#02
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「宜野座本当に帰っちゃったよ!朱ちゃん!」
おなまーえは泣きそうな顔で朱に詰め寄る。
「え、でもあのくらいでそんなに怒るかな、普通…」
「朱さーーん!?!?」
事は30分前。
職員の色相を比較して、ストレスの捌け口を担っている人物が犯人なのではないかという意見が上がった。
塩原殺害前夜と後夜の色相の好転具合から、征陸がそう判断したのだ。
それに異論を唱えたのは宜野座監視官。
声を荒げる宜野座を朱が連れ出して、戻ってきた頃には宜野座は見たこともないくらい怖い目をしていた。
『俺は帰る。今回の事件は常守監視官が引き受けるそうだ。君ももう帰っていいぞ、みょーじ。』
そんなこと言われても、ハイそうですかと帰れるはずもなく、おなまーえの引き止めも振り払って彼は本当に帰って行ってしまった。
「で、でもおなまーえちゃんも別に宜野座さんいないと仕事できないわけじゃないでしょ?」
「そうだけど、宜野座さん怒らせると後で面倒なんだってぇ」
おなまーえは頭を抱える。
心理学を学んだおなまーえでも、彼と征陸の確執を取り除く事は困難だった。
親子というものは他人よりずっとずっと複雑で、少しかじった程度の知識では解き明かせない。
執行官たちは特に気にすることもなく、狡噛が提案した作戦を進めていた。
有線ケーブルを敷き、建物内に電波を届けてドミネーターを使う作戦だ。
金原を挑発して、空が白なら何も起きず、黒ならドミネーターの届くギリギリのところに誘導する。
囮役は狡噛と常守が買って出てくれた。
未だウジウジと文句を言うおなまーえに、朱が問いかける。
「宜野座さんって征陸さんと何かあったんですか?」
「っ、アッハハハハ!」
「なんでおなまーえがここまで悩んでるかやっとわかったわ」
縢は爆笑し、六合塚は納得したように頷いた。
「え!?」
「朱ちゃん、それギノさんの前で持ち出しちゃったんだー」
「地雷踏んだわよ。あなた。」
「うう、弥生さーん」
「おま、こっちくんなって」
「アンタじゃなくて弥生さんに近づいたの」
「いやいや、そっちのがダメだろ。食われるぞ?」
だが誰一人として、朱に真相を話す者はいない。
これは当人達の口から聞くべき案件だ。
よその家の家庭事情について他者が勝手に話すものでもない。
「はぁ…」
おなまーえは重いため息を吐いた。
****
「うう、帰りたくない…」
「いつまでもウジウジすんな、嬢ちゃん。後輩にメンツが立たんぞ。」
狡噛と常守が囮に。
六合塚と縢がケーブルを敷きに。
そしておなまーえと征陸は駐車場に設置したアンテナの下で待機していた。
「もー、たまには征陸さんが宜野座さんにガツンと言ってやってくださいよ。あの人ご機嫌とっても不機嫌になるし、無視しても不機嫌になるし、怒らせると本当に面倒なんですけど。」
「ハッハッハ、そらわりぃな。生憎、俺があいつに話しかけたらもっとヘソを曲げちまう。」
「ですよねー…。もー、親子なのにー」
「それに今はあいつの方が上司だ。部下がおいそれと口出しできねぇよ。」
「そんなもんなんですか?」
「嬢ちゃんも、もうちっと大人になればわかるだろうさ」
星空の下、まるで父と娘のように二人は語らう。
「あ、それ。その『嬢ちゃん』ってやつ、そろそろ辞めてもらってもいいですか?」
「ん?嬢ちゃんに嬢ちゃんつって何が悪い」
「いや、呼び名自体に不満があるわけじゃないんですけど、朱ちゃんと被るじゃないですか」
「ああ…確かにそうだな。じゃああっちを監視官様とでも呼ぶか。」
「私の子供扱いは変わらないの!?」
――ザザッ
インカムに狡噛から無線が入った。
『こちらハウンド2。黒だ!金田が犯人だ!!』
『なんで!?なんでこんな無謀なことを…!!』
走っているのであろう、荒い息で狡噛はまくし立てる。
その少し離れたところから、朱の困惑する声が聞こえた。
どうやら順調に狡噛に振り回されているようだ。
おなまーえと征陸は顔を見合わせる。
このまま無事に縢と六合塚に合流し、有線で繋いだドミネーターを向ければ無事に事件はおわる。
「ま、私たちはやることないんですけどね」
「嬢ちゃんも立派な給料泥棒になったな」
「征陸先生のおかげですぅ」
「先生はよしてくれ。歯の奥が痒くて仕方ねぇ。」
わしゃわしゃと彼女の頭を撫でていた彼が、ふっと真顔になった。
「なぁ嬢ちゃん。なんでイジメなんてのが蔓延ると思う?」
征陸はたまにこういう哲学的なところをおなまーえに問いかけてくる。
おなまーえもおなまーえで、この手の話は嫌いではないのでいつも真面目に答えていたりする。
宜野座が知ったら一週間は口を聞いてくれなさそうだが。
「いつの社会もこればっかりは変わらない。心理学を学んだ人間はどう考えているのか、それを知りたい。」
「心理学関係ないと思いますけどね」
おなまーえは苦笑する。
おなまーえが心理学を学んだのは数年前。
まだ臨床心理士を目指していた頃の知識を頭の片隅から引っ張り出す。
「うーん…。一般的には、良くも悪くも協調性のある生き物だからとか言われてますけど、ちょっと曖昧なんで私流に言わせれば……多分、暇なんだと思います。」
「暇?」
「そう。誰しも忙しい時って他の人にかまけてる余裕ないじゃないですか。わざわざ相手のことを考えて危害を加えるなんて、よっぽど暇な人間なんだなって。」
ここの職員も、娯楽が少ないために1人の職員をいじめてPSYCHO-PASSを維持していた。
娯楽や他の暇つぶしがあれば、金田はここまで追い詰められたりしなかったのではないだろうか。
征陸は小難しい顔をした。
「んー……半分同意で半分俺とは違う意見だな」
「征陸さんはどうお考えなんです?」
「対象に興味があると言う点には異論はない。良くも悪くも、興味があるからわざわざ構うんだからな。違うっつーのは、最後の暇だからってとこだな。」
「ちょっと人間を過信しすぎですか?」
「そうさな。嬢ちゃんが性善説派なのは知ってるが、暇でなくなったからといっていじめが止まるわけじゃあない。結局のところ、忙しさのストレスで八つ当たりするやつだっているだろうさ。」
「うーん、たしかに?」
言われてみれば確かにそうかもしれない。
いじめとは、いわば一種のコミュニケーション。
そこに忙しさも暇もあったものではない。
「……そっか。コミュニケーションなのか。」
「ああ。認めたくはないがな。」
「じゃあイジメをなくすって、無理なんですかね。」
「そりゃな。なんせこの問題は昨日今日に始まったことじゃあない。大昔の、それこそ生命が誕生した瞬間からあることだ。」
時代によっていじめはその名称を変えてきた。
躾という名のいじめ。
教育という名のいじめ。
体罰という名のいじめ。
労働という名のいじめ。
正義という名のいじめ。
いじめという名の犯罪。
貧富の差や老若男女問わず、こればかりは太古の昔から存在する犯罪だ。
人間だけではない。
野生動物も、魚も、いたかもしれない恐竜でさえも、きっとそうなのだ。
大昔から生物は進化を遂げることができなかったのだと。
そう悲嘆するより先に、おなまーえは食ってかかった。
「それでももう少し娯楽が充実していれば、ここの現状よりはより良い環境にできたはずです」
娯楽が乏しいからと主任は言った。
他者を玩弄することで、自身の優越感や支配欲を満たしてPSYCHO-PASSを維持する下策。
いじめは一種のコミュニケーションであり、興味対象への発信だ。
それがどんどんとエスカレートしていった結果犯罪にまで成り上がり、今回のように事件に至る。
「こんな20そこいらのか弱い少女でもそんな原理すぐにわかるのに」
「理解することと改善策を提案することは別だ。この工場は金田が逮捕されたって昨日までと全く同じシステムで明日から再稼働するだろうさ。」
「…なんか、虚しいですね」
まるで工場にとって必要なくなった人間を我々が丁寧に回収させられているようで、おなまーえは少し腹が立った。