第10章 レコルト国
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何かを知るということは、同時に何も知らないということを自覚するための行為である。
自分が知らないということを知る。
そのために古来より用いられてきたのが、本というツールなのである。
レコルト国
――さて、彼女の精神は、あとどのくらい保つのだろうか。
たどり着いた国はとてもロマンチックな雰囲気だった。
「すごい…」
そこは魔法と本の国、レコルト国。まるで魔法ものの映画に出てくるセットのような街並み。
空には箒に乗った人が飛び交い、街中を走る馬車にはペガサスのような羽が生えている。外灯は電気ではなく魔法で点灯していて、不思議な淡い光が辺りを照らしている。煌びやかな街並みは、あるだけで見るものを圧倒する美しさを誇っていた。
「お洋服は買えたけど、お金あんまりないねー」
「そうですね。宿は贅沢できなさそうです」
「モコナ今日は誰と一緒に寝ようかなー♡」
街の散策と服の購入を終え、小狼とサクラのところに戻る。
この国についてすぐ、小狼は疲労からか倒れてしまったのだ。
小狼を寝かせたベンチに戻ると、すでに体を起こしているのが見えた。サクラが小狼の額におでこを当てている様子も。
「ラブラブだー!」
ふたりを見るや否や、モコナは嬉しそうに叫んだ。
「モコナ余計なこと言わないの」
「いや、あの!」
「小狼君が怖い夢見たって、あの、あの、だから!」
「おまじないしてたの?」
――こくこく
2人は大きく頭を振る。頬を赤らめるふたりのなんとも微笑ましいことよ。
小狼は話題を変えるため、この国について尋ねる。
「ど、どうでしたか?この国は」
「今まで行ったことのある国とはまた違ってたー。服はねこんな感じー」
「ジェイド国と少し似てますね」
「でも女の人、ドレスじゃないよ」
男性はコートをストレートなコート、女性はロングスカートが主流で、近世のイギリスのような雰囲気があった。
小狼とサクラを着替えさせ、一行は街に繰り出す。乾いた石畳をカツカツ鳴らし、目的の場所へと歩みを進める。
「羽根の気配は?」
「まだ分からないの。っていうかこの国、不思議パワーいっぱいなんだもん」
「「不思議パワー?」」
「魔法が普通に使われてる国みたいです」
「この国にはね、魔術があるんだって。ちゃんと学校になってて、みんな勉強してるみたい」
「数学とか国語とかと同じで魔法の授業があるみたいです。私も習いたいなぁ…」
「オレで良ければ教えよっか?」
「え、ほんとですか!」
ものは言ってみるものだ。あっさりとした返事におなまーえはつい声を張る。ファイは魔法を使わないと言っていたから、教えを乞うことも諦めていた。
「使わねぇのに教えられんのかよ」
「実演はできないけど、コツとかなら?おなまーえちゃん要領良いしー、簡単な魔法ならきっとできるよ」
「お願いします!」
ぴょこんとはねる。
教えてもらえるのは素直に嬉しい。せっかく魔力はあっても使い方がわからないんじゃどうしようもない。
阿修羅王に防御魔法のやり方はほんの少し教えてもらったが、回復魔法や攻撃魔法はうまく使いこなせていない。
魔女相手なら適当に魔力をぶっ放して糸でぐるぐる巻きにすれば勝てたが、対人戦となると当然戦法などもよく考えなければならない。これからどんな危険が待ち受けているかわからないから、力の使い方くらいは知ってて損はないはずだ。
「皆さんどこに向かってるんですか?」
「小狼くんにとって良い場所ー」
「おれにとって?」
「もうすぐ着きますよ」
「こっちこっちー」
散策の時に見つけた、街の中でも一際大きな建物。神殿かと見間違うほどのそこを、多くの人が出入りをしている。
「ここは?」
「ささ、はいってはいってー」
「!」
ファイに促されるまま、小狼は建物の中に入った。
そこは巨大な図書館になっていた。吹き抜けの4階まで、端から端までびっしりと本が敷き詰められている。
荘厳で圧倒的な知識の宝庫。
小狼が目を輝かせるのも訳ない。
「本がいっぱい…!」
「この国は魔術を色んな側面から研究してるらしくて、魔術に関する本がたくさんあるんだって。勿論、歴史や不思議なこと関してもね」
「ここならサクラちゃんの羽根の情報も集まるかと思って…」
「おなまーえちゃんが教えてくれたのー」
「やっぱり情報収集の基本は図書館ですからね」
「小狼君、歴史好きでしょ?」
「はい!」
「本も大好きだよね」
「はい!」
そう元気よく返事をする小狼は、まるでおもちゃを与えられた子どものようであった。
「あ、でも読めるでしょうか」
「確かめてみればー?」
「はい!」
滅多になく年相応にはしゃぐ小狼を見て、サクラは優しく微笑んだ。小狼は手前の一冊を手にとり、数ページめくった。
「読めます!」
「良かった」
「全部は分からないんですけど、父さんと一緒に行った国の古語に似てます」
そう言うと彼は本の内容にのめり込んでしまった。活字から目が離れない。周りの音なんて、もう聞こえていないだろう。
「小狼、夢中ー♡」
「できれば買ってあげたいねぇ、お父さん」
「いい加減そのネタから離れろ!」
「お金もありませんしね」
「これ売っちゃだめだしねー」
モコナの口から2本の刀が飛び出す。緋炎と蒼氷である。
「モコナのお口は保存も出来る~♪」
「モコちゃん、ほんとにすごいね」
「では、手分けしてサクラちゃんの羽根に関係のありそうな本を探しに行きましょう」
「「はーい」」
おなまーえの声で一同はいろんな方向に散った。蔵書量の関係で、小狼と黒鋼が1階、ファイが2階、サクラとモコナが3階、そしておなまーえが4階を担当する。
サクラの羽根の手がかりになりそうな本がないか眺める。
とはいっても、この世界は言語も英語に近しい程度しか認識できていない。英語が他人よりずば抜けて成績が良かったわけでもないので、なんとなく知っている単語を拾うだけである。
背表紙を眺めながら、サクラの羽根の模様に似通ったものがないか探す。
(……でも冷静に考えてみて、なんで私サクラちゃんの羽根のためにこんなにやってあげてるんだろう)
私の目的は杏子のいる風見野に帰ることで、可能性があれば早く次の世界に行きたい。
旅の初めの頃、黒鋼が「なんでこのまんじゅうはガキの肩ばっかり持つのか」と言っていた。あの時は協調性のなさを叱咤したけど、よく考えてみたら至極真っ当な意見なのではないだろうか。
対価は平等に払っている。なのにどうして小狼の、ひいてはサクラのためにこんなに時間を使うのか。
「……あほらしい」
そんなことを考えた自分がいたことに苛立つ。
きっと対価は平等じゃない。わかってる。どちらかといえば私はこの旅に同行させてもらっている身。小狼たちの願いに乗っかる形でここにいるに過ぎない。
「はぁ」
ため息をつき、気を紛らわすために適当な本を一冊手に取る。
何気なく伸ばした先にあった本のタイトルは『魔法少女の夢』であった。
「魔法少女…?」
ひどく見知った単語だった。
英語なんてほとんど読めないはずなのに、なぜかその本は読まなければいけないという衝動に駆られる。
「……」
おなまーえは少しページをめくり、数分後には本来の目的を忘れて本の内容にのめりこんでいた。
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