hollow ataraxia《起》
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穏やかな空。
麗らかな海。
平穏を形にしたような風景。
「最高の釣り日和だね、ランサー」
「…んー」
「もう、タバコばっかり吸って。いくら英霊だからって、体に良くないんだよ?」
そう小言を言って彼の隣に座り込む。
ここは争いのない、とても穏やかな冬木市の端っこ。
小鳥が唄い、番犬も居眠りをするほどの平和ボケ。
そして、ほんの少しだけ許された贖罪の時間。
「すごく穏やか。こんな日がずっと続けばいいのにね。」
「……あー…」
ランサーは小難しい顔をする。
手元の釣竿が一向に下がらないのに嫌気がさしているのか、この4日間に疑念を抱いているのか。
どちらかなんて、おなまーえにはわからないし、女の呟きに男が返答することはなかった。
hollow ataraxia
「あ、そういえばそろそろバレンタインだね。ランサー何か――」
「ん?」
ランサーに彼女の言葉を遮らせたのは、これまた平和ボケした1人の少年だった。
おなまーえは後ろを振り向く。
橙色の髪が少し伸びただろうか。
おなまーえの記憶より少し大人びた少年が、そろりそろりと忍び歩きをしながらこちらに向かって歩いてきた。
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少年の目にはアタリの来ない釣りに退屈している男と、それを温かい目で見守る女の姿が映った。
2人はいつも単体で見かけるため、第五次聖杯戦争が終わってから、あまり見かけることのなくなったレアなコンビだ。
「衛宮くん」
「誰かと思えばセイバーのマスターか」
ランサーは大欠伸をした。
「オレも気を抜きすぎかね。一瞬誰かと思ったぜ。」
「なぁにその格好。魚でも取りに来た?」
「にあわねぇからアサシンの真似事なんざするな。第一、盗み取ろうにもまだ一匹も連れてねぇぞ。どうも今日は当たりが薄い。」
少年は散々な言われようだ。
ムッとして言い返すも、ランサーの飄々とした態度には敵わず言い負かされる。
「んで、何しに来やがった小僧」
「何しにって、真面目な話をしに来たんだよ。アンタに世間話なんてしても仕方ないんで、手短に聞くぞ。」
「私に?ランサーに?」
「ランサー」
「じゃあ私は黙ってる」
おなまーえはおとなしくしゃがんで水面を眺める。
彼女にも話を聞きたいが、それより今はサーヴァントであるランサーの方に用事があった。
「おまえ、今の状況どう思ってる?というか、どうしてまだこっちに留まってるんだ?」
冬木の様子がおかしいということはセイバーもライダーも感じている。
それについてどう思っているか、そしてそもそも何故マスターのいないランサーがこの世界に現界していられるのか。
ランサーは視線だけを少年に寄越した。
「どうしても何も、マスターと契約してるからだろ?ギルガメッシュの野郎はともかく、オレにはマスターなしで現界できる力はないぜ?」
マスターと契約。
後ろの少女かと視線を移すと、彼女は小さく首を振った。
「私はランサーのマスターじゃないよ」
どうやらおなまーえがマスターというわけではなさそうだ。
冷静に考えればそれもそうだ。
――死者が英霊と契約を結ぶなんて、おかしな話である。