第8章 沙羅の国・修羅の国
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神様。神さま。かみさま。カミサマ。
古今東西、あまねく所に神は在る。
それは人智を超越した存在。
何百年と昔にこの世界を作った主を、人々は神と呼んだ。
神は神を生む。
神は大地を生む。
神は海を生む。
神は生命を生む。
そして神は、蛮勇と争いを生んだ。
沙羅の国・修羅の国
「はぐれちゃったねー」
「いたたた。次モコナに会ったら全力で高いところから振り落としてやります」
今回もいつもと同じように腰から落下した。そろそろ骨折してもおかしくはない気がする。いつもと違かった点は、降り立った後に人数が減っていたことだ。
「小狼君とサクラちゃんとモコナ、見当たりませんね」
「こんなこともあるんだねー」
「……」
黒鋼はいつになく不機嫌そうな顔をしている。
「あれー?怒ってる?」
ファイがそれをさらに煽った。
「また戦えなかったからー?魔物、竜巻だったもんねー」
「ファイさんその辺にしてあげてください」
「っていうかさあ、あの国ヘンじゃなかった?」
「…何がだ」
「あの国、暑いところに生える木いっぱいあったよね。背が高ーい葉っぱがいっぱいの。それに結構暑かったよねぇ」
「それがどうした」
「もしかして、あのモコモコ達のことですか?たしかに、ちょっと疑問に思いました。マフラーもしてたし」
「おなまーえちゃん、気づいたのすごーい」
「…バカにしてます?」
桜都国でも、唯一仮想空間を暴けたのは私だけだったことを忘れて欲しくない。
「オレ気になったからあの子達に聞いてみたんだよー。そしたらずっとこの国にいるっていうのに、竜巻にやられたとはいえ建物が殆ど無かった」
おなまーえの頭から手を離して彼は続ける。
「それにね、あんなに側に羽根があったのに、モコナが全然気付かないってのも変だよねぇ」
「あ、たしかに言われてみればそうですよね。特に邪魔するものもなかった筈なのに、モコナ全然めきょってなりませんでしたよね」
阪神共和国では巧断が持っていたから反応が鈍かった。ジェイド国では氷の中にあって、桜都国は仮想空間だったから、ぼんやりとしかモコナも感知できなかった。
「微かにしか感じなかったってことはー」
「仕組まれたことってことか?」
「…かもね」
ファイはクルクル回り出した。
「竜巻はサクラちゃんがちゃんと声聞いたんだから本当だとしても、あとはあの子達の可愛い仕草で色々変なところをうまーく誤魔化された感じかなぁ」
「あれだと詳しく聞けませんもんね」
「……」
人間、小動物にはなかなか強く当たることができない。弱者をもって、真実を曖昧にされたような気がした。
「黒りん、驚かないんだね」
「…誰かの視線を感じる時がある。異世界を渡り始めてからずっと」
「エメロード姫が言ってたっていう『誰かが見ている』ってやつですか?」
「さぁな。なんともなかったのはあの次元の魔女の所くらいだな」
「あの次元の魔女の居場所は凄かったからねぇ」
「……」
おなまーえは直接対面すれば殺気などを感知する程度の意識は持っていれど、どこかから見られている視線を感じ取れるほど聡くはない。今この瞬間ですら、黒鋼の言う視線を感じることができない。
「なんで言わなかったの?小狼くんに」
「言ってもしょうがねぇだろ。相手が誰かも分からねぇのに」
「無駄に不安にさせることもないって?黒様やっさしー」
「やっぱりそう思います?私も黒鋼さんって実はすごく優しい人だなって思います」
おなまーえは高麗国での彼を思い出す。前に立ってくれたあの広い背中は、この旅でもっともっと逞しく見えた。
「勝手に決めるな」
黒鋼は照れくさいのか、露骨に嫌な顔を見せた。
――ザッ
砂を蹴る音が複数聞こえた。あれよあれよという間に、3人の前に武装した男が立ちはだかる。
「……」
黒鋼とファイはおなまーえより一歩前に出た。
「…何だ、てめぇら」
「お前たち、遊花区の手のモンか!?」
「ここは陣社だぞ!」
「遊花区のモンが来ていい所じゃねぇ!!」
聞き慣れない単語にファイは首を傾げた。
「ゆうかくー?じんじゃー?」
「ジンジャーは『神社』だと思います」
「ユウカクは『遊郭』だろ」
「やだ、黒鋼さんそういう店行くんですか」
「いかねぇよ!!」
「てめぇら、とぼけてんじゃねぇ!!」
男たちはこちらが返事をする前に遅い買ってきた。先頭にいた男の薙刀が、黒鋼に向かって振り下ろされる。
「…そっちが先に抜いたんだ。どんな目に遭わされても文句言うんじゃねぇぞ」
黒鋼はニィと笑みを浮かべ、男たちを鞘に収まったままの刀で薙ぎ払った。あれよあれよという間に襲いかかってきた男たちは倒れていく。
「かっこいー、黒んぴゅ!」
「ほどほどにしてあげてくださいねー」
「てめぇら、何ぼけっと見てやがる」
「やー、黒たんの大活躍を邪魔しちゃいけないかなーって」
「私は普通の女の子なのでおとなしく下がってます」
「…オマエラ」
黒鋼の頭は額当てで隠れているのに、青筋が浮かんで見える。この状況にもかかわらず3人が悠長に会話をしているため、囲っていた男たちは悔しさから更に激情した。
「くっそー!」
「やっちまえ!」
「…おやめなさい」
「「「!!」」」
辺りに凛とした男性の声が響いた。男達は途端に静かになる。
声の主は武装した男たちの後ろから、静かにこちらを伺っていた。優しげな目元。凛とした佇まい。武装した男たちとは明らかに風情が異なる。
「蒼石様!」
「
「こいつらが勝手に陣社の敷地内に入って来たんすよ!結界張ってあったってぇのに!!」
「蒼石様の張った結界越えて来たんだ!ただ者じゃねぇ!!」
止めに入った主人に、男達は抗議の声を上げる。おなまーえはファイと黒鋼の横顔を見る。
「どう説明します?」
「うーん。越えて来たんじゃなくて、モコナの口から落ちたのが結界内だったと思うんだけどー。説明しても分かってもらえないだろうしなぁー」
「ですよねぇ」
蒼石は男たちを静めると、カランコロンと下駄を鳴らしてこちらに近づいてきた。
「どのような理由であれ、訳も聞かず手荒い真似をするなど言語道断。申し訳ありませんでした」
「いいえー」
「防衛のためとはいえ、こちらも失礼致しました」
「見た目が凶暴そうだったから誤解してもしかたないかもー」
「んだとてめぇ!!」
蒼石は2人の会話を微笑んで聞いていた。
「この紗羅ノ国の方ではないようですね」
「旅の者ですー」
「3人で?」
「あと2人、いや3人いるんですけどー」
「あれは人じゃねぇだろ」
「もう1人はペットみたいなもんですね」
「なるほど、お連れ様がいらっしゃるんですね。どこかでお待ち合わせですか?」
「してないんですー」
「この国に入った時にバラバラになってしまって」
「だから探さないとー」
「それは大変お困りですね。あちらも探してらっしゃるでしょうし、拠点を決めておく方が良い。 宜しかったらうちにお泊まりになりませんか?」
蒼石はほわんと優しく提案してくれた。おなまーえは思わずファイと蒼石を交互に見た。なんだか、雰囲気が2人とも似ている。
雰囲気についてはさておき、彼の申し出は一向にとってとてもありがたい話だった。しかし、この提案には、先ほどから静かにしていた周りの男たちが反対の声をあげた。
「陣主!こんな何処の馬の骨だか分からん連中を!!」
「袖すり合うも他生の縁。困った方を助けないで、何が陣社ですか」
「でもそいつら、女を連れているのに!」
男のうちの1人が、おなまーえの方を指差す。ファイがスッと前に立ち、彼女を身体で隠した。
「なおのことお助けするべきでしょう。女性を外に放り出すなど以ての外です」
「「「「陣主!!」」」
男の人たちは蒼石に逆らえず、泣く泣く押し黙った。
「で、ここどういう所なんでしょう?」
「神社じゃねぇのか?神様を祠る」
ファイの疑問に黒鋼が答えたが、蒼石は首を振った。
「いいえ。ここは陣社。私達が守っているのは神ではなく人達です」
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