hollow ataraxia《結》
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「ヴァージンロードってやつね」
遥か上空、二千メートル先を眺めながら、おなまーえは微笑ましく呟く。
空を二分する光の橋。
透ける階段を、手を繋いで登っていく主人公とお姫さま。
そんな今時のおとぎ話でさえ見かけない物語を見せつけられているのだ。
地上の状況が絶望的なものであったとしても、口元が綻ぶのは致し方ない。
明かりは消え、人々は消失し、町の生気は凍りつく。
この場、この刻限。
存在しているのは聖杯戦争に参加した者たちだけ。
混ざり合うことのなかった異なる事象の聖杯戦争が入れ替わり、出会わなかった者たちが交差する。
現実と空想、実と不実の接合面。
このわずか1時間ばかりの合間こそが、四日目と五日目を隔てる
「なら、ここはなんとしてでも食い止めなきゃ」
脆い体を覆うは白い布。
騎士には程遠く、姫にはいまいちハクがない衣装だが、それは少女にとっての一張羅。
最大のフィナーレを飾るのがプリマの役目というものだ。
立ち上がった同志は1人ではない。
柳洞寺はギリシャの大魔女と寡黙な暗殺者、そしてしがない刀使いが進行を食い止める。
衛宮邸は美しい桜の花が舞い、それに触れさせてなるものかと蛇がうねる。
彼女らを援護するのは嵐のごとく進行する大英雄、そしてその肩には小さな小さなお嬢様。
紅い悪魔は冬木大橋の上から"彼ら"の軍団に大穴を開け、そのお零れを赤い弓兵が薙ぎ払う。
深山町から命からがら新都に辿り着いた"彼ら"が対峙するは、黄金に輝く古代の王。
これほど最高な演出があるだろうか。
人より上位なる存在、本来相容れぬ敵同士、一騎当千の英霊たちが、ただ1人の少年のためにその力を振るっている。
遠坂凛は持ちうる宝石全てを。
間桐桜は慣れない虚数魔術を無理やり行使して。
あの英雄王ですら乖離剣まで持ち出して。
それほどまでに本気なのだ。
本気で、ただ1人の少年のために戦っているのだ。
おなまーえとて気持ちが高ぶって仕方ない。
「最期にこんなフィナーレを用意してくれてありがとう」
白い棺に包まれた少女も、もう言葉を発することのないこの世界のおなまーえも、これならば文句なしに存分に力を発揮できるというものだ。
英雄王の乖離剣を逃れた異形がセンタービルを目指して行進する。
そのうちの一匹がピクリと鼻を動かした。
一匹動けば、その後ろも何事かと先頭についてくる。
かぐわしいご馳走の香り。
おなまーえが大気に垂れ流した魔力に"彼ら"は惹かれる。
「一度言ってみたかったんだ。『ここを通りたければ、私を倒してから行け』って。」
「――――!!」
「一匹たりとも行かせはしない。覚悟なさい。アヴェンジャー!」
この世界ではおなまーえに病魔という足枷はない。
つまり思う存分に魔力を放出できるということだ。
「はぁ!!」
試したい魔術はたくさんある。
こんなことなら、あの大魔女の弟子になるのも案外悪くなかったかもしれない。
――ドドン
――ドン
指先に魔力を込めて、弾丸のイメージで打ち出す。
もっと強力に。
もっと早く。
先頭がおなまーえの元に辿り着く。
人1人殺すのに十分な腕が振り下ろされた瞬間、身体強化の魔術をかけて飛ぶ。
――ザンッ
すかさず投影魔術を施した木の枝で敵の腕を叩き潰す。
「――――!!」
「まずは一匹」
次の個体が辿り着く前にその場を離れる。
地面を、壁を、空を、翔ける。
(――軽い)
手足が羽根のように軽い。
あんなに重かった体も、まるでシャボン玉のようにフワフワと。
「これでも喰らいなさい!!」
右に、左に。
上に、下に。
小鳥は細やかに舞う。
一匹、二匹、三匹。
一度にたくさんは倒せないから、1個体ずつ潰していく地道な作業。
敵に掴まれたらおしまい。
おなまーえには彼らの腕を振り払う力はない。
軽やかに、水辺の鳥のように。
見様見真似の魔術行使。
戦場など見たことがない、ズブの素人のソレ。
この戦い方は決して褒められたものではないけれど――
(――両翼がある限り私は