hollow ataraxia《結》
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四日目。
少年が天の杯に至ろうとする、最初で最後の挑戦の日。
おなまーえはいつもの通りに、センタービル隣の冬木ホテルの周りを4周する。
辛いことも多かったけど、この繰り返される四日間はとても満ち足りたものだった。
争いもなく、平穏で、サーヴァントみんなが生きている世界。
この贖罪の時を与えてくれた少年に感謝の意を込めて。
「……またアンタか」
「うん。これで最後の逢瀬になると良いんだけど。」
「縁起でもないこと言うなよ」
少年の顔は、すでにもう判別できないほど黒くなっていた。
彼の名前はない。
英霊として呼ばれる名前は
衛宮士郎のガワを被った、どこの誰でもない少年。
彼の体は小刻みに震えていた。
「いかないの?」
「っ、情けねぇよな。もう決めたと思ってたのに、まだこんなに震える元気がありやがる。」
「それは普通の感情だよ。誰だって、自分が無に還るとわかってるのにすすんで世界を終わらせにいったりしないよ。」
「アンタも怖いのか?」
「…うん、正直に言うとね」
「…そうか。そうなんだな。そういうもんなんだな。」
アンリマユは納得したように、そしてどこか安心したように繰り返す。
恐怖。
この自分がいなくなるのは、とても怖いことだ。
今ここで地に足をつけて、冷たい空気を吸い込んで、友人と話をしている自分が、実は間違いで。
本当の自分は向こうの世界でとっくに死んでいる。
この四日間は記録にも記憶にも残らない。
かろうじて本物たちには夢という形で残るかもしれないが、その可能性は望み薄だ。
「でも、いくんでしょ?」
「ああ」
「なら、ほらほら、こんなとこでグズグズしてないで早く行きなよ」
「なんでそんなに追い立てるんだよ」
「迎えが待ってるから」
「そりゃオレにか?」
「うん」
「どうしてわかる?」
「うーん、経験則的に?」
「疑問形なのかよ」
「こういうときはね、エスコートしてくれるヒロインが現れるのはお約束なの」
「どうだかな。そう言うお前はヒロインじゃないのか?」
「うん。あなたのヒロインではない。」
「…ふーん」
かつて自分の聖杯戦争で共に闘い、共に命を落とした槍兵は、あの世まで連れてくと言ってくれた。
彼は嫌がるかもしれないけど、英雄クー・フーリンは紛れもなくおなまーえのヒーローであり、彼の隣でこそ自分はヒロインでいられた。
「さぁ。私は先に出口で待ってるから。」
「……ああ」
少年は暗いセンタービルに足を踏み入れる。
これから処刑される罪人のように。
長い階段を一歩ずつ登っていく。
いつか終わるのはわかっていた。
この平和に満ち足りた四日間に終止符が来ると。
これで誰からも認識されない生活が終わると思うとホッとした。
話しかけても誰も見向きもしてくれないのは、おなまーえが1番恐れていたこと。
人に忘れ去られることを何よりも恐怖していたおなまーえにとって、ここはまさに地獄のような場所だった。
けれどそれと同時に、もうランサーの隣に居られるのはどうしようもないほど幸福だった。
どんな形であっても、四日間を終わらせるということは、彼の隣に居れる奇跡に終止符を打つということ。
英霊の座に戻る彼とただの魔術師の自分は、もう二度と出会えることはないだろう。
未来のないこの箱庭で、おなまーえは群青色の夢を見ていた。
この1秒がどれほどの奇跡なのか。
手を伸ばせばランサーがいる、そのなんと幸福なことか。
宝箱に入れた途端に砕け散る宝石のように、この四日間は脆く切ないものだったけれど――
「やると決めたら、私もやらなきゃね」
彼がいたから、この四日間でおなまーえは自分を見失わないでいられた。
少年が普段通りに接してくれたから、自分は忘れられていないと安堵することができた。
恩にはちゃんと酬いる。
「……ランサーにさよならを言えないのだけが、心残りかな」
酷いくらいに、夜空は晴れ渡っていた。
****
無間地獄に垂れる蜘蛛の糸。
宙にかかる吉兆に急き立てられて、黄泉の穴から骸たちが這い溢れる。
今宵は刻限。
この戦いを始まりに戻す、四夜の週末である。
密に群がるアリのように、骸たちは輪廻解脱を迎えんとする
紅い目。
凶悪な牙。
鋭い爪。
これより先の夜はない。
骸は際限なく増殖し、淀むことなく街を覆い尽くしていく。
"彼ら"こそ、阿鼻叫喚。
この夜を埋め尽くすために顕現した、"
「――――!!」
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