hollow ataraxia《承》
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「おまたせ」
少年が店から出てきた。
「もうウチに戻るけど、アンタまだ付いてくるか?」
「家の前まで送るよ」
「おいおい、それは男のセリフだろ」
「大丈夫。私には迎えがあるし。」
迎え、と聞いて少年の頭に浮かんだのは、青いニヒルな笑みの似合う男。
彼が来るのなら安心だ。
2人は歩き出す。
たわいも無い会話をして、それに相槌を打って。
「そういえば、アンタにも聞きたかったんだ」
「何を?」
ペースを落とさないまま、少年は少女に問いかける。
余計な前置きはもはや不要だろう。
単刀直入に本題から入る。
「この冬木の異常について。サーヴァントたちは何か感じてるみたいだが、おなまーえは何か感じるか?」
「…それあなたが言うの?」
「え…?」
くすりと彼女は不敵に微笑んだ。
そういうところは歳不相応で、少年は困ったように目をそらす。
「他の人にもこうやって聞いて回ってるの?ランサーにも聞いてたし。」
「ああ」
「ふーん」
おなまーえはじっと考え込む。
7秒。
キッカリ7秒経って、彼女は首を横に振った。
「その話は次にあった時にしましょ、探偵さん」
「は?」
「そうだなぁ…ランサーがいる時の方が、都合がいいかも」
「今は答える気はないってことか」
「うん」
ならそれ以上は聞かない。
いずれ教えてくれるとは言っているのだ。
無理に問いただすこともないだろう。
行きよりも、帰りの方が長く感じられた。
衛宮邸の玄関の灯りが見えてくる頃には、すっかり体が冷えてしまっていた。
秋の夜は舐めてかかると体を崩す。
そういえばこの少女は体が弱い。
いくらランサーが迎えにくるとはいえ、外に待たせたままだとまずいだろうし、後で何か小言を言われるかもしれない。
「あ、良かったら迎えがくるまでウチに上がってくか?なんなら飯も、一人分増えるのはそんなに変わらないし。」
「え、本当?衛宮くんのご飯、一度食べてみたかったんだよー。遠坂さんもイリヤスフィールも、ここのご飯は絶品だって言うから。」
食い意地の張ったセイバーのような顔をしておなまーえは嬉しそうに語る。
そんなに期待をされると照れてしまう。
「――でも、せっかくのお誘いだけど、遠慮しておく」
だがおなまーえは少年の誘いを断った。
「え?どうしてだ?」
先ほど言ったように、10月とはいえ夜はきっちりと冷えるようになってきた。
おなまーえは薄いワンピース一枚。
こんな格好では風邪を引いてしまう。
病弱な彼女が風邪をひくなんてことがあれば、命取りになりかねない。
セイバーや桜がいるので遠慮しているのだろうか。
おなまーえは首を振って、黒くて深い目を細めた。
「だって私、衛宮くんのお家に入ったことないから」
「…は?」
予想外の言葉。
予想外の理由。
たしかにおなまーえは衛宮士郎の自宅に来たことはない。
だがそれがどうしたというのだ。
"おなまーえが衛宮士郎の自宅に訪れる"という事象を今作ってしまえばいいことだ。
だが彼女は再度首を振る。
「これは"彼女"の第五次聖杯戦争だもん。私は無関係。私はこの四日間において存在してはいけないものだから、色々と制限をかけられててね。その中の一つで、知ってるところしか入れないってのがあるの。」
悲しそうに、だが優しく微笑んで彼女はそう答えた。
「あ」
そうだ。
此度の4日間はおなまーえの第五次聖杯戦争ではない。
彼女はランサーと契約していない。
故に彼女は"存在してはならない"。
偽物とか本物だとか、そういったまどろっこしいこと以前の問題なのである。
「……そうか」
ここまで気づいておいて、少年はその真相に気づかない。
「無理を言って悪かったな」
「ううん。嬉しかったから。」
「じゃ、またな」
「うん、またね」
少年は衛宮士郎の自宅に帰宅する。
玄関のドアを閉めるため少年が後ろを振り向くと、真っ白なワンピース姿はもうどこにも見当たらなかった。
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