2月7日
夢小説設定
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「――だが、打開策がないわけではない」
「っ!なに!教えて!」
おなまーえは食い気味にランサーに詰め寄った。
彼は目を丸くし、だがすぐに明後日の方向を向いて、細長い人差し指で頬をかく。
「あー…」
「私にできることなら」
そのまっすぐな目に、ランサーは言葉を繋げることが憚られた。
先日の会話を彼女が覚えていて、察してくれることを密かに願っていたのだが、だが窮地に陥った彼女はそこまで頭が回っていないようだ。
時は一刻を争う。
ランサーは仕方がないと諦め半分で決心した。
「…じゃあ目ぇ閉じろ」
「こ、こう?」
「歯は食いしばらんでいい」
「ん」
「良い子だな」
口元を緩めたおなまーえの後頭部に、ランサーは大きな手を添えた。
「……」
「……」
閉じられたまぶたは少し湿っていて、震える唇はカサついている。
目的のことは一瞬で終わる。なのにそれ以上に彼には欲が出てきた。
ランサーは迷わずおなまーえに口づけをした。
「―――」
おなまーえの思考が停止する。
驚いた彼女が薄く唇を開く。
これ幸いとランサーは舌をねじ込んだ。
「ふっ!……んん…」
おなまーえはわずかな抵抗しかしなかった。
それが混乱ゆえなのか、受け入れたからなのかはわからない。
(な…!)
柔らかく、それでいて有無を言わさない舌使い。
もちろん彼女にとってはファーストキスだった。
右も左もわからないおなまーえを、ランサーが荒々しくも丁寧にリードしていく。
魔術回路が優しくこじ開けられ、体が熱くなる。
おなまーえの持っている死んだ回路にとくとくと魔力が流れ始める。
例えるならば、ダムが解放され、川に水がとめどなく流れていくような感覚。
それは刹那のようでいて、永遠のような時。
「――んっ」
「ぷはっ……ごちそーさん」
ランサーはぺろりと自身の唇を舐めた。
腹部の傷は跡形もなく修復されている。
離されたおなまーえの唇はしっとりと湿っていた。
紅潮した頬を隠すように手の甲を当て、彼女は努めて冷静に問いかける。
「――っ、これで満足?」
「ああ。嬢ちゃんはなるべくここから離れろ。俺もすぐに行く。」
ランサーは自身にかかっている遮蔽のルーン魔術を解いて槍を構える。
眉間にしわを寄せ、眼をカッと開いた彼は、先ほどまでの弱っていたサーヴァントとは別物だった。
「んじゃまぁ、ぶちかましますかね!」
タンっと彼は地面を蹴った。
その威力とスピードは凄まじく、一拍遅れて舞い上がった風はおなまーえの髪をさらった。
青い装束は光沢のある髪をたなびかせ、音速でバーサーカーに襲いかかる。
すんでのところで避けたバーサーカーに追撃を加え、その激しい斬撃が巨体を翻弄する。
「っ!バーサーカー!広いところに出なさい!」
「させるかよ!」
イリヤスフィールはバーサーカーをひらけた場所に行かせようとしたが、ランサーがそれを許さない。
魔力供給。
体液を通じてマスターとサーヴァントの間に魔力を通わすある種の儀式。その成果はとても大きかった。
待っていたと言わんばかりに、魔力が全身を巡る。
よもや接吻ひとつでここまで効果を発揮するとは思わなかった。
(――いや、違うな。ランサーが"開けて"くれたんだ)
おなまーえの動いていない回路を、彼が一つ一つ手を加えて開けてくれた。
瞬間的なパワーは接吻によるものだが、今この体に流れる熱いくらいの魔力は己の潜在的な魔力だった。
《2月7日 終》