第3章 高麗国
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
類は友を呼ぶ。人ならざるものは、人ならざるものの気配が分かるのだ。
化物は化物を。
妖怪は妖怪を。
死者は死者を。
そして魔女は魔女を。
高麗国
視界が一気に明るくなった。
(これは…!)
嫌な予感と浮遊感を感じる。衝撃に備えて身を固くした。
――どしゃんっ
――グシャア
乱暴に地面に打ち付けられる。屋台のようなものの上にちょうど現れたようで、それがクッションになってくれている。
「いたた……モコナお願いだから空中はやめて」
「ああー?次はどこだ?」
「なんだかみられてるみたいー」
「モコナ注目のまと!てへ♡」
「また妙なところに落としやがって」
砂煙が晴れると、一行はたくさんの人に囲まれていた。繁華街に突如現れた不審者として市民が通報したのか、すぐに武器を携えた男の人たちがやってくる。
「なんだこいつら!どこから出てきやがった!!」
大柄な男がサクラの細手を掴んだ。
「っ!」
――ドガッ
その瞬間、小狼の飛び蹴りが男の顔にヒットした。ほぼ間髪入れずに。
「お!」
「あ」
「わ♡」
「えぇ…」
各々反応を見せているが、おなまーえ以外はなぜか嬉しそうな声を上げる。
男は蹴られたところを抑えてしゃがみこむ。それを守るように別の屈強な男たちが前に出てきた。
「おまえ!誰を足蹴にしたと思ってるんだ!?」
「……」
運悪く、小狼が蹴り飛ばしたのは彼らのリーダー的な立場の人だったらしい。小狼がサクラを庇うように立つ。ふと気づくと黒鋼が私の前に立ってくれていた。
(これってもしかして…)
阪神国での会話。「戦えないなら大人しく下がれ」という言葉を思い出しクスリと笑った。なんだ、見た目に反してとても優しい人じゃないか。
「やめろ!!」
突如、屋根の方から高い声がした。見上げると、ポニーテールをした少女がこちらを睨んでいる。
「誰かれ構わずちょっかいを出すな!このバカ息子!!」
「
どうやらこのふたりは知り合いで、しかし犬猿の仲のようだ。
「誰がバカ息子だ!!」
「おまえ以外にバカがいるか?」
「このー!」
彼は怒りに体を震わせた。春香の言葉に周りの護衛らしき人たちが言い返す。
「失礼な!!」
「高麗国の蓮姫を収める領主様のご子息だぞ!」
「領主といっても、一年前まではただの流れの秘術師だっただろう」
「親父をバカにするかー!領主に逆らったらどうなるか分かってるんだろうな!?春香!!」
「っ!」
「この無礼の報いを受けるぞ!覚悟しろよ!」
男はそう叫ぶと、体を引きずりながら去っていってしまった。少女は唇を噛み締め、それを見送る。
このやり取りだけで、うっすらとこの国の事情が見えてきた。
「やー、なんか到着早々派手だったねー」
「小狼すごーい!!」
「なんだったんだありゃ」
少女のおかげでなんとか助かったみたいだ。
「サクラちゃんは腕平気?」
「おなまーえさん、ありがとう」
おなまーえがサクラに駆け寄る。少し赤くなっているが、問題はなさそうだ。
「じゃあいまのところの問題は、オレたちのせいでお店が壊れちゃったことかなぁ」
「あ゛」
小狼が市場の品物が散乱しているのに気がつき、低い声を上げる。護衛の男たちが無遠慮に突っ込んできたせいで他のお店にも被害が出ている。すぐさま彼は地面に落ちた果物を拾った。
「すみません、売り物なのに」
「モコナもお手伝いするー」
「ほら黒ぴんも拾ってー」
「あー?めんどくせーなー」
「文句言わないで手伝ってください!」
一行に続き、市民の人たちも品物を拾い集める。先程男たちを追っ払ってくれた春香と呼ばれた少女、地上に降りて品物をかき集めていた。
「……」
「……」
少女の純真な黒い目と、小狼の純朴な翡翠の目が合う。
「……」
「……ヘンな格好」
「え?」
彼女はストレートに言葉を発した。
「あはははははー!ヘンだってー、黒りんの格好ーー!」
「黒鋼ヘンー」
「俺がヘンならおまえらもヘンだろ!」
「でも黒鋼さんみたいに怖い格好はしてないですよ」
「おまえ達…ひょっとして!!来い!」
「え!?」
まだ目をこすっているサクラの手首を春香が掴み、走り出した。小狼があわててそれを追いかける。
「あ!待って下さい!」
「なんか忙しいねぇ」
「めんどくせー!」
「みなさん置いていかないでー!」
おなまーえたちもそれに続いた。
**********
中華風の立派なお座敷に連れてこられた一同は辺りを見回す。
「あ、あの、ここは…」
「私の家だ」
春香は緊張した面持ちで正座した。あまりの緊迫感に小狼とサクラも横並びで星座をしている。
「おまえ達、言う事はないか?」
「え?」
「ないか!?」
「えぇ!?」
春香は身を乗り出して、真剣に質問した。
「いや…あの、おれ達はこの国に来たばかりで君とも会ったばかりだし…」
「ほんとにないのか!?」
「ない…んだけど」
「……」
小狼は気迫に圧倒され、しどろもどろに答える。 春香はしばらく値踏みするように小狼を睨みつけていたが、やがて本当に何もないとわかると、大きなため息をついた。
「よく考えたら、こんな子供が
「あめんおさ?」
目をこすっていたサクラが不思議そうに聞き返した。
「暗行御史はこの国の政府が放った隠密だ。それぞれの地域を治めている領主達が、私利私欲に溺れていないか、圧政を強いていないか、監視する役目を担って諸国を旅している」
「それって、つまり…」
「水戸黄門だー!」
「モコナ知ってるの?」
おなまーえとモコナの思考回路は同じだったようでふたりは嬉しそうに手を取り合う。
「侑子が見てたの!侑子はね、初代の水戸黄門様が好きなんだって!」
「私は5代目ですね!助さんだった頃もかっこいいんですよ」
キャイキャイと盛り上がるふたりをみて、とうとう春香の疑問が爆発した。
「さっきから思ってたんだけど、何だそれは!?なんで、まんじゅうが喋ってるんだ!?」
「モコナはモコナー!!」
モコナはハイテンションのまま春香に飛びついた。確かに阪神共和国では巧断という人とも動物とも異なる生き物がいたから違和感がなかったが、普通の国ではモコナは異常生物だ。そのうちぬいぐるみのフリとかも身につけてもらわなくては。
「まぁ、マスコットだと思ってー」
「それか私たちのアイドルですね」
「で?オレ達をその暗行御史だと思ったのかな。えっと…」
「春香」
「春香ちゃんね。オレはファイ。こっちが小狼くん、こっちがサクラちゃん、この子がおなまーえちゃん。であっちが黒ぷー」
「黒鋼だっ!!」
すかさずツッコミが入る。
「つまり、その暗行御史が来て欲しいくらいここの領主は良くないヤツなのかな?」
「最低だ!」
「あの男の親だもんね…」
「それにあいつ、
オモニという単語は聞き慣れないが、そこに秘められた親しみやすさから母を示す言葉だということが感じ取れた。彼女は母親を亡くしているのだろうか。
――ゴォォーー
外で風が荒ぶる音がする。家の骨組みがミシミシと音を立てた。時折家も揺れて、自然現象とは思えないほどの強風だ。
「ひどい風ですね」
木の板でできた窓が軋んでいる。何かで抑えたほうがよさそうだ。私は立ち上がって窓に近づいた。
「近づいちゃだめだ!!」
「え?」
だが春香が血相を変えてそれを引き止めようとした。
――バッターーン
次の瞬間不意に窓がひとりでに開き、強風が部屋になだれ込んできた。それは単なる風ではなく、もはや竜巻に近い災害。
「えっ!?」
窓際にいたおなまーえはその風を一番大きく浴びた。ふわっとした浮遊感に焦り、思わず手をバタバタさせるも、捕まるところなんてないし目も開けてられないし立つこともままならない。
(しまった…!)
――ゴォォーー
倒れてしまう。バランスを崩しよろけた瞬間。衝撃に備えて伸ばした手が、誰かに引っ張られた。
「っ!?」
引っ張られた衝撃で何かに当たる。そしてそのまま後頭部に腕を回され、優しい温もりに包まれた。ハッとして顔を上げると、ファイがおなまーえを壁に押しやって耐え忍んでいた。
(守って、くれた…?)
見た目は細いのに、触れてみるとしっかり筋肉がついている。この人も男の人なんだなと考えた時ボッと顔が赤くなった。
(っ!何考えてるの私。この人はただの旅の人、ただの旅の人なんだから…)
早打つ心臓を悟られまいと、肩を猫背にして身を縮こませる。
――コォォー
強風は一瞬の出来事で、体感的に1分くらい続いたかと思うとあっという間に去っていった。案外すんなりと腕は解かれ、おなまーえは自由の身になる。家の中はぐちゃぐちゃになり、天井に開いた穴からは青い空が見えた。
「自然の風じゃないね、今の」
「そうですね。明らかに私たちを傷つけようとしていた…」
「っ、領主だ!アイツがやったんだ!!」
春香が歯を食いしばり、空に向かって大きく叫んだ。その目には憎しみの炎が揺らめいていた。
1/6ページ