市村鉄之助
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ーーぼろぼろと、涙が床に落ちていっては染みを作る。次々と溢れてくるそれは、拭っても止められなくて、拭う袖に大きな染みを作るばかりで。悲しさ、悔しさ、不甲斐なさ、申し訳なさ。いろんな感情がない混ぜになったその涙は、当分止まりそうもない。
「…やだなぁ、どうして鉄之助くんが泣くの」
困ったように笑いながら、藍華……藍華さんはそう言う。ほんとは、本当は、彼女の方が辛いはずなのに。そう思うと余計に罪悪感が募って、また涙が溢れてくる。藍華さんは、そんなに擦ると腫れちゃうよ、とまた笑って言った。
ーー…鉄之助くん、わたし、鉄之助くんが好き。
事の発端は一週間ほど前、彼女のこの発言に遡る。一緒に空き部屋の掃除をしていた時に、不意に言われたその言葉に、俺は「えっ」とか「あの」とか、意味の無いような言葉しか言うことが出来なくて、結局その場は「答えが出たら教えて」という藍華さんの言葉で終わって、俺は何も伝える事が出来なかった。
今思えば、その時きちんと返事をするのが、いちばん正しかったのだろう。先延ばしにすればするほど、言いづらくなるのなんて分かってたはずなのに。…答えはもう、決まっていたのに。
しばらく悩んで、とうとう伝える決心をしたのが今日だ。「話がある……いや、あり、ます!」とぎこちなく話を持ちかけると、彼女はすぐになんの話なのかを察したらしく、「うん」と少し寂しそうに笑った。
「うっ、お、おれ、ごめんなさい、わかってたんです、返事、ひぐ、決まってた、のに」
「…うん」
「ちゃんと…っ、返事しないといけないって、わかってたのに…!」
人の想いを跳ね除けることが、同じ思いを返せないことが、怖かった。俺が逃げればそれだけ、思いを踏みにじることになるのは、分かっていたのに。
「……鉄之助くんは、優しいね」
「…………え」
「わたしだって、謝らなくちゃいけないの……きみに。分かってて気付かないふりをしたのは、わたしも同じだから」
そう言って、彼女は今日初めて、笑顔以外の表情を見せた。悲しそうな、苦しそうな、そんな思いに押しつぶされてしまいそうな、そんな顔を。
「鉄之助くんが断るの……本当はわかってた。分かってて……でも、どうしても、伝えたかったの。伝えるくらいなら許されるかなって……ほんとうに、馬鹿なことしちゃった。君を無駄に悩ませて、苦しませて……ほんとに、ごめん………」
そう言って、苦しそうな顔で、また、わらった。
「……でも、ありがとう」
「…何が?」
「わたしのことで悩んでくれて……本当に」
「……アンタは、泣かないの」
不意に出た疑問だった。彼女はとても悲しそうで、それはすごく伝わってくるのに。
彼女はふふっと笑って、「泣かないんじゃなくて、泣けないの」と言った。
「それに……鉄之助くんが、わたしのぶんも泣いてくれたから。もういいの」
「藍華、さん」
「その呼び方もやめてよ。……畏まらないで、いつもみたいに呼んで。その方がずっと嬉しい」
清々しい表情の彼女に、俺は言葉をつなぐ。
「藍華……ごめん、本当に」
「うん」
「それと…ありがとう。好きに、なってくれて」
「……うん」
彼女は、藍華は、そう言って、また嬉しそうな顔で、笑った。
「…やだなぁ、どうして鉄之助くんが泣くの」
困ったように笑いながら、藍華……藍華さんはそう言う。ほんとは、本当は、彼女の方が辛いはずなのに。そう思うと余計に罪悪感が募って、また涙が溢れてくる。藍華さんは、そんなに擦ると腫れちゃうよ、とまた笑って言った。
ーー…鉄之助くん、わたし、鉄之助くんが好き。
事の発端は一週間ほど前、彼女のこの発言に遡る。一緒に空き部屋の掃除をしていた時に、不意に言われたその言葉に、俺は「えっ」とか「あの」とか、意味の無いような言葉しか言うことが出来なくて、結局その場は「答えが出たら教えて」という藍華さんの言葉で終わって、俺は何も伝える事が出来なかった。
今思えば、その時きちんと返事をするのが、いちばん正しかったのだろう。先延ばしにすればするほど、言いづらくなるのなんて分かってたはずなのに。…答えはもう、決まっていたのに。
しばらく悩んで、とうとう伝える決心をしたのが今日だ。「話がある……いや、あり、ます!」とぎこちなく話を持ちかけると、彼女はすぐになんの話なのかを察したらしく、「うん」と少し寂しそうに笑った。
「うっ、お、おれ、ごめんなさい、わかってたんです、返事、ひぐ、決まってた、のに」
「…うん」
「ちゃんと…っ、返事しないといけないって、わかってたのに…!」
人の想いを跳ね除けることが、同じ思いを返せないことが、怖かった。俺が逃げればそれだけ、思いを踏みにじることになるのは、分かっていたのに。
「……鉄之助くんは、優しいね」
「…………え」
「わたしだって、謝らなくちゃいけないの……きみに。分かってて気付かないふりをしたのは、わたしも同じだから」
そう言って、彼女は今日初めて、笑顔以外の表情を見せた。悲しそうな、苦しそうな、そんな思いに押しつぶされてしまいそうな、そんな顔を。
「鉄之助くんが断るの……本当はわかってた。分かってて……でも、どうしても、伝えたかったの。伝えるくらいなら許されるかなって……ほんとうに、馬鹿なことしちゃった。君を無駄に悩ませて、苦しませて……ほんとに、ごめん………」
そう言って、苦しそうな顔で、また、わらった。
「……でも、ありがとう」
「…何が?」
「わたしのことで悩んでくれて……本当に」
「……アンタは、泣かないの」
不意に出た疑問だった。彼女はとても悲しそうで、それはすごく伝わってくるのに。
彼女はふふっと笑って、「泣かないんじゃなくて、泣けないの」と言った。
「それに……鉄之助くんが、わたしのぶんも泣いてくれたから。もういいの」
「藍華、さん」
「その呼び方もやめてよ。……畏まらないで、いつもみたいに呼んで。その方がずっと嬉しい」
清々しい表情の彼女に、俺は言葉をつなぐ。
「藍華……ごめん、本当に」
「うん」
「それと…ありがとう。好きに、なってくれて」
「……うん」
彼女は、藍華は、そう言って、また嬉しそうな顔で、笑った。
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