#04
夢小説設定
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宜野座は、おなまーえからこれ以上有益な情報を得ることができないとわかると、早々に諦めて捜査の焦点をアバターの方に戻した。
「……そもそも、犯人が複数人いる可能性もあるんじゃないか?別々のアバターを同時にいくつも操るなんて。」
「ヘビーユーザーなら別に珍しいことじゃないわよね」
「はい。むしろ異常なのはこの犯人の演技力です。乗っ取られたアバターどれも怪しまれるどころか、かえって本物だったころよりも人気者になってるんですよ。」
タリスマンは落ち目だったところを持ち直した。
スプーキーブーギーもレイニーブルーも、怪しまれることなく今日もネット上で活躍している。
「何千人、何万人というユーザーがなぜ偽物に気付かない?」
「本物も偽物もないからさ。こいつらはネットのアイドル――偶像だ。」
宜野座の質問には、狡噛が答えた。
偶像というものは本人の努力だけで成れるものではない。
葉山や菅原も、周囲のファンの幻想に祭り上げられることにより、タリスマンやスプーキーブーギーになることができた。
アイドルの本音や正体とそのキャラクターとしての理想像はイコールではない。
時には、本人よりもファンの方が、アイドルに期待されるロールプレイをよりうまく実演できることもあるだろう。
狡噛は手応えを感じたように口角を上げる。
「犯人はこいつらのファンだと?」
「メランコリー、タリスマンス、スプーキーブーギー。この3つのキャラクターを完全に熟知し模倣することができた。それだけ熱を込めてファン活動をしていたやつが、本星だ。」
「あ!」
おなまーえは狡噛の言わんとしていることに気がついた。
そうか、そういうことだったのか。
まるで新雪の足跡を辿るように、正解が見えてきた。
皮肉にも、菅原が殺されたことでこの推理の正確性は増した。
2人は顔を見合わせてニヤリと笑う。
未だ状況のつかめていない宜野座が苛立ったように声を上げる。
「3つのアバターに共通するファンというだけでいったい何人いると思ってるんだ」
「違いますよ、宜野座さん。逆です。ファンじゃなくなった人を探せばいいんです!」
「……どういうことだ?」
「俺が説明しよう。まずタリスマンだ。彼のコミュフィールドの常連のうち上位100人について1日あたりの滞在時間をグラフにしてくれ。葉山公彦の死亡推定時刻を重点的に。」
狡噛の指示のもと、唐之杜がデータを可視化する。
タリスマンは人気なアバターだと聞いていたが、どうにも数値が低迷している。
「このへんのゲストのフィールド滞在時間何か軒並み落ち込んでるね」
「タリスマンの評判が下落した時期ですからね。それが2か月前のこの日を境にして持ち直す。」
とある一点を超えると、グラフは急激に跳ね上がった。
葉山公彦の死亡日時である。
「逆に考えると、この時点でタリスマン・サルーンへの来場が途絶えた常連がいるはずです」
おなまーえの言葉に、唐之杜は葉山殺害前後で他とは異なる傾向を示したユーザーを絞る。
「メランコリーの時任雄一が死んだ半年前、そしてスプーキーブーギーの菅原昭子が死んだ一昨日。それと同じパターンを示したユーザーがいるはずだ。」
ここまでくれば宜野座も理解したようだ。
「そうかそれが犯人の本来のアバター…!」
「そういうことだ」
被害者のアバターを乗っ取った時点で、犯人はわざわざそのコミュフィールドを、ゲストとして訪れる必要がなくなったのだ。
なんでこんな単純なことに気がつけなかったのか。
「どうだ?該当者はいるか?」
「……ドンピシャのやつがひとりだけ」
唐之杜はタンっと小気味よくボードを叩いた。
画面に映し出されたのはのっぺりとした中背の男。
「こいつ…!」
「御堂将剛、27歳。バーチャルスポーツ運営会社に勤務。間違いなさそう?おなまーえちゃん。」
「はい、間違いありません!」
おなまーえを押さえつけた男に違いなかった。
これで犯人が確定した。
「んー…サイコパス色相チェックは4年前の定期健診が最後」
「以後は街頭スキャナーにひっかかったことすらないのか」
「日ごろからスキャナーの設置場所を避けて通る工夫をするぐらいには後ろ暗い事情があるってことですね、この男は」
いつも飄々としている縢が、珍しく怒りを露わにしていた。
「こいつのアクセス記録を追跡」
「もう済ませたわ。最後のアクセスは…ほんの数分前。港区六本木のビジネスホテルから。自宅は同じく港区元麻布。」
場所は絞れた。
宜野座は立ち上がり、総員に指示を出す。
「常守監視官、狡噛と征陸を連れてホテルの部屋を調査だ」
「はい」
「俺は縢と六合塚で元麻布の自宅を当たる」
「わ、私は?」
自身の名前が出てこないことに、おなまーえは不安を覚える。
「お前は謹慎だ、馬鹿者」
「そ、そんなぁ」
犯人の顔写真も全員で共有した今、おなまーえの役目はもうない。
ほぼ丸一日拘束されていた体もまだ十分には回復していないものの、自分1人だけ捜査に参加しないことに戸惑いが生じる。
「相手はクラッキング技術だけではなく爆発物まで使いこなす危険な奴だ。ろくに動けんみょーじがいてもただの足手まといになるだけだ。」
そう言い切ると、宜野座はスタスタと分析室から出て行ってしまった。
朱や執行官も異論なしと、宜野座についていく。