#03
夢小説設定
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非番あけ。
一日中ゲームをしていたせいで、目の奥がまだ痛い。
そんな状態で出勤した彼女は、今度は頭が痛くなるような事件を聞かされた。
「幽霊アバター…?」
一係の面々は口を揃えてオカルティックな単語を発した。
いやいや、幽霊なんているはずがない。
そう思って報告書を読んで、ようやく合点がいった。
被害者・葉山公彦、32歳。
独身で、職業は無職。
シビュラシステムが適した職業を紹介してくれる昨今では珍しい、無職の人間だ。
というのも、彼はアフィリエイト・サービス・プロバイダーから多額の報酬を受け取っていたため、生活にはなに不自由なかったのだとか。
被害者の外出記録は2ヶ月前が最後。
遺体は細切れにされ、トイレに流されていた。
狡噛の私見だと、度胸はあるが素人の仕業だそうだ。
問題はここからである。
彼は2ヶ月前にはすでに死んでいるというのに、彼のアバター・タリスマンは未だにネット上をウロついているのだとか。
アフェリエイト収入をもらえるほど人気のキャラクターなので、その報酬目的かと思われたが口座には一切手がつけられていない。
ただただ、アバターだけがネット上で大活躍している。
(……あれ?これって…)
おなまーえは似たような現象を知っていた。
すっかり忘れていたが、頭の隅っこの記憶を引っ張りだす。
(確か時任さんも同じこと言ってた。雄一くんのレイニーブルーが操られてるって……)
偶然だろうか。
だが死んだ人間のアバターが勝手に動くなんて聞いたことがない。
とはいえ、まだこの2つに関連性があると決まったわけでもない。
「……」
おなまーえはそっと報告書を宜野座のデスクに置いた。
「昨日のうちにオレと常守がコミュフィールドに潜入して調査した結果、早速明日――」
「すみません、宜野座さん。ちょっと私これ別口から捜査してもいいですか?」
「…なに?」
いつも捜査に関しては一切口出しをしないおなまーえが、珍しく別行動をしたいと言い出した。
現に執行官達も驚いたようにおなまーえを見つめている。
宜野座は眼鏡の奥を光らせた。
意欲的になるのは良いことだが、オフ会を利用してタリスマンを確保する作戦は人出が多い方が良い。
「……詳しく話せ」
「……ごめんなさい、まだ確証は持ててないから言えなくて……でも私、ちょっとだけ心当たりがあるんです」
曖昧な回答をした。
余計な推測を話して、捜査を混乱させたくなかったのである。
まずは時任に詳しく話を聞いて、レイニーブルーに接触しないことにはなにも始まらない。
「……」
「……」
みょーじおなまーえは仕事をサボるような人間ではない。
縢とさえ口論しなければ、非常に優秀な監視官であり、刑事である。
彼女の能力を、宜野座は少なからず評価していた。
その真剣な目に偽りがないことも理解していた。
宜野座は短く息を吐き出す。
彼女のことは十分に信用できる。
たまには良いだろう、そんな軽い気持ちだった。
「……まぁみょーじのことは、それなりに信用はしている」
「はい」
「……いいだろう。特別に別行動を許可する。」
おなまーえの顔がパッと晴れる。
「ありがとうございま――」
「ただし。夜6時までには帰ってこい。明日のガサ入れは頭数が多い方が良い。」
「承知しました」
「それから、執行官は1人だけだ。別行動に割けるほどこちらも余裕はないのでね。」
「え?むしろ分けてくれるんですか?」
「……君は単独で捜査をしようとしていたのかね」
「え…まぁ。ご迷惑をおかけするんですし…」
「はぁ…」
万が一何かあったらどうする。
彼女は体術などは身につけていないし、体力も平均女性並みだ。
公安として護身術くらいは心得ているかもしれないが、仮に襲われたとして、抵抗する手段がない。
護衛も兼ねて執行官を連れて行くのは当然だ。
「……縢、お前行け」
「えー!?オレっすかぁ?」
「みょーじ相手ならお前が適任だ。文句を言うな。」
「えー、こいつですかぁ」
「みょーじも調子にのるな」
「すみません」
実のところ、執行官が1人欲しいのは事実だった。
もしレイニーブルーを操作している人物とタリスマンを操作している人物になんらかの接点があるのなら、葉山殺害の犯人に繋がるかもしれない。
「ありがとうございます、宜野座さん」
おなまーえは屈託のない笑みで笑った。
この時、彼女はまだ漠然とした予感しか感じていなかった。
配属されたばかりの新人に触発されて、ひさびさに監視官ではなく、刑事として捜査に関わろうとやる気を出していた。
――まさか、このわずか5時間後に人生二度目の誘拐をされるだなんて、つゆほどにも思っていなかった。