#03
夢小説設定
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これは、おなまーえが配属されて半年経ったくらいの頃の出来事である。
「まーたそんな短いの履いて…」
「別にいいじゃん。私の勝手でしょ」
「そのふっとい足を見させられるこっちの立場も考えろっつーの」
「細いでしょ!?モデル体型じゃないけど、どっちかっていうなら細い方でしょ!?」
「膝から下だけな!」
――キュオンキュオン
けたたましく出動音が鳴り響く。
『エリアストレス上昇警報。新宿区、東都ショッピングモールにて、規定値超過サイコパスを計測。当直監視官は執行官をともない――』
エリアストレス上昇警報。
仕事の時間だ。
「ゲ」
「あーあ」
絶賛口論中だった縢とおなまーえは、布を被せられたハムスターのように大人しくなった。
単細胞と互いに悪口を言い合っている姿を見たことがあったが、なるほど確かにそうらしい。
実のところ、この2人ほど単純で純粋な人間は、この公安にはいないのではないかと思うくらいだ。
「ほら、仕事行くよ」
おなまーえは縢の背広をつかんで放り投げる。
「あいよー」
それを難なく受け取って、2人はフロアを外に出た。
「弥生さんもいくよー」
「…ああ」
行きのぴったりあった2人。
自分が行く意味はそんなにない気がするが、これも仕事だと六合塚は重い腰を上げた。
****
3人がたどり着いたのは大勢の人で賑わうショッピングモール。
「モール内の出口は警報直後からドローンが監視してるけど、そっちに引っかかった獲物は今の所いない」
「んじゃ、ここのエリアストレスを高めてる奴さんはまだモール内で息巻いている、と」
「もう、2人とも物騒なんだから」
ホロコスを被ったおなまーえが腰に手を当てて叱るものの、コミッサちゃんの見た目では、残念ながら迫力が一切ない。
普段も威厳はあるかと聞かれれば、全員で首を傾げてしまうが。
「じゃ、基本的に2人に任せるから。念のためドミネーターは私が運んどくね。」
みょーじおなまーえは基本的に捜査にはあまり首を突っ込まないタイプだ。
さもすれば、宜野座以上に執行官に干渉しない監視官である。
一見すると冷たい性格に見えるが、その行動の理由は明白。
彼女は執行官を――縢秀星という人物を誰よりも――信頼しているからである。
六合塚も、彼女と組むときは比較的息がしやすいように感じた。
ホロコスを被った3人がモール内を巡回していく。
「…みーっけ」
はやくも縢が獲物を発見した。
彼の視線の先を確認すると、人目をはばからずにじゃれ合う男女と、10メートル後ろの陰から恨めしそうに2人見つめる男性がいる。
要は痴情のもつれだ。
六合塚と縢が顔を見合わせる。
行動開始だ。
まず、六合塚が先頭を切って男の元に歩み寄った。
「失礼します」
「っ!?」
驚きと焦りが入り混じった表情で、男はホロコスを被った六合塚を見つめる。
彼女はなおも淡々と続ける。
「恐れ入りますが、サイコパス測定にご協力お願いできますか?」
「っ!!」
その意味がわからないほど、彼も理性を失ってはいないようだ。
「……くぅ〜!」
男は走って逃げようとする。
「おーっと、何処にいこうってのか、なっ!!」
だが待ち伏せしていた縢に呆気なく腕を掴まれる。
そのままずりずりと柱の陰に引きづられ、男はいとも簡単に捩じ伏せられた。
その隙に六合塚が色相チェックを行う。
予想通り、彼の色相は濃い赤色だった。
「……結構濁ってますよ、あなた。緊急セラピーを要するものと判断します。御同行願いますね。」
「えっ……そんな、俺はまだ何も…」
押さえつけられたことで冷静さを取り戻した男は、呆然と手のひらを眺めていた。
****
「2人ともお疲れー」
獲物を護送車に入れて、おなまーえは任務完了の連絡を本部に送る。
「この人、あの女の人のこと好きだったんだろうねー」
カップルの女性とこの男性の間に何があったかはわからない。
けれどここまでストーカー化してしまうくらいだ。
それなりに親密な関係だったと、少なくとも男の方は思っていただろう。
「ま、あんだけかわい子ちゃんなら仕方ないんじゃない?誰かさんとは違って。」
「……ちょっとそれどういう意味よ」
「どういうもなにも、まんま言葉通り」
「喧嘩売ってるのね?そうなのね??」
「別にみょーじ監視官様のことだなんて一言も言ってないけど?被害妄想強すぎるんじゃない?」
「…上等よ!!表出ろ!!」
仕事が終わった途端これだ。
付き合ってられないと、六合塚はサクサクと護送車の中に避難する。
「鼻の下伸ばして、だらしがないったらありゃしない」
「伸ばしてねぇだろ!?目ぇ悪りぃんじゃねぇの?」
「お生憎様!私の視力は1.5ですぅ!そもそも、一般人にうつつ抜かす権利があんたにあると思ってんの!?」
「別にオレが誰を可愛いって言おうがお前には関係ないだろ!」
「関係はないけど、監視官として執行官の不埒な気配を感じたら即☆パラライザーなんだからね!」
「職権乱用!そういうのパワハラって言うんだよ、監視官!」
ギャイギャイと人の目も気にせずに、2人は互いに言いたいことをぶつけ合う。
先程任意同行をした男も、困惑した様子で2人の喧嘩を見ている。
「頭のアップデート追いついてないんじゃないの、アンタ」
「お前こそソフトウェアスカスカだろ。
「あんたよりは容量詰まってるわ!バーカ!バ縢!!」
「るせぇデブ!」
「チビ!」
「ハゲ!!」
関わる気は無かったが、このままでは埒があかないので、とうとう六合塚が口を挟んだ。
「……おなまーえ、縢、そろそろ時間」
「……このアホ!」
「あんぽんたん!」
返事はなかったが縢の足が護送車に向かう。
よく回る口も依然止まらない。
「こんなじゃじゃ馬じゃ嫁の貰い手もロクにいねぇだろうな、みょーじ監視官!さっさと引退して寂しい老後ても迎えろ!」
「っ、貰い手くらい引く手数多だし!見とけよ。省庁勤めのイケメンで優しい男、捕まえてやるからな!」
「はっ!せいぜい本性出さないように厚く化粧塗っとけよー」
縢の姿が徐々に見えなくなる。
――ガシャン
重々しい音を立てて、護送車の扉が閉まった。
残されたおなまーえは彼のいる場所をキッと睨みつける。
「ぜっったい、素敵な彼氏作ってやるんだから。その時になって後悔しても知らないんだからねーだ!」
子供のようにベッと舌を出して、おなまーえは自身の車に乗り込んだ。
「……」
護送車の中はわずかな明かりしか灯っていない。
六合塚の位置からは、縢の顔は陰になっていてよく見えなかった。
「流石に言い過ぎなんじゃないの」
「別にあいつはこのくらい言っても大丈夫だよ」
「あんたも大概だけど、おなまーえも負けず劣らずバカよ。本当に新しい男見つけてきたらどうすんの。」
「……別に、オレには関係ないし。それ以上にあいつにそこまでの度胸はねぇよ。」
縢は乱暴に音を立てて座った。
隣の男はびくりと肩を跳ねさせた。
「……」
もっと素直になればいいのにと六合塚は思案する。
今朝の喧嘩だって、おなまーえのスカートは世間的には見れば決して極端に短いわけではない。
膝よりほんの少し上なくらいだ。
縢が口うるさくなるのは、彼女の素肌を他人に見せたくないから。
なんとも可愛らしい、ほんの小さじ一杯ぶんの独占欲。
本当は仲良いくせに、なんで意地を張りあっているのか。
(……2人には、後悔はして欲しくない)
好きな人と離れ離れになる辛さは良く知っている。
もっと触れていれば。
もっと話していれば。
もっと伝えていれば。
そんな後悔を、2人にして欲しくはない。
2人の恋路を見守ってみたい。
叶うのなら、みょーじおなまーえと縢秀星の想いが通じあってほしい。
他者に関心の薄い六合塚にとって、この願いはとても尊いものだった。
おなまーえが国土交通省勤めの初彼氏をみんなに自慢して回るのは、そのわずか3日後であった。