第7章 偶像の国
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偶像の国
「いーけないんだ〜いけないんだ〜♪乙女の心をふみにじり〜♪」
「モコナ、歌上手だねぇ」
ファイが拍手をしてモコナを褒めた。見渡す限りジャングルで、少し蒸し暑いここは、新しい世界である。今度こそ正真正銘現実の世界だ。
黒鋼とファイとおなまーえは、ジャングルの中を散策していた。拠点にはサクラと小狼がいる。拠点を中心に円を描くように探索しているが、どうやら人の気配はない様子。
「あっつい…」
「オレも思わずコート脱いじゃったもん。ムシムシするよねぇ」
「モコナもむし饅頭になっちゃうね」
「モコナ饅頭じゃない!」
「……」
「…せっかく楽しく新しい国を探索してるのに不機嫌だねぇ、黒ちゅうは」
黒鋼はギロッとおなまーえとファイを睨んだ。
きっと私たちのことを心配してくれたのだろう。なんだかんだ、根は優しい黒鋼のことだから、私たちの仇討ちをする覚悟で星史郎と対峙していた筈だ。だがその戦いもモコナの横やり、もとい横矢で中途半端なところで終わってしまった。
「星史郎さんとの戦いも、途中になっちゃったしねー」
「…あの魔女、何考えてんだよ。勝負の邪魔しやがって」
「その後もなんだか、慌ただしく移動しちゃったしねぇ」
興醒めした黒鋼は不完全燃焼ということもあり、ただいま絶賛不機嫌なのだ。羽根も取り返せず、体感で9日間あの世界にいたのに、成果はなにも得られなかった。この蒸し暑さも彼のストレスを助長させる要因かもしれない。
「でもそのおかげで、小狼くんも黒りんも剣が手に入ったもんねー」
「なんて名前でしたっけ」
「…蒼氷」
ファイは剣のツカをツンツンと触る。
「ゲーム世界が現実に戻るちょうど境目の、いい具合に戻りきってないところで、モコナの口に吸い込まれたからねぇ」
「小狼くんも刀ごとこっちに来れたみたいなので、それもよかったですよね」
おなまーえのコンパクト同様、小狼も仮想空間で手に入れた刀を現実に持ち込んでいた。カプセルから出た彼はすでに手に持っていたから、あの瞬間も現実と仮想世界が微かに入り乱れていたことがわかる。
「……でも、次元の魔女さんはなんでこれを送って来たんだろう」
ファイの言葉でおなまーえはその手元を見る。黒鋼と星史郎の戦いの終止符を打つ役目を果たした矢。真ん中に丁寧に折り畳まれた文がある。
「侑子からのお手紙だ!」
モコナに急かされながらも、黒鋼はそれをゆっくり開いた。
「なんて書いてあるのー?」
「所々読めるが…」
「あ、私全部読めます。『ホワイトデーは倍返し。遅れた罰は3倍返し。侑子』ですって」
とても達筆な字で書かれた文からは、なにがなんでもお返しをよこせという圧力を感じる。だがバレンタインなんていつもらっただろうかと記憶を巡らせる。
「意味わかんねぇし!」
「もしかしてフォンダンショコラのこと…?」
「あれお返しが必要なやつだったのー?」
ぐるりと一周して、周囲にはなにもないことを確認した一行は小狼とサクラの待つ拠点に戻る。
――ガサッ
不審な物音が聞こえ、3人はそっと拠点の様子を伺った。
「誰かっ!」
「え、サクラちゃん!?」
そこにいたのは、ロープに絡まっているサクラの姿。ロープは木の枝から吊るされており、野山に仕掛ける小動物用のワナに似ている。こういうときに真っ先にサクラを助けるであろう小狼の姿は視認できない。
黒鋼とファイが急いでサクラのことを地面に下ろした。
「何があったの?」
「小狼君が櫻われたんです!!」
「「!」」
探索チームがこの周辺を見たときは生き物を観測できなかった。小狼をさらった人たちはどこから現れたのだろうか。それとも、隠れていたのだろうか。
サクラの案内で、小狼がさらわれたという方向へ走る。
「小狼君を捕まえたのは、耳としっぽが生えた小さい人達だったとー」
「それ『人』って言うんですか?」
「こっちのほうに担いで行きました!」
「桜都国でやった訓練は、どうなってんだ」
「わたしがあの木の蔦に吊られてしまって、それを助けようとして…!」
「…桜都国ではああするしかない状態だったとはいえ、剣を扱うにはまだまだだな」
「先生、きびしー」
先生として、教え子の失態は許せないらしい。黒鋼の額には青筋が浮かんでいる。小狼が黒鋼に認められるのはまだまだ先のようだ。
「あっち!煙だ!!」
「煙って、もしかして小狼くん食べられちゃうんじゃ…」
「「!!」」
おなまーえの呟きで、一同に緊張が走る。そうだ。サクラは動物と言った。獣であれば人間は捕食の対象かもしれない。
「急ぐぞ」
黒鋼がスピードをあげた。
――ガサッ
この際どんな敵がいるかなんて関係ない。まずは小狼を救出しなければ。
「小狼くん!!」
「 あ 」
そのとき一同が目にしたもの。皆勢いが削がれて頭から地面に落ちていく。
――こけっ
小狼は無事だった。食べられそうになっているどころか、モコモコした生物とともに仲良く食事している。
4人は思わぬ状況に脱力する。
「これは、一体…」
「どういう状況だろうねぇ」
「色々と事情があったみたいです」
「事情ー?」
モコモコ達が何事かとこちらに近寄ってくる。黒鋼はそれを睨みつけた。
「なんだ、てめぇら」
「「「!!!」」」
――ささーっ
その殺気とも呼ばない気迫に怖気付いたモコモコ達は、小狼の後ろに列をなして隠れる。やはり黒鋼は第一印象が良くないようだ。
「このヒト顔はこわいけど取りあえず、いきなり噛みついたりしないからー」
「取りあえずってのは何だ!」
「怖い顔はいいんだ〜」
「犬だから威嚇してるだけなんです。許してあげてくれるかな?」
「お前も悪ノリすんじゃねぇ!」
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