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kiss

小さくて美しい唇。特に上唇のメリハリのついたの輪郭は女性モデルのような綺麗な形をしている。けれど、彼の色素は私よりも薄くて、唇の淡いピンク色は幸薄い印象をもたらしていた。
そんな風に彼の唇を隙あらば観察するという礼儀に外れたことをしてしまうのは、
それは、他でもない先週の日曜日の一つのキスがきっかけであった。


デート帰りの別れ際、普段は高圧的で傲慢な言動をしている彼は、意外にも最後まで離さずに手を握っていてくれた。
付き合うことになってからの初のデートだ。彼は真面目だから、きっとこれも彼の直感的な行動ではなくて、ずっと意識してくれているのだろう。
だから、俯いていた顔を上げて私を見つめてきた時、彼の赤らめた頬を見てすぐにキスするとわかった。そういう流れだと。

心の準備が出来ていると思っていた。一瞬で終わるものだと勝手に安心して、もう来てもいいよと余裕があった。

側から見ると薄い唇が近づくにつれて立体的になっていき、私はそっと瞳を閉じた。やわらかい感触が唇を触れた瞬間、冷たそうな色をしていたのに実は温かいものであったことに気付かされる。

「ん…っ、んん、んぅ…」

何度も何度も唇を重ねて吸いついてくる。予想が外れ、私の心臓はすっかり暴れてしまって正常に戻せない。どうしてこんなにキスをしてくるのか分からなくて、止め方もわからなくて、気付けばキスだけでへろへろになってしまった。
私が彼に体を預けてしまうと、今度は、舌で口を簡単に開かせてぬるりと潜り込んできた。
「ふ、ンぁ…ん、ちゅ、ん、ぅ、ん、んぅ…」
恥ずかしくえっちな気分と、この先を知らない怖さで限界になって、彼の背中を止めてくれるまで叩いてしまった。

「...ねぇ...ビートくんのえっち」
「お子様には激しかったかもね。謝りますよユウリさん」
彼は私と同じくらい体温が上昇しているはずなのに、挑発的にニィっと口角を上げて目を細めて余裕の笑みを浮かべていたのだ。唇は私と彼の唾液が混ざり合った証拠に、色っぽく濡れていた。

バトル以外では絶対に上手を行く彼。カレー作りだって私よりもずっと上手だった。
今なら、こういうこともあると納得できるけれど、体が熱くなって息が出来なかったあの時は、ビートくんの狡猾な精神に後悔して、本当に恥ずかしくなった。すっかりやられてしまったのだ。

「そんなに見つめられたら、穴が開いてしまうでしょう」
「......ッ!」
思い出して上の空になっていたせいで、見ていたことに気付かれてしまった。

チュッっと彼がリップ音を鳴らした。
またあの時の挑発的で色っぽい顔をしている。
「...そんなにまたしたいのですか?」
「ぁ...えっと、ちが...」
「そうですか。僕はまたキスしたいけど」
「え...!!」

「その紅茶が飲み終わったら、二人になれるところへ行きましょう」
彼が頬を赤らめ、フッと微笑んだ。
私はすっかり好きな気持ちで胸がいっぱいになってしまった。
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