2月12日
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スイスでは、たった20秒で人を穏やかに死なせる投薬が認められている。
この安楽死というものは便利なもので、強制的に意識を沈めさせる効果を持つ。
日本では、安楽死が道徳的にアリかナシかと問われることがよくある。
だが、おなまーえに言わせてみれば「生死の狭間を彷徨う苦しみを味わったことのないやつが、そんな議論をしていることが不毛だ」。
患者の苦しみは、患者にしかわからない。
いくら同情されようとも味わう痛みと苦しみは消えることはない。
肉体的な痛みや苦しみはやがて精神までも蝕んでいく。身体と心どちらも壊れてしまった自分を、果たして人は受け入れられるのだろうか。
2月12日
ランサーはおなまーえを病院に送り届けた後、事情聴取やら何やらをされて随分と時間を食ってしまった。
「何も知らない」
その一点張りでなんとか解放された頃には、おなまーえの手術は無事に終わっていた。
とはいえそれは延命治療、その場しのぎの応急処置に過ぎない。
主人の無事を確認したのち、彼は主人の望みを叶えるために1人、遠坂凛と衛宮士郎の元へ向かった。
2人はすぐに見つかった。
どうやらセイバーが誘拐され、アーチャーが遠坂凛を裏切ってキャスターについたということ、それからバーサーカーがギルガメッシュという男にやられたことが2人の会話からわかった。
「まぁ、今はキャスターの方が大事だから、後回しにするしかないんだけど」
「そうだな」
生身の人間がサーヴァントに挑むなど、実に愚かなことだ。
一騎だけならまだしも、敵は3騎。
確実に勝ち目はない。
そろそろ頃合いか、と彼は重い腰を上げた。
「お前たちふたりだけでか?んなの通用するわけねぇだろ、まぬけ」
「「ランサー!?」」
先日接触した時と変わらない反応だ。
あの時は警戒されないよう手を尽くしていたが、今回はそんな気は回していない。
「あん時は世話になったな、お二人さん」
遠坂凛はガンドの構えを、衛宮士郎は木刀を持った。
「士郎、離れて!」
「遠坂、走れ!」
「私が引きつけるから森に走って!」
「俺が食い止める。遠坂は距離を取ってくれ。」
互いが互いを押しのけ庇い合う、なんとも間抜けな状況だ。
遠坂凛の指先がランサーから衛宮士郎に移る。
「――ちょっと待った。あんた、自分を大切にするってさっきの話、全然聞いてなかったみたいね!?」
「それはいいんだって言っただろう。あいつとは二度目だし、ここは俺の方が向いてる。」
「相手は歩兵よ?飛び道具である私でしょ!?」
「だからこそだろ!遠坂は離れて後ろから援護してくれればいいんだって」
「そんな器用な魔術なんて知らないわよ!やるならあんたごと吹っ飛ばすに決まってんじゃない!」
「開き直んな!どうしてこう、何でもかんでも派手目でいこうってんだ、おまえは!」
ランサーは2人のやりとりを呆然と見下ろす。
(……なるほど、こりゃ嬢ちゃんが気にいるわけだ)
友という点では、この2人はなかなか良い性格をしている。
純粋で、それでいて無知というわけでではなく、人を思いやる感情を持ち合わせている。
言峰とつるんでいたときはどうしたもんかと思っていたが、我が主も人を見る目は一応あったようだ。
「な、なんですって、この〜!」
「危ないから下がっててほしいだけなのに…」
ランサーはしびれを切らしてスタッと降り立つ。
「よっと」
「「あ」」
「お?もう終わりか?別に急がねぇから最後まで済ましちまいな」
「「………」」
2人は痴話喧嘩をやめ、無言で先ほどの構えを取る。
「待て待て。今回もお前さんたちと戦う気はない。見るに見兼ねてな。少しばかり手助けしてやろうとでしゃばりに来たわけだ。」
「何?」
「…聞き間違いかしら?今、手助けをするって聞こえたけど」
「何だ?分かりづらいか?お前たちふたりだけじゃ、キャスターに太刀打ちできねぇ。できねぇだろうから、俺が手を貸してやるっつってんだ。」
「…そう。本当にでしゃばりね、ランサー。それはあなたのアイデア?」
「マスターからの指示だ。このあいだの礼だとよ。」
「だとしたら登場するのが些か遅すぎじゃないかしら?」
次会ったときは敵同士と言った手前、凛もなかなか引き下がらない。
「こっちにもこっちの事情ってのがあるんだ。お前らをずっと観察してたわけでもないしな。マスターが行けと言ったなら、俺はそれに従うだけさ。」
筋の通った物言いに、遠坂凛は敵意を緩める。
それに入れかわる形で衛宮士郎が一歩前に出た。