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choosy

少し焦げ目のついたいかにも硬そうなパンを、自分よりも幼じみた手と繊細な指先で掴み、小さな口を大きく開けて頬張っている。けれど、噛むことに集中しているせいで真顔気味な彼女。

喉がコクッと動く度、膨らんでいた頬が戻るけれど、すぐに新しいパンを含んでホシガリスの様に膨らんでしまった。

「そういうパンが好みなんですか?」
話しかけると彼女は僕の顔を見て、すぐに食べ物を飲み込んだ。
「......ん?うん。こーゆう硬いパン好きなんだ。でもこれ皮はパリパリしてるけど、生地はしっとりしててね」

今日の気分で注文したわけでなく、以前からある拘りの好みだったらしい。
前から気付いていたが、彼女の穏やかな雰囲気と味覚は大きなズレが存在する。この前はカレーに、見るだけでも舌がピリピリと刺激を思い出す様なフィラの実を、適量以上に入れて煮ていたのだ。嗚呼なんて恐ろしい。

「貴方の好み、僕はあまり理解しかねます」
「ふふ、だってビートくん甘党だもんね」
「違います」
「じゃあこれは?」
ユウリさんが僕の目の前に置かれたケーキを指差す。

「...今日の気分です」
「えぇ〜、嘘つき。そのケーキ美味しい?」
「ん。このカフェのバタークリームケーキは絶品です。紅茶風味だし、ショートケーキのホイップクリームと違ってもったりしててコクがあって、三ヶ月に一度は食べたくなる味ですね...」
「なにそれ!」

上質なバターはコクがありすぎるせいで、最初の一口は口角が上がってしまうほど美味だが、後々胃もたれしてしまう。けれど、一度完食してからはその濃厚な味がすっかり癖になってしまった。

「ビートくんの好みって少し変わってる...」
「それはユウリさんが言えたことじゃないでしょう」

変と言われてしまう癖のある味覚。彼女と僕は少しだけ似た者同士なのかもしれない。
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