第3夜 月下の復讐者
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第3夜 月下の復讐者
私の心の中に小さな女の子が住んでいる。
その子は、私が挫けそうになると叱咤してくれる頼もしい子だ。私が『破壊者』であるために、余分なものを抱えないように必要な存在なんだ。
▲▼
からりとした天気。ヨーロッパは少し乾燥するくらいの気候の地域が多い。
アレンと別れ、夜行列車がスペインに到着する頃にはすでに日が上っていた。
「電車、来ませんね。向こうに着く頃には日も暮れちゃうかもしれませんね、先輩」
「チッ」
おなまーえは窓の中から青い空を見上げていた。
国によって汽車の時間はまちまち。ぴったりな文化もあれば、時間にルーズな文化もある。
几帳面なところがある神田にとっては、時間通りに出発しない列車は、ストレス以外の何物でもないのだろう。
「教団も、なんか移動手段考えてくれてもいいのにね。ほら、最近都市で見かける『車』とか…」
「そんなもんがこのど田舎を走ってたら目立って仕方がないだろう」
任務において一番時間がかかるのは移動。
世界のあちこちで起きるアクマの襲撃とイノセンスの回収のためには、公共機関以外での移動手段を考えてもらいたいものだ。
――シューーッ
汽車が唸る。よかった、あと少しで出発するようだ。
ほっとして窓にもたれかかる。
ふと目に入った反対側のホームには人がひとりしか立っていなくて、本当に郊外なのだと改めて思う。
微動だにしないその人はまるで置物のようだった。
とても綺麗な金色のショートヘア。真っ黒なスーツでもわかるほどのたわわな膨らみ。黒いサングラスの奥の目はここからじゃよく見えないけど、赤い唇は慎ましく、鼻筋もスッと整っている。
(スタイルのいい人だな…)
この郊外には場違いなほどの美貌に、思わず目を奪われた。
きっと人違いだろうけど、ほんのちょっと自分の姉に似ていると思った。
あの金色の髪が長ければ、もう少し姉であるという確信が持てたかもしれない。
――シュオーーーッ
汽車が出発する。
横に流れていくホームを眺める。
少しずつ広がっていく青空を追い越すように、汽車はスペインまで進む。
▲▼
次の任務の資料に目を通して、最初に気になったのはある単語だった。
「……宗教?」
「ああ」
おなまーえは訝しげに眉を潜める。
とある宗教のセミナーに参加した人々が次々とアクマにされている可能性がある、という内容のものだ。
「……」
心当たりがある。
同じ手口で人々を騙してお金を稼いでいたブローカーを、わたしは知っている。
エクソシストになることを、本気で目指すきっかけになった事件だ。
「あのときのやつと似てるな」
「…先輩もそう思いましたか」
忘れもしない『あの二日間』。
おなまーえがまだエクソシストになる決意をする前の、ティエドールにくっついているだけだった頃のことだ。
あの時救えなかった命がある。
あの時解放できなかった魂がある。
あの時覚悟を決めていなかった後悔がある。
――隣人を慈しみ、苦難を慈しみ、自分を慈しみ。
――徳を積めば奇跡は叶う。あなたの祈りは実現する。
――さぁあなたも、共に祈りましょう。
「……」
おなまーえは歯を噛み締めた。
思い返すのは4年前。まだティエドールに拾われて間もない頃のことだ。
13歳だった私は、まだエクソシストではなく、ティエドール元帥のの弟子見習いとして旅をしていた。
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