第16夜 嵐の引っ越し
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第16夜 嵐の引っ越し
――ピカッ
嵐の夜。
大きな古時計が午前の2時を指し示す。
アレンは本に寄りかかり、うたた寝をしていた。
「リーバーさん、これはどちらに?」
いつもより豊満な胸を、手に抱えているダンボールの上に乗せるおなまーえは、慌ただしく動く班長に話しかける。
「あーそれは……って、ばか!起きろアレンッ!!」
辺りを見回したリーバーはうたた寝をしていたアレンに声をかけるが、時すでに遅し。
――ボンっ
「わぁぁあああ!?」
アレンの寄りかかっていた本の上に乗っていた怪しい薬が、彼に勢いよくかかってしまった。
「またやったか…」
リーバーは頭を抱える。
空のビンを持ち上げた研究員は思い出したかのように説明をする。
「これは以前バク支部長の誕生日に作った強力育毛剤だね。大丈夫これも時間経てば元に戻るよ。」
「まだマシなのでよかった……」
アレンはホッと胸をなでおろす。
「5人目…」
「だから油断するなと言っただろ」
そう、これで被害者は5人目。
なんのかと言うと、科学班の作った訳のわからない薬の被害者である。
「お前らが変な薬作り過ぎなんさッ!!」
「ワシの髪が、ウサミミに…」
「テメェら、実は仕事しねェで遊んでたんじゃねェのか…!」
「私はこれ満足してますけど」
ブックマンの髪がウサミミに変わり、おなまーえのあるはずのない胸が膨らみ、神田とラビは6歳児並みの大きさに縮んでしまった。
各々ショックを受けている中、おなまーえだけは心なしか嬉しそうに頬が緩んでいる。
「先輩、抱っこしてあげます!」
「やめろ!放せ…!っ!」
もちろん子供サイズの神田をおなまーえが抱っこすれば、母性が形になったかのような胸に彼が埋まるのは必然。
神田は苦しそうにおなまーえの肩を叩く。
「おなまーえ〜」
「なに?」
「ブックマンから服借りてきたんだけど、2人に合うかなって」
「あぁ、ありがとう」
おなまーえは胸元に押し込んだ神田の脇を持ち上げる。
「ぜぇ、ぜぇ…」
「先輩、お着替え1人でできますか?」
「できるわボケ!!」
「ダメですよ〜、そんな悪いお口はメッ!」
「おま、調子に乗ンなっ…!?」
まるで母と子のように戯れるおなまーえと神田を見て、ラビがリナリーに耳打ちをする。
「おなまーえ、なんかいつもよりテンション高くねぇさ?」
「ラビが胸のことでしょっちゅうからかってたから、気にしてたみたいよ?」
「ウッ…」
責任の一端は自分にあると自覚したラビは、やれやれと首を振ると神田の助太刀に入った。
本部移転が決定したのはつい先日。
通達が出たのは2日前。
ルル=ベルの襲撃で、中央庁の議会は100年使ってきたこの城の廃棄を決定したらしい。
伯爵に場所がバレていたのは勿論、戦闘の傷跡は復興に時間がかかる。
箱舟を掌握した今、大規模な移動も可能となったため、上層部も大胆に決断したのだろう。
少し早めに引っ越しについて聞いていたおなまーえはさして驚きもしなかったし、皆も納得した表情をしていた。
ブックマンの服を着た神田とラビは、仲良く2人でダンボールを運ぶ。
保護者としておなまーえがその後ろを守っていく。
「おいリーバー、次の本部には稽古できる森はあんのか?」
「チラッと耳にしたんだけどロンドンに近くなるってホントさ?」
「伯爵に対して新しい備えとか考えてるんですか?」
「…いっぺんに聞くなよ」
新しいホームに期待半分、不安半分といった様子で3人がリーバーに尋ねる。
実際のところ、エクソシストたちには詳しい情報は降りてきていない。
3人の興味も分からなくはないが、連日の引越し作業に追われているリーバーはため息をついた。
――ボムッ
リーバーが答えようと口を開いた瞬間、別の方向から、またあの嫌な音が聞こえた。
「ゲッ」
「またぁ?」
「今度は誰だろう…」
どうやらミランダがコケて、持っていた薬が荷物ごとリナリーとブックマンにかかったらしい。
ミランダのドジっぷりのことをすっかり忘れていた。
煙が晴れると、見た目にはさして変化の無いリナリーとブックマンがいた。
「にゃ〜?」
「ニャーニャー」
だが二人の口から発せられる言葉はすべて「にゃー」。
これは猫語しか話せなくなる薬だ。
「わー!今度は猫語になったぞ!」
「誰が作った!!」
「じじいキモいさー!」
「リナリーかわいいにゃー」
「何言ってんだテメェは!」
「これバレたら殺される!」
「おい誰だこれ作ったの!」
「もうイヤだ、科学班の引越し……」
次から次へと、玉手箱のように不思議な薬が溢れ出てくる。
100年間よく放置していたものだ。
「まさかもっとヤバい劇薬とかあるんじゃないでしょーね」
「や、所詮オレらごときが作るもんだし、そんな常識はずれなのつくんないよ」
「十分外れてんだよ!」
「コムイ室長みたいなヤバいのは流石にね〜」
「あるの??」
「へ!?いや、でも本当に危険なのはちゃんと取り上げて倉庫に隠してあるから!」