捌
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昔話をしよう。
私は父と母、そして祖父との四人暮らしだった。
父は鬼殺隊の甲の位にいて、非常に優秀な隊員であった。
その父を育てあげたのは、かつて柱にまで上り詰めたことのある祖父。
祖父は父のことを誇りに思っていたし、実際に父はとても強かった。
母は家をよく支えていて、こんな女性になりたいと幼心ながら憧れていた。
家族間は良好。
父もなるべく頻繁に自宅に帰ってきてくれていて、特に不便を感じたことはなかった。
家族四人で囲む団欒が、おなまーえにとって当たり前の日常だったし、それがずっとずっと続くものだと思っていた。
――あの日までは。
父は本当に優秀な隊士だった。
ゆくゆくは柱になるんじゃないかと期待されていたほどの実力とセンスを兼ね備えていた。
だから必然的に回ってくる任務は大きなものだったり、難易度が高いもののことが多く、怪我をすることも珍しくはなかった。
ある日、父は鬼舞辻無惨に出会った。
どのような経緯で、どうして出会ったのかはわからないけれども、鬼舞辻無惨に遭遇したことだけは確かだった。
だってその日、夜分遅くに帰宅した父は、悪鬼へと成り果てていたのだから。
「母さんっ!!」
「っ、おなまーえ、あなたは逃げなさい!」
鬼となった父に腕を食われながらも、母は懸命におなまーえを逃がそうとした。
だが逃げるにもこの家の出入り口は一つしかないし、窓には背丈が届かない。
運悪く、祖父は街に出かけて行ってしまって、その日家にいたのは母とおなまーえだけ。
「っ!!」
少女が下唇を噛むと、口いっぱい鉄の味が広がった。
骨がひしゃげ、血肉を貪る音にただただ震える。
母が目の前で食われていくというのに、自分は何もすることができないのか。
「ぁ…」
その時、彼女の視界に、自分とほぼ同じ丈の日輪刀が目に入った。
みょーじおなまーえは実際に鬼殺の光景は目にしたことはない。
訓練もしたことがないし、刀なんて握ったときは祖父に危ないと注意される始末だった。
「っ」
けれど、話だけは聞いていた。
鬼は、日輪刀で首を切り落とすのだと。
日光以外では死なない不老不死性と、超人的な身体能力や怪力を持つ鬼は、人の血肉を食らって強くなる。
今、父は何人の人を食ったのかわからない。
けれど母が食われる前に、私が食われる前に、ここで父を倒さなければ、悪鬼をこの街にのさばらせてしまう。
私がやらなければ。
私がやらなければ。
私がやらなければ。
――私にしか、できないのだ。
「あ゛あぁぁああ!!!」
そこからの記憶はひどく曖昧だ。
自分の背丈より大きい日輪刀を振り回し、おなまーえは父だったものの首を切り落とした。
母はすでに手遅れだった。
翌朝、帰宅した祖父が見たものは、事切れた母と父の隊服にすがりついて泣くおなまーえの姿であった。
祖父は、口にはしなかったが父のことをとても深く愛していた。
ゆくゆくは柱になるだろうと大きく期待をしていた。
鬼を一匹でも多く殺す可能性を持っていた父を、おなまーえは殺してしまった。
――父を殺した。
それが彼女の全ての原動力である。
父の代わりになると言わんばかりに、おなまーえは祖父に教えを乞うた。
祖父が天寿を全うし亡くなっても、一人で鍛錬をこなし、最終選別に挑んだ。
父より強くなって、父の代わりに一人でも多くの人を救うのだと。
自分のような悲しい思いをする子を一人でも減らしたいと。
おなまーえは今日も鍛錬に精を出すのであった。