放した。
おなまーえもそれに気がつかないほど鈍くはない。
「……え?」
高速道路を降りるため、ハンドルから手が離せない。
縢の表情を見ることができない。
彼は今どんな顔をしている?
「な、なんで?」
おなまーえは恐る恐る尋ねた。
「『なんで』?自分の胸に聞いてみろよ」
「……わからないから聞いてる」
縢がここまで不機嫌になる理由がどうしてもわからない。
口喧嘩はしょっちゅうだが、こんなに責めたてるような口調を見るのは初めてだ。
「ねぇ、私あんたになんかした?」
「してねぇよ、オレには」
「じゃなんでそんな不機嫌なの」
「不機嫌じゃねぇし」
「いや不機嫌でしょ。明らかにいつもと違うでしょ。」
「……」
「ねぇ、何に怒ってんのよ」
高速道路を降りる。
ここから公安本部までは5分もかからない。
「……お前の機嫌が良すぎるからそう感じるんじゃねぇの?」
「……そんなに私が嬉しそうにしてるのが嫌?」
「ああ、腹立つね。職務中に男に会ってくるやつなんてさ。」
「……あ」
そこでようやく合点がいった。
縢は待機命令を無視して、おなまーえと時任が会っているところを見ていたのだ。
捜査中に婚約者のところに行ったことを、縢は非難しているのだ。
理由はわかった。
あとは誤解を解くだけだ。
違う、あれは捜査の一環で、別にやましい気持ちなど一つもなかった。
そう言葉にしようとしたおなまーえより先に、縢は再び口を開いた。
「ほんと最低だな。職務怠慢だけならまだしも男のところとは。」
「あのね、あんた勘違いして――」
「いいよ隠さなくて。どうせ婚約者とイイコトしてたんだろ。気持ち悪りぃ。」
「は?」
縢の言うイイコトがなんなのか、一瞬分からなかった。
みょーじおなまーえには、生まれてこのかた、そういった経験がなかったからである。
イイコト?
イイコト。
イイコト。
「……!!」
数拍おいて、彼女はハッとして顔を真っ赤にする。
恥じらい半分、怒り半分。
今すぐに縢に殴りかかりたい気持ちになったが、残念ながらハンドルから手を離すことができない。
「んなわけないでしょ!?バカじゃないのあんた!?」
「ハイハイ、図星だからって別に怒鳴んなくてもいいですよー」
「図星なわけないって!なんで、あんたは……」
勘違いされた悔しさと、変な妄想をされた不快さでおなまーえは言葉がでない。
誤解を解かなきゃいけないのに、唇が震えて仕方がなかった。
もう間も無く公安本部に着く。
(……こんなことなら慣れない事するんじゃなかった)
新人のフレッシュさと青臭い正義感に触発されて、つい捜査にのめり込んでしまった。
心当たりがあるからって、無理して積極的になることなかった。
いつも通り宜野座の言うことを聞いて、執行官のやることを静観してればよかった。
(それに……なんで今になってそういうこと言うのよ)
ただひたすらに、悔しかった。
己の失敗を転嫁しているのは重々承知している。
売り言葉に買い言葉で、勢い余って作ってしまった彼氏。
きっと縢は悔しがるだろうと思っていた。
いっそ後悔してくれればいいとさえ思っていた。
(でも、あんたは無関心だったじゃない…)
唇を噛み締め、おなまーえは車を本部のエントランスに寄せる。
あらぬ疑いをかけられた悔しさ。
今になっておなまーえの恋人に関心を示した悲しみ。
それらがパンパンに膨れ上がり、おなまーえの心臓を息苦しいほどに締め付けた。
「ま、オレも鬼じゃねぇし、ギノさんには言わないでおいて――」
「降りて」
おなまーえ自身もびっくりするほど低い声が出る。
冷たくて、有無を言わさない威圧的な声。
「……あ?」
「降りなさい、縢執行官」
おなまーえは再度警告し、言葉を続ける。
「私はこれから捜査に向かう」
「は?何いってんの?ここでオレのこと降ろして執行官にもしものことがあっ――」
「自分の責任は自分でとる。いいから降りて。あんたの力なんて要らない。捜査は私1人でやる。」
「っ!!」
縢の頭に血が上った。
「……ああそうかよ。じゃあ言うこと聞いてやるよ!!」
乱暴に車のドアを開け、縢は外に飛び出す。
監視官の勤めとして、彼がしっかりエントランスに入ったことを確認して、おなまーえはへなへなと脱力した。
「……バ縢…」
普段は察しもよく、捜査では鋭い洞察力を発揮するくせに、こう言う時は鈍いんだから。
「私の気持ちくらい、なんでわかってくれないの…」
このすれ違いが、自分の蒔いた種なのは自覚している。
自覚しているからこそ、やるせない気持ちでいっぱいになり、おなまーえはハンドルの縁を拳で叩いた。
もう一方の手で胸元の固い感触を確かめる。
おなまーえの体温で温められた、おもちゃの指輪。
素直に慣れない自分と、それに気がついてくれない縢に腹が立った。