2戦目
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夕食会では姉が健二を皆に紹介して、なんだかもう結婚するみたいな空気が流れていたが、これも二人が選択した結果だと、おなまーえは何も言わなかった。
二世がどうのという万作叔父さんの下ネタも物ともせずに、おなまーえはカツカツと自身の食事を済ます。
明日からは納屋で食べてもいいかもしれない。
聖美が何か言いたげにこちらを見ていたが、おなまーえはサクサクと自身の食器を片すと、コップ一杯の麦茶を注ぎ、座布団を拝借して再び納屋に向かった。
「おまたせ」
「ん」
今度は足音を隠さずに、自然な流れで納屋に入る。
佳主馬は心なしか端に寄っていて、おなまーえが画面を見やすい位置を調整してくれたようだった。
麦茶をテーブルの空いている位置に置けば「ありがと」と小さく感謝の言葉が聞こえた。
納屋の観覧席を調整してくれたことにより、おなまーえと佳主馬の距離はもっと近づいた。
二人の肩の距離、0センチ。
彼の左腕とおなまーえの右腕が時折ぶつかる。
あのしっとりとした匂いだけではなく、少し高い体温まで直に伝わってくる。
当たる部分が妙に熱を持って仕方ない。
佳主馬が画面上で真剣勝負をしているというのに、隣でこんなことを考えてたら怒られるだろうか。
薄暗い部屋に煌々と光るパソコンにより、お揃いの髪色がちらちらと光る。
彼の目は真剣そのもので、時折揺れる前髪が隠れている右目を晒す。
よく似合っている。
私も同じような髪型にしようか。
というか、男のくせにまつ毛が長い。
顎の形も綺麗だから、横顔がとても様になっている。
「……」
「……」
「……」
「……あのさ」
タンっとエンターキーを押して、佳主馬は声を発した。
画面には「YOU WIN」の文字がデカデカと表示されている。
「なに?」
「そんなにジロジロ見られると恥ずかしいんだけど」
「え?」
そこでようやくおなまーえは画面ではなく、佳主馬の横顔に見惚れていたことに気がついた。
「っ、あっ、ご、ごめん…」
パッと視線を逸らし、座り直して距離を取る。
つい見入ってしまっていた。
気持ち悪いと思われただろうか。
頬を赤らめ、顔ごと視線を逸らしたおなまーえに、佳主馬は話しかけようとして、ピクリと背後の他の気配に反応した。
「あ、おなまーえちゃん」
「え!え、あ健二さん…」
「…なんか用?」
戸の手前からそっとこちらを伺っているのは、夏希の彼氏役の小磯健二だった。
こんな奥まで来るとは、何か用事でもあったのだろうか。
おなまーえに代わって、佳主馬がツンケンとした態度で要件を伺う。
「いや、なんか迷っちゃって」
「トイレなら戻って右」
「あ、ありがとう」
おなまーえの赤らんだ頬と昼間の会話から察するに、この少年が彼女の好きな人なのだろうと、健二は容易に推測できた。
夕食会ではこの少年の姿は見かけなかったが、一体誰の子供なのだろう。
というよりお腹は空かないのか。
どうしてこんな奥で閉じこもってパソコンをしているのか。
おなまーえはなんでそんなに顔を真っ赤にしているのか。
疑問は尽きないが、好きな人との逢瀬を邪魔するほど、彼も野暮ではない。
「…じゃ」
健二はそそくさと納屋を後にした。
「……誰?今の人」
ツンとした態度をそのままに、佳主馬はおなまーえに問いかける。
「あえっと、小磯健二さん。恋人役の」
「は?」
「あ、私じゃないよ。夏希の…」
「…あそ」
怖かった。
「は?」と言った彼がほんの少し怖かった。
食い気味に、ちょっと怒ったような顔だった。
佳主馬に他意はなかったのだろうけれど、おなまーえの恋人と勘違いして怒った彼に、少し嬉しいと感じたのは自分の自惚れだ。
「ばあちゃんに紹介したんだって」
「なんて?」
「お婿さんになる人って」
「バカなの?」
「夏希は昔からバカだよ」
何事もなかったかのように、佳主馬は座り直して画面に向き合う。
カタカタと操作をして、トレーニングを再開する。
後ひと月もしないうちに百人組手のイベントがあるから、そのための調整をしているのだろう。
「おなまーえもいつか連れてくるの?彼氏」
「私彼氏いないよ」
「あそ」
「…佳主馬は?」
「いない。興味ない」
「…そっか」
本当に興味なさげに、彼はタイピングする手を止めない。
興味がない。
それは女に対してという意味だろうか。
安堵すると同時に、ひどく落胆した。
(…まぁ、恋愛ごとに興味のあるような性格じゃないけどさ)
だからこそ惹かれたんだけれど。
というより、そもそも彼にとって自分とはなんなのか。
ただの親戚以外の何者でもないんじゃないか。
女としてすら見られてない疑惑もある。
(落ち込むなぁ…)
再従兄弟なら結婚できるのに、とおなまーえはがくりとうなだれた。
「……」
「……」
「……おなまーえ」
「…なに?」
「…あのさ」
名前を呼ばれて、おなまーえは顔を上げる。
相変わらず彼の目は画面の奥しか捉えていない。
が、珍しく言い澱み、彼は言葉を選んで紡いだ。
「…見たかったらいつでも見ていいから」
「……試合?」
「じゃなくて。さっきの話」
「さっき…」
数分前の記憶を起こす。
「あ」
おなまーえがじっと佳主馬のことを見ていて、それが恥ずかしいと言われたことを思い出した。
「え、その…」
「嫌じゃないから、好きにすれば」
「あ、ありがとう…?」
画面のウサギと佳主馬の真剣な表情を見比べる。
ほんの少し、彼の浅黒い頬が熱を持っていることには、おなまーえは気がつかなかった。