hollow ataraxia 閑話休題
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空は快晴。
強い日差しは季節の感覚を麻痺させる。
海風は頬に心地よく、ウミネコの鳴き声が寂しさを緩和させる。
文句の付け所のない絶好のロケーション。
平和な冬木の街を象徴するかのような港は、しかし――
「きゃっきゃっ」
「わー!!」
「おお!!」
「すげっ!!」
今まさに盆と正月が一緒に来たかのような賑わいを見せていた。
「あ、衛宮くーん!」
「って増えてるしー!?」
「ふふ、良い反応をありがとう」
以前ここに来た時はランサーとおなまーえが、プライペートビーチよろしく2人でくつろいでいた。
まったりとした南国の空間。
ランサーの楽園とでも言えば良いのだろうか。
邪魔する者もいないため、おなまーえはここでランサーの横顔を眺めるのを好んでいた。
だが現在、静かなはずの港は子供たちで大賑わいとなっていた。
「………」
「ランサー?」
「お前の女が心配してっぞ、ランサー」
「…るせぇ。ほっとけ。」
「今日は魚避けの結界かけてないよ?」
「……今日は魚避けの結界、かけてないってさ」
「……チクショウ」
ランサーのバケツは相変わらず空っぽ。
いっそ魚避けの結界をかけているのなら諦めがついた。
だがそうでないというのなら、これはひとえにランサーの実力不足ということになる。
「まぁ、あの2人がいるからね…」
おなまーえはくるりと埠頭の先方に視線を投げる。
大漁旗のごとく高級竿を展開する金ピカの男。
その隣には浅黒い肌が海に似合う弓兵。
そして2人を取り巻くは、今をときめくうら若きお子様たちである。
一体全体、世界をどう作りあげたらそうなるのか。
「……ギルガメッシュって面倒見良いんだね」
「いや、もはや誰…?」
「うーん、あえて言うなら子供達のヒーロー…かな」
はっはっはっと愉快そうに笑うヒーロー。
時折子供たちに髪やらほっぺたやらを引っ張られていたりする。
「ねぇギル、後ろのお兄ちゃんに魚投げていい?」
「コウタ、アレは狂犬故な、注意してぶつけてやれ!」
「………」
ランサーが物言わぬのをいいことに、ギルガメッシュ様はやりたい放題。
売り切れ必至の釣竿も企画段階でおじゃんになった幻のロッドも持たないランサーには、ギルガメッシュとアーチャーの会話も蚊帳の外。
「むぅ…」
「…あははー」
もはや港にかつての平穏と静けさはない。
思いのほか子供好きな英雄王と、なぜか子どもたちに人気の赤い男。
そして――
「……ランサー全然釣れないね」
「………頼む。オレの楽園を返してくれ。」
この世の終わりみたいな顔でうなだれるランサー。
「……帰ろう。ここはもう一般人のいていい場所じゃない。」
「あ、衛宮くん帰っちゃうの?」
「いや、もうなんか付き合ってられなくて」
「私も行こうかな」
「ランサーには挨拶しなくていいのか?」
「うーん、今声かけたら全部裏目に出そうだから」
おなまーえは困った顔をして港を後にする。
見上げた空の高さにちょっとだけ目が眩む。
ああ、ランサーの楽園よ。
せめて思い出の中で永遠になれ。
「……そういや、なんでわざわざ魚避けの結界なんて張ってたんだ?」
少年はふと込み上げてきた疑問を口にする。
ランサーに嫌がらせをしたかったためだろうか。
それとも魚が可哀想だなんて博愛主義者だったのだろうか。
「ああ、あれね…」
おなまーえは照れ臭そうに頬をかく。
「だってほら、魚たくさん釣れちゃったらランサーきっとすぐ帰っちゃうじゃない?」
「………はぁ〜〜〜」
少年は大きなため息をつく。
予想以上に甘酸っぱい理由だった。
お腹いっぱい。
ご馳走さま。
砂糖たっぷりのメレンゲよりも、生クリームを乗せたアイスクリームよりもずっとずっと甘ったるい。
ラッキースケベな経験を一通りこなしている少年でも、これ以上食べたら戻してしまいそうになるくらい。
「ランサー、あんた本当に愛されてるよ…」