#02
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「執行官と上手くやるコツ?」
金原の事件から一夜明け、今日はおなまーえと朱がそれぞれ当直と日勤だった。
幸か不幸か、本日宜野座は休日だ。
「まぁ新人なら悩みどころだよね、そこ」
報告書をまとめている最中、ふと朱がおなまーえに問いかけてきた。
今フロアにいるのは六合塚と征陸だけである。
2人は果敢せずといった様子で、こちらの会話に口出しする気配はなかった。
「おなまーえちゃん、執行官と割と上手くやってそうだし、何より縢くんと仲よさそうだから」
「あれ仲良いって言うのかな?」
おなまーえは苦笑して、手元の資料の最終チェックを行う。
「朱ちゃんはどうしたいの?」
「そりゃ、もうちょっと上手くやりたいなーって思ってるよ」
「配属初日にあんなことをやからしといて?」
「うっ…」
「それでいて、宜野座さんの言うところの愚か者の道を選ぶわけ?」
「…そういう言い方しなくてもいいじゃん」
「あはは、ごめんごめん」
少しからかい過ぎたようだ。
朱の機嫌が斜めになる前におなまーえはフォローを入れる。
「私の話が参考になるかはわからないけど、相談してくれたのは嬉しいよ」
ぱちんと書類をホチキスでまとめて、仕事に一区切りをつけた。
椅子を彼女のデスクの方に向ける。
「上手くやるコツねぇ…」
「私、できればもっとみんなとわかり合いたいなって。その方がもっと連携とか上手く行く気がして…」
「宜野座さんとは真っ向から意見が違うところがまたすごい」
「そうなんだよね…」
思いの外宜野座の言葉が刺さっているのか。
それとも他の悩み事があるのか。
おなまーえには後者のように見えたが、わざわざそれを指摘らしなかった。
「ま、でもいいと思うよ。朱ちゃんの考え方。朱ちゃんは朱ちゃんなりの視点を持ってるはずだから、朱ちゃんなりのやり方でやってみれば。私たちには真似できないけど。」
「え?」
あまりに適当な答えに、常守朱は落胆した表情を浮かべる。
だが残念ながら、やはりおなまーえと宜野座には真似できないのだ。
「宜野座さんも私も、ちょっと潜在犯に因縁があってね。朱ちゃんみたいにまっすぐには向き合えないんだ。」
宜野座は征陸に、おなまーえは縢に。
大なり小なり、2人は執行官に対してコンプレックスを持っている。
これは抱いたことのある人にしかわからない感情だ。
朱に理解できるとは到底思っていない。
「私と縢の話をしようか」
ちょうど今彼はこのフロアにいない。
世間話程度になるのなら、朱に話しても構わないだろう。
彼女も少なからず興味を持っていたようで、コクリと頷いた。
みょーじおなまーえと縢秀星が幼馴染なのは既に知っているだろう。
近所に子供が少ないということもあり、2人は本当によく一緒にいた。
晴れの日も、雨の日も、雪の日も。
よく喧嘩しながらじゃれ合っていたものだ。
「おかげで退屈しなかったよ。毎日それなりに楽しかった。」
懐かしそうにおなまーえは語る。
彼女は胸元にさげている指輪を服の上から弄った。
「でもね、ある日些細なことが原因で、私縢を置いて一人で帰ろうとしたんだよね。なんでだったかもう忘れちゃったけど、多分くだらないことで私が怒ったんだと思う。」
事件はそこで起きた。
帰り道、おなまーえは誘拐されてしまったのである。
よくある女児誘拐事件。
車に連れ込まれたおなまーえは抵抗することもできずに為すがままにされてしまった。
朱が唾を飲み込む。
「そ、それで?」
「縢が謝りにうちに来て、そこで初めて私が誘拐されたってみんな気がついたの。公安に捜索を依頼して、みんなして手分けして探してくれたんだって。」
この時の記憶は酷く曖昧だ。
数年経って、両親から聞いた話をそのまま述べているだけ。
多分嫌な過去だから、無意識的に忘却してしまったのだろう。
「怖かったのかな、きっと。私多分助けてって叫びまくって、でも誰も来てくれなくて、あぁもうダメだなーって思った瞬間にね、あいつが来てくれたの。」
二人の故郷ははっきり言って田舎だ。
空き家も多く、犯罪者が使えそうな建物は沢山ある。
程よい藪だって沢山あるのに、その中でピンポイントで縢は一人でここに来てくれた。
思えば、彼にはこの時から執行官としての適正があったのかもしれない。
「そこでさ、縢ブチギレちゃって。『殺してやる、殺してやる』って木製のバットで犯人タコ殴りしてさ。」
「……そうなんだ…」
「バカだよね。なんでそんなに怒ったんだろ。」
「……」
それほどまでに、縢くんはおなまーえちゃんのことを大切に思っているのだと、わざわざ口にはしなかった。
「で、そこで犯罪係数跳ね上がっちゃって、縢は潜在犯の仲間入り。私はセラピーで療養したのち無事退院。あ、ちゃんと犯人は捕まったよ。凄腕の刑事さんのおかげで。」
その凄腕の刑事は、フロアの端っこでこちらを見てニヤリと笑っていた。
「じゃ、じゃあ縢くんが潜在犯になったのって…」
「もともと素質があったかどうかは別としても、間違いなく私のせいではあるよ」
おなまーえが誘拐なんてされなければ、きっと縢だってあんなに犯罪係数を上昇させることはなかっただろうから。
朱は配属2日目のおなまーえとの会話を思い出す。
なぜ執行官になったのかという朱の質問に対して、彼女はこう答えていた。
『昔約束した人がいてね。その人が潜在犯になっちゃったんだ。』
『その人に会いたいって思ってね、いっぱい調べていっぱい勉強して、気がついたら執行官になってた。』
つまるところ、縢はおなまーえの誘拐事件が原因で潜在犯になり、おなまーえは縢に会うために監視官になったのである。
(……なんて不器用な人たちなんだろう)
普段は喧嘩ばかりしているくせに、本心では互いが互いを大切に思って人生を賭けている。
人生を棒に振ってもいいと思えるほどに、相手を想っている。
ただ「ここでなら自分の存在意義が見つかるはずだ」と甘えた考えでいた自分と彼女たちでは、賭けているものが違うのだ。
「あ、だから私最初は臨床心理士目指してたんだよ」
「だから心理学に詳しかったんだ」
「資格取る前に監視官に方向転換したけどね」
その頃に縢が執行官になってしまったから、それを追いかけるようにおなまーえも監視官を目指した。
改めて言葉にしてみると、ちょっとストーカーじみているだろうか。
「ね、だから言ったでしょ。私と宜野座さんは朱ちゃんの真似はできないって。それはね、逆もまた然りなんだよ。」
「……それって私には監視官向いてないって意味ですか」
「あはは、そう聞こえた?なら朱ちゃんこの仕事はやめたほうがいいよ。」
「え、いや、その…」
単に私は私、宜野座さんは宜野座さん、朱ちゃんは朱ちゃん、みんな違ってみんな良いということを言いたかっただけだ。
昔読んだポエムでたしかそんなことを言っていた。
「ごめんごめん。意地悪はやめるって言ったばかりなのにね。えっとね、朱ちゃんには朱ちゃんにしかできないことがあるって言いたかったの。」
「!!」
朱は大げさに反応した。
それは紛れもなく常守朱が求めていた言葉。
ここには私にしかできないことがあると。
それが見つかったとき、自分が生きている意味が分かると。
ある意味、この人は心理学者になってもそこそこに成功していたのではないかと朱は思った。
「でもきっと今すぐには見つからないだろうから、慌てずにゆっくり執行官と仲を深めていけばいいんじゃない?ほら、コウちゃんと何かと縁あるじゃん?朱ちゃん。まずはコウちゃんから攻略していこうよ。」
「…もう、ゲームじゃないんだから」
朱の顔色が随分と良くなった。
配属初日で執行官を撃ち抜いた図太さは一体どこへやったのやら。
随分と繊細な悩みだったと、おなまーえは仕事に戻った。
#02 終