#04
夢小説設定
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#04 背後注意
「……ここのはず」
辿り着いたのは、もう使われていない廃棄区画のビル。
かつては下北沢と呼ばれて、サブカルチャーを好む若者で溢れていた街だ。
だがかつての賑わいは身を潜め、全体的に塗装が剥がれ、窓ガラスは割れている。
指定された場所を間違えていないか何度も確認したが、残念なことにこの場所に間違いはなかった。
(護衛、確かに必要だったかもね…)
縢を置いてきたことが少々悔やまれる。
憎まれ口を叩かれようが、宜野座に返却するべきではなかったか。
(…って、何弱気になってんの。あんな鈍い奴に頼らなくたって、私は大丈夫だもん。)
パシパシと頬を叩く。
大丈夫、私にはドミネーターがついている。
『――システムエラー』
その肝心のドミネーターが圏外になっていることに、おなまーえは気がつかなかった。
約束の時間ぴったり。
おなまーえはそろりそろりとビルに入る。
人の気配はない。
(反故された?勘付かれちゃったかな…)
雄一くんに久々に会いたい云々と理由をつけたが、冷静に考えると時任雄一が亡くなっていることくらい、犯人も重々承知していることだろう。
会いたいという連絡に対し二つ返事で了承をしたということは、罠か、それともとんだアホなのか。
「こーんな所に一人で来ちゃ危ないですよ」
「っ!?」
不意に背後から声をかけられ、おなまーえは思わず距離を取る。
「おおっと。そんなに驚かなくても。」
降参のポーズをとった細目の男は、ニコニコと笑ってこちらに向かって歩いてきた。
「あ、あなたは?」
「私ですか?観光に来た外国人、とでも言っておきましょうか。」
「観光客がこんな場所に何の用?ここは廃棄区画。観るものなんて何もないわ。」
「おー怖い怖い」
凄んでも、男は怯む気配を見せない。
ジリジリと距離が縮まっていく。
そろそろドミネーターを向けるべきか。
――スチャ
おなまーえは銃口を男に向けた。
「止まりなさい。それ以上近づけば公務執行妨害として相応の処罰を下します。」
「勇ましいのは結構ですが、ここ、圏外ですよ」
「え、ウソ…?」
カチカチとトリガーを引いても何も出てこない。
『システムと接続できません』
指向性音声が無慈悲に告げた。
「残念でしたねぇ」
――ガッ
「!?」
背後からもう一人の男に組み敷かれた。
うつ伏せに打ち付けられ、頬を強打する。
腕を押さえつけられた拍子にドミネーターは落としてしまった。
「っ!離しなさい!!」
「君が刑事か?」
「っ、そうです。もうすぐ応援が来ますから、今すぐその手を離しなさい!」
抵抗しようにも、中背の男のパワーには勝てない。
細目の男はデバイスらしきものを楽しそうに確認する。
「ンー、おかしいですねぇ。今こちらに向かっている公安車両は一台もありませんが。」
「クッ…」
「これはこれは、楽しい夜になりそうですねぇ」
じたばたと暴れるおなまーえの口に、細く千切られた布切れが巻きつけられた。
「〜〜〜!!」
あれよあれよという間に手足を固定され、腕時計型のデバイスは細目の男にとられてしまった。
(っ、ヤダ…)
20年前と同じだ。
男の人ってなんでこんなに力強いのだろうか。
キッと細目の男を睨みつける。
気がついた彼は愉快そうに笑っておなまーえに目隠しを装着した。
「〜〜!!!」
「…全く」
男の唇がおなまーえの耳元に寄せられた。
「騒がないでください。じゃないとあなたここで殺されちゃいますよ?」
「っ!?」
殺される?私が?
……ああ、そうか。
いつも執行官が盾となり矛となっていたからこういう感覚は久しく感じていなかった。
捜査が命がけのものだなんて、そんな当たり前のことをどうして失念していたのだろう。
早る心臓を抑えつける。
落ち着け。
落ち着け。
落ち着け。
今ここで死ぬのは避けたい。
細目の男はどうやらみょーじおなまーえを殺すつもりはないようなので、この場は大人しく切り抜けるのが吉だろう。
「………」
打って変わって大人しくなったおなまーえに、チェ・グソンは満足げな顔をした。
「この女は邪魔だ。が、殺すにも今日は時間が惜しい。処理はお前に任せる。」
「私は便利屋さんじゃないんですけどねぇ」
おなまーえを台車に載せたチェ・グソンは、文句の一つこそ言うものの、案外満更でもない様子。
「ま、こんな可愛いお嬢さんを頂けるってんなら文句はありませんよ。せっかくですし、少しくらい味見しましょうか。」
「っ!?」
「……勝手にしろ」
「ええ、勝手にします」
ガラガラと大きな音を立てて、チェ・グソンは台車とともに退室していった。
御堂はこれからタリスマンとしてオフ会に参加しなければならない。
今、自分があの刑事に構っている暇などない。
チェ・グソンなら、口封じは完璧に遂行してくれるだろう。
「それにスプーキーブーギーもそろそろだ。オレが彼女を守ってあげなくては。」
御堂の目は、深淵のように暗く深いものだった。