4戦目
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「あ、危なかったね…」
「……」
「……」
ちびっ子二人を外に追い出すと、納屋の中はお通夜みたいな空気が流れていた。
あのキングが負けた。
キングカズマは最早いない。
一度でも負けてしまえば、それはもう王者ではない。
ただのカズマに戻ってしまった。
チャレンジャーが勝ったことで、ずっとカズマのものだったチャンピオンベルトは剥奪されてしまうだろう。
肩を縮こませ、俯く彼は何を思っているのか。
おなまーえにはその心境は計り知れなかった。
「……佳主馬」
「……」
こんなとき、どう声をかけたらいいかわからなかった。
バカな姉ならきっと「また次があるよ」なんて軽い言葉で笑い飛ばすことができただろうが、おなまーえはそんな能天気ではない。
きっと今自分がどんな言葉をかけても、それは佳主馬を苦しめてしまうのだろう。
佳主馬は前髪の隙間からこちらをじっと見つめてきた。
「……おなまーえも、続けてたんだね」
「……そりゃ、佳主馬に最初格ゲー教えたの、私だしね」
「え?そうなの?」
健二は空気が読めない。
それは良くも悪くも、彼の特徴なのだと思う。
ここは彼に倣う方が得策かもしれない。
「そうですよー」
おなまーえはわざと明るい声を出して、笑顔を浮かべる。
「小学二年生くらいの時、一緒にできるゲームないかなって、このOZの格ゲーを勧めたんです。ここだけの話、はじめの頃は私の方が強かったんですよ」
それがいつの間にか追い越され、世界ランキングでも差をつけられてしまったのだけれど。
「チャンピオンもはじめはひよっこです。最初から王者の人なんて、きっといないんですよ」
真剣に格闘技に打ち込む彼に、一緒に遊ぼうと言えなくなったのは彼がトップ100に入ってからだった。
その頃から彼にはスポンサーがつき、アフェリエイト収入が入るようになった。
遊びでやっていた自分は、そもそも世界ランキングに名を連ねられたこと自体が奇跡だと思っている。
「そうだったんだ。意外だな」
「……」
「……」
再び気まずい空気が流れる。
『おい、聞こえるかー!?』
それを打ち消したのは、東京にいるという健二の友人、佐久間だった。
健二が表情を変えて受話器を手に取る。
「聞こえてる!」
『よかった、無事だな!?』
「うん!こっちは大丈夫」
『だいたい真犯人がわかってきたぞ!!いいか、よく聞け。あいつは人間じゃない』
「人間じゃない?人間じゃないってどういうこと!?」
『AIだよAI。人工知能』
佐久間のその言葉を聞いて、やっと腑に落ちた。
あんな急激な進化、人間ではまずあり得ない。
人工知能であれば戦闘中の模倣、及びその応用にも説明がつく。
『ピッツバーグのロボット工学研究所から、開発中の実験用ハッキングAIが脱走したらしい』
「脱走?」
『通称、ラブマシーン』
「ラブマシーン…」
愛に飢えた怪物は、渇きを満たすために知識を吸収していく。
渇愛の人工知能、ラブマシーン。
敵の名前は思いの外、親しみやすい呼び名だった。
開発者は何を思い、これにラブマシーンと名付けたのだろうか。
「…パソコン、返して」
「あ、ごめん」
おなまーえは佳主馬から奪い取ったパソコンを、スライドさせて彼に返す。
彼は文字化けの少ない、新しくできたばかりの掲示板を開く。
タイトルは『史上最弱、キングカズマ』。
「やめなよ、こんなの見るの」
「なにこれ。ひどい書き込み」
おなまーえと健二が見るのを止めるように言っても、彼はそれらに書き込まれた誹謗中傷を一つずつ読んでいく。
「気にすることないよ!ゲームなんだし」
「ゲームじゃないよ、スポーツ」
「へ?」
「健二さん、この人のスポンサーの数いくつかしってます?」
「え?そんなすごいの?」
OZに出資している企業の約半数が彼のスポンサーをやっているのだ。
CMにも出ているため、彼の収入はきっと普通のサラリーマンの比ではない。
「戦って勝つのが好きなんだ。別にゲームは好きなんかじゃない」
「そうなんだ」
それは初耳だった。
幼い頃、彼にゲームを教えた自分としてはなかなかに傷つく発言だったぞ、今のは。
「でも奴は違う。奴はゲームが好きなんだ。僕にはわかる」
「ということは、奴の目的は…」
健二がそこまで言うと、居間の方からドタドタと騒がしい足音が聞こえてきた。
一人二人ではない。
これはもしや、とうとう報道されていることが陣内家の一員の目に止まってしまったのだろうか。
それとも夏希の盛りすぎた設定が嘘だとバレてしまったのだろうか。
「いたぁ!!」
「「「いたぁあ!!」」」
一家総出で健二のことを探していたらしい。
狭い納屋の入り口に、大の大人が10人ほど押しかける。
あれよあれよという間に納屋は押し寄せる人でいっぱいになり、とうとう前方の人たちが耐えきれずに転倒した。
どたーんと倒れこんできた人の山の中から、夏希が苦笑いしながら笑みを浮かべる。
「えへへ、バレちゃった」
「バカ姉貴」
どうやらおなまーえの予想の両方が当たったらしい。
あれよあれよと言う間に、健二はズルズルと引きずられ、居間の方に連れていかれた。