hollow ataraxia《承》
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地の底から叫ぶような唸り声。
「――――!!!」
「っ、今回は衛宮士郎との接触時間が長かったからなぁ」
今夜も変わらず、おなまーえは捕食される。
繰り返される四日間の最終日。
おなまーえは必ず彼らに食われる。
最初のうちこそは抵抗も試みたが、無数に現れる彼らを前に、彼女程度の魔術では太刀打ちできなかった。
捕食から免れたことは一度もない。
おなまーえは生きたまま、4日目を超えられたことがない。
「まぁ、もう死んでるし…そりゃそうだよね」
彼らは積み重なっておなまーえに襲いかかる。
もはや一つの塔のようになったそのてっぺんに、彼女の意識は存在する。
手足、胴体は地上でバラバラになって、あちこちで取り合いになっている。
それを他人事のように見下ろして、おなまーえは四日間の終わりを願う。
この捕食される姿が、誰かに見られてるとはつゆも思わず。
《dead end》
****
夢をみる。
いや、ここは夢なんて綺麗なものじゃないかもしれない。
偽りの四日間の中で、記録にも記憶にも残らない、刹那の逢瀬。
泥だらけの釜の淵の、ほんのわずかな隙間時間。
「あなたが私に干渉してくるとは思いませんでした」
「うん、私も干渉できるとは思わなかった」
おなまーえと彼女は互いにふわふわした影としてしか見えない。
白い花たちは、互いを認識することができない。
「それで、なんの御用でしょう」
あまり長居はしたくない、と影は揺れた。
この心象空間は"彼"が創り出している場所。
確かに居心地の良い場所ではない。
おなまーえは簡潔に内容だけを述べるように努める。
「まずお礼を。あちらの世界で私を弔ってくれたのはあなたでしょう?」
天涯孤独だったおなまーえ。
唯一後見人となってくれた言峰綺礼も、もうこの世にはいない。
そんな彼女の死体を丁寧に整えて、あまつさえ墓場なんて用意してくれた彼女には頭が上がらない。
「業務の一環として行ったまでです。あなたに対して特別な感情を持っていたわけではありませんから。」
「業務の一環なら、私の身柄は聖堂教会に引き渡して処分してもらえばよかったじゃない」
「…手続きが、面倒でしたので」
そんなはずはない。
むしろ聖堂教会にさっさと送りつけた方がずっと楽だし、そうでなければ無縁仏として適当に葬っても良かっただろう。
わざわざ教会の所有地に墓を作ってくれたのは、彼女なりの同情と優しさあってのことだ。
影はぷいっと横を向いた。
全く、あの男の娘とはとても思えない。
よほど母親に似たのだろうとつくづく思う。
「それだけですか?」
「『まず』って言ったでしょ。本題は次。この世界が、あとどのくらい保つのかってことを聞きたくて。」
繰り返される四日間。
されど天の杯のピースは埋まりつつある。
時間は無限にして有限。
そろそろタイムリミットも近い。
「……あなたのご推察の通り、天の杯はもう長くはありません。ですがそれ以前に、"彼"自身がこの世界を終わらせようとしています。」
「…そっか」
創作者自身がこの世界を終わらせようとしている。
それはきっと、"彼ら"にはとてもとても許せないことなのだろう。
「最近彼らが活発になったのって、やっぱりそういうことだったんだ」
「ええ」
「アレ、いつもすごく痛いんだけど、なんか対応策とかあったりするかな?」
「無いわね。あなた、死んでも凄まじい魔力なんですもの。あれらがそんなご馳走を放っておくわけないわ。鴨がネギを背負って歩いているようなものよ。」
「もうこの国のことわざも覚えたの?新しい監督役は優秀だこと」
「……別にこの程度、当然の知識だと思いますが」
影はまた一つ揺れる。
「あなたの質問には答えたのですから、私の質問にも答えてください」
「いいよ」
「この世界で、あなたは楽しかったですか?」
「………」
呼吸の音がやけに大きく聞こえた。
楽しかったか。
バゼット・フラガ・マクレミッツが第五次聖杯戦争に参加できたこの世界で楽しかったかどうか。
(そうだな…)
彼女の頭に、退屈そうに釣りをするランサーの顔をが思い浮かぶ。
それだけで、胸の奥がぎゅうっと温まる。
「……うん、楽しかったかな」
たとえ彼に名を呼ばれなくとも。
たとえ彼に無視されたとしても。
「私は、楽しかったよ」
白い花は頬を赤く染めて微笑んだ。