Heaven’s Feel
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「………」
ランサーは口元を拭った。
逃げ回っていた女の姿はもうない。
血の跡と衣服だけを残して、骨まで平らげた。
彼女の心臓は小鳥のように小さく、温かかった。
(あの女、最期まで俺のことを撫でてきやがった)
食われているというのに、痛覚遮断でもしていたのだろうか。
一種の狂気すら感じるほど、女は愛おしそうにこちらを抱きしめていた。
こんな姿になったランサーでも、その様子は異常だと感じ取れた。
おなまーえの温もりはほんのちょっと懐かしかった。
――懐かしかった?
そもそも女はこの池に何をしに来たのだろう。底冷えする深夜だ。
女が1人で出歩いていい場所でもない。
池は聖杯の影が支配している。
そんなところにのこのこやってきた女。
「ランサー」と叫ぶおなまーえに「ここへは来るな」と必死に忠告した。
――忠告した?
すぐに逃げないのも不審な点だった。
あまつさえ女は俺の腕を掴み、安堵した表情をしていた。
まるで愛しい人に向けるソレのような、逢いたかった相手に向けるソレのような。
夜景を見下ろしていた時の好奇に満ちた顔とは違った笑顔。
おなまーえを守りたいと思った。
――守りたい?
「なんだぁ?」
思考が落ち着かない。
気を抜けば、怒りと後悔が押し寄せる。
この女にそこまで思い入れがあったのだろうか。
女の衣服のポケットから何かが飛び出していた。
ランサーはなんの気もなしにそれを摘まみ上げる。
「……俺の耳飾りじゃねぇか」
銀の耳飾り。
落とした記憶はないし、今も自身の耳にぶら下がっている。
この世に二つとない一品物を、どうしてこの女が――
『ランサー!』
瞬きの間に、少女の笑顔が見えた。
「っ!?」
儚くて、美しくて、触れただけで崩れてしまいそうな笑顔。
「……おいおい、どうなってんだこれ」
目を覆うターバンから雫が滴り落ちる。
舌でなめとるとしょっぱかった。
男たるもの、人前で涙なんぞ見せたことがない。
腹は満たされたというのに――
「なんで、俺は…」
――こんなに悲しんでいるのだろう。
しんしんと雪が降り積もる。
彼女がくれた体温はもう思い出せない。
どこかで女のすすり泣く声が聞こえる。
なんでそんなに泣いてやがる。
お前に泣き顔は似合わねぇ。
……そんなに寂しいってんなら、お前の望んだものをやろう。
友が欲しいと言っていただろう。
ならたくさんお前の元へ送ってやる。
ランサーは槍を引きずりながら歩く。
おなまーえのために。
彼女を泣き止ませるために。
今日もまた1人殺す。
なるべくあの女と同い年くらいの同性を選んではいるが、一行に女が泣き止む気配はない。
男が良いのだろうか。
だがそれはランサー自身が良しとしなかった。
「そこのサーヴァント」
サーヴァント。
ああ、そうだ。
この身は英霊だ。
正規のものからは随分と外れてしまったが。
呼ばれるがままに振り返る。
黒髪でツインテールの女。
派手目な赤いコートがよく似合っている。
その女の前には褐色の男。
少々面倒なことになったが、あの女であれば、身の内ですすり泣く少女も満足するかもしれない。
「冬木の管理者として、あなたを処分する」
女の冷たい言葉に褐色の男が構えた。
すこし手荒になるが、それも仕方ない。
ランサーは朱い槍を構えて、ニィッと笑った。
****
「追加ニュース!」
「なになに?例のパパさんのお友達?」
「言い方!」
「例の通り魔事件でしょ?何か進展あったの?」
「ありまくり!何から話そう」
「考えてから喋りなさいな」
「あ、そうそう。目撃者が出たんだって。でもね、その人の言ってることわけわかんなくて。『紅い槍を持った、狗みたいな男』なのに『影はすすり泣く女の姿だった』って。まじでホラーじゃない?」
「やっぱ悪魔だよ〜。こわっ。」
「でも安心して!なんかもう多分大丈夫だって。」
「犯人捕まったの?」
「いや、それはまだらしいんだけど。通り魔事件って毎日起きてたじゃん?」
「うん」
「でもここ2日全く起きてないんだって。類似する事件もナシ。犯人が罪の意識に耐えかねて自殺したって、警察はみてるらしいよ。」
「ええ?それ本当に大丈夫なの?」
「さぁ?警察も今忙しいんだって。柳洞寺の昏睡事件とか、新都でもガス漏れ事故あったでしょ?そうでなくとも行方不明者多数らしくて、一旦落ち着いた事件に人材回す余裕がないっていってた。」
「そうだよねぇ。ここ数日ワイドショーもひっきりなしだもんね。全く、世も末なんじゃないの?」
「さぁ?あ、ねーねー、ひさびさにマック寄って帰ろーよー」
「うちこれから塾」
「付き合い悪いなぁ」