春
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少し考えさせてください。
そう言うと、竜崎先生はくれぐれも無理しないでと言った。
「困らせてすまないねえ。やりたくなかったら断っていいんだよ」
「そんなことないです。ただびっくりして何も考えられないと言うか…」
先生は笑うと、じゃあ焦らずゆっくり考えておくれと言った。
「気長に待ってるよ」
教室まで戻りながら、さてどうしたものかと考える。
何度かお手伝いさせてもらっているので部の雰囲気は知っている。ありがたいことに先輩方にも顔を覚えてもらえた。仕事も好きだ。
「海堂くん」
「小波」
反対方向からジャージ姿の海堂くんが現れる。
「あれ、次体育だったっけ?」
そもそも今日体操服持ってきてたっけ?と焦る。
「いや、違う。自主練してた」
「そっか。すごいね」
何が、と言いたげに海堂くんが私を見る。
同じクラスになってしばらく経つが、この鋭い目にはまだ慣れない。
「お昼休みに自主練するなんてすごいなあと思って」
「別にすごくない」
レギュラーになったからには、今まで以上に練習しなくてはならない。
「…そっか。ダメだよね」
「何がだ」
「あっごめん!口に出してた?」
海堂くんが怪訝そうにあぁと言う。
「俺なんか変なこと言ったか」
「違うの!考えてたことがうっかり出ちゃって」
海堂くんに話してみようかな、そんな考えがよぎる。
「さっき竜崎先生からテニス部のマネージャーを本格的にやってみないかって…テニス部の人は好きだし、マネージャーの仕事も好きなんだけど」
喜んで受けて良い話なのだ。
「…実は放課後に叔父さんのお店を手伝ってて、私その仕事も好きなんだよね」
海堂くんの反応を伺おうと顔を上げる。
「どちらか選べないってことか?」
「ソウ…ナン…デス」
マリアちゃんがいたら「カタコトか!」と突っ込んでくれていただろう。
海堂くんは眉間に深いシワを刻み、その表情からは何も読み取れない。
「ごっごめんね突然こんなこと話しちゃって!しかも練習してきて疲れてるところ引き止めちゃって!それじゃ私先教室戻ってるね」
恥ずかしさと情けなさと申し訳なさでいっぱいになる。なんでこんなこと話してしまったのだろう。自分で解決しなくてはいけないのに。
「…どっちもって答えはダメなのか」
「え?」
「俺だったら、どっちもやってみる」
目の前の彼は相変わらず仏頂面だ。
少し怒ってるようにも見える。
「どっちも…か」
考えてもみなかった答えが、私の胸を軽くする。
「…でも、それって失礼にならないかな」
「?どういうことだ」
現に昼休みの短い時間も練習している彼に、こんなことを話すことがすでに失礼だと思うが。
「みんな真剣に練習してるのに、私はお店の手伝いと掛け持ちして…って今もそうなんだけど。もしも本格的にマネージャーやらせてもらえるならもっと真剣にやりたいし」
「どこが失礼なんだ?絶対にどっちか選ばなきゃいけねぇってわけじゃないんだろ。俺だったら…テニスが上達する方法が2つあるなら2つともやる」
テニスに置き換えて考えるのが彼らしい。
何よりもただのクラスメイトのことを真面目に考えてくれたのが嬉しい。
「ありがとう海堂くん」
「別に礼を言われることじゃねぇ」
「おかげで気持ちが楽になったよ。海堂くん優しいね」
彼なりに照れているのか、ぶっきらぼうにじゃあなと言う。
去り際の彼が言った言葉が忘れられない。
「…今までだって真剣にマネージャーの仕事やってくれてたじゃねぇか」