#08
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#08 責任転嫁は常套手段
船原ゆきが死んだ。
常守朱の友人だった。
頸動脈を剃刀で切られ、出血多量で死亡。
犯人である槙島聖護は依然逃走中。
事件現場のエリアサイコパスは規定値を大幅に上昇し、一般人の避難が行われた。
「ぁ…」
声が出ない。
足がおぼつかない。
その日は、雪でも降りそうな天気だった。
項垂れ、体を震わせる朱を見て、おなまーえは顔面から血の気が失せた。
一歩後ずさりをする。
うそだ。
嘘だと言ってくれ。
嘘だ。
嘘なんだ。
(私の、せい…?)
――否。
これは槙島捜索に、常守朱を巻き込んだ狡噛に非がある。
深淵を覗く時、深淵もまたこちらを覗いている。
常守朱は狡噛とともに行動するあまり、闇を見つめすぎた。
ただそれだけのこと。
――本当に?
もし、槙島に繋がる協力者の真名をみょーじおなまーえが明かしていたら、こうはならなかったのではないのか。
少なくとも狡噛慎也は、常守朱ではなく、みょーじおなまーえに近づいただろう。
結果的に船原ゆきは死なずに済んだかもしれない。
みょーじおなまーえが、チェ・グソンのことを明かしていれば。
「…っ」
おなまーえはとうとう膝から崩れ落ちる。
(私の、せいだ…)
自分のことを棚に上げておきながら、結局のところ復讐に目が眩んでいたことを痛感する。
(……ごめんなさい)
共犯者である自分は、朱になんて声をかければいいのかわからなかった。
****
どうやって帰ったのか、それすらもあやふやなままみょーじおなまーえは本部に戻った。
狡噛慎也は全治1ヶ月。
常守朱も精神的に憔悴し、一係は大きなダメージを負った。
「…ったく」
どういうわけか、縢秀星は本部に着くなりみょーじおなまーえを自室に連れ込んだ。
何度も潜った扉なのに、どうしてか今日は億劫に感じた。
彼は乱暴に彼女をソファに座らせた。
「ありゃどういうことだ」
「……どう?」
「とぼけんな」
いつもより低い声。
これは、怒りの感情だろうか。
(……もう誤魔化しきれないよね)
おなまーえは半ば憔悴した顔を重たく上げた。
「……彼とは御堂将剛の事件で出会ったの」
廃棄区画に呼び出され、罠だと薄々感じていながらも、それでも半ばヤケになっていた私は誘いに乗った。
「お前を誘拐した相手か?」
「うん。でも、チェ・グソンは私を逃させてくれた。」
「それでもあいつは犯罪者だ」
縢が怖い形相で肩を掴んでくる。
力が強くて、ちょっと痛い。
(…….ああ、もしかして私があの男に絆されてると思ってるのかな)
別に絆されてなんてない。
だってあいつは槙島の仲間で、間接的に何十人も市民を殺してて、シビュラの正体を暴こうとしてくれている、天才ハッカーだ。
そう。
シビュラの正体。
みょーじおなまーえの大切な人の未来を奪った、憎々しいシステム。
「……」
おなまーえは顔をうつむかせた。
黙り込んだ彼女をそっとしておくという選択肢はとうに失った。
今は一刻も早く確かめなければならないことがある。
縢は険しい顔つきのまま続けた。
「『その程度の理由でシビュラに対抗しようとしている』」
――ビクッ
彼女の体が跳ねた。
「アイツはそう言ってたよな?」
「……そんな前から聞いてたんだ」
チェ・グソンとの会話を、どの辺りから聞いてたか気にはなっていた。
そんなに前から居たのであれば、もっと早く助けてくれれば、こんなに心が折れることもなかっただろうにと、内心悪態を吐く。
肩を引っ張られたかと思えば、ソファに横向きに押し倒される。
「お前、どういうつもりだ」
「……」
天井に回っているプロペラを眺めて、おなまーえは現実逃避を試みる。
「……」
「おい、呆けんな」
視界いっぱいに彼の顔が映る。
手足を押さえつけられて、視線もロックされて、これでは逃げ場がないではないか。
(……潮時かな)
観念したようにおなまーえは口を開いた。