第1章 願イヲ叶エル店
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なんの変哲もない日常を繰り返す。いつも通りのルーティーンを繰り返す。折り紙をたたむように、ミサンガを編み込むように、何度も何度も丁寧に同じことを。
繰り返す。
繰り返す。
繰り返す。
そのありふれた日々が永遠に続くことを信じて、少女は今日も日課である魔女退治に精を出す。
――コツコツ
時たま現れる魔女の僕など、なんのその。到底人の理解の範疇を超えた異次元空間を、少女は難なく進む。
「この獲物は大したことなさそうだけど、何でついてきたの?キュゥべえ」
「ボクが一緒では不服かい?」
「いやそういうわけじゃないけど。珍しいからさ、あなたが風見野に来るなんて」
「……」
「キュゥべえ?」
「…いや。最近見滝原によく行っていたのは、単純に素質のありそうな子を見つけたからだよ」
「え?あ、そうなの」
少し的外れな回答をされて、戦意が削がれる。
「そんなことより油断は禁物だからね」
「はいはい、わかってますよぅ」
ブブッとポケットにしまったスマホが震えた。おそらく手分けして魔女狩りをしていた杏子だ。どうせ帰りにカップ麺か弁当を買ってこいとかそういうメールなんだろう。私の作ったお昼ごはんは食べてくれたのだろうか。
(ということは、向こうはもう終わったのか。たまにはちょっとくらい手伝ってくれればいいのに)
杏子は縄張りを人一倍強く意識している。加えて「見つけた獲物は狩った人のもの」精神。だから私が相手にしていた魔女を横取りされることだってあるのだけれど、やはり彼女がいると心強い。
「さて、本日ラストの魔女退治だね。さっさと済ませて夕飯買って帰らなきゃ」
「……」
私はそのまま奥へ奥へと進み、この結界を張っている張本人、魔女の元へとようやくたどり着く。感じ取れる魔力はさほど強大ではない。これならば杏子に夕飯が遅いと怒られる心配もなさそうだ。
だが現実はそうはいかなかった。キュウべえの言う通り、完全に油断していたと言ってもいい。
魔女を追い詰め、そのシルエットを糸で貼り付けにしたところまでは順調だった。だがその直後。敵の真核部にナイフを突き刺した、その瞬間だった。
――カァッ
突如、足元に見たことのない魔法陣が現れた。
「え、な、なにこれ!?」
例えるならば、頭から沼に沈んでいくような感覚。なけなしの魔力を放出し抵抗を試みたものの、それ以上の魔力に押し返され、ゆっくりゆっくりと飲まれていく。
「く…重い…っ」
これが何なのか分析する余裕もない。分析することができなければ、力任せに抗ったところで無意味な体力消耗になる。
「っ…誰か、助けて…」
がくりと膝をつく。重力に従い、スマホの入ったポケットが垂れ下がった。
(あぁそうだ。杏子に帰るの遅くなるって伝えなきゃ――)
人は死ぬときに走馬灯を見るというけれど、私の頭に浮かんだのはりんごを齧る親友の姿だった。
次の瞬間、極彩色の光に包まれたかと思うと、彼女はこの世界から消え去った。塵ひとつ残さず、ここにみょーじおなまーえがいたという痕跡も残さずに。
彼女のいなくなった場所には、まるで最初から何もなかったかのように、静寂だけが存在した。
「……これで彼女は因果を纏う旅にでる。何年先になるかはわからないけど、帰って来る頃には膨大な魔力を潜めていることだろう。そしてきっとその分だけ――」
唯一残ったキュウべえ――もといインキュベーターは表情を一切変えずに呟いた。
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