突然異世界に飛ばされて数ヶ月。
こっちでの生活にもようやく慣れてきた。

普通に生活するのは元いた世界とそこまで変わらないから大丈夫だとしても学校生活、特に魔法を使った授業はなかなかハードモード。

座学でなんとかなる魔法史や魔法が必須ではない魔法薬学は努力でなんとかなるとしても、実際に魔法を使う防衛魔法や古代呪文語なんかは話にならない。

グリムの成績が自分の成績に繋がるなんてあんまりだ。

とはいえ何も努力をしないのもあれだし、友人たちにポツポツと手伝ってもらっている。

ジャックには動物言語学、エースには魔法解析学という感じでなんとか頑張ってるが、いつだって唐突に限界というのはくるもので。

いつもはなんてことはないスルーできる一言がなぜだが妙に今日は心にぐさっときてしまったのだ。

『こんなこともできないの？笑』

いつものただの軽口。
向こうだって本気で言ってたわけじゃない…と思う。

けど余裕がなくていっぱいいっぱいな心には堪えたな。

そんなこんなで今私は
オンボロ寮のベッドで毛布にくるまりながら
1人でさっきの言葉を思い出して泣いている。

負けたくないって思っても
どうしても心が弱ってる時はダメなんだな

グリムがいなくてよかった。

誰にもバレずに1人で泣くことができる。

そうやって声も出さずに1人で泣いていたら
急に窓の外でカタンと音がした。

「む…、すまぬ。取り込み中だったか」

リリア先輩だ。
最悪。

今一番会いたくない人。

「何かご用ですか？」

「近くに寄ったからの。お主がおるかと思ってきたのだが、タイミングが悪かったようじゃ」

タイミングが悪い、それがわかってるならなんで声なんてかけてきたんだ。
ティッシュで無理やり涙を拭く。

「何かあったのか？」

「別に、なにも…」

「何もない、というにはすこーしばかり無理がある気がするがの。まあだが言いたくないというのなら何も聞くまい」

そうやってこっちを気遣ってくれる、そんな先輩が好きだというのは内緒だ。

「よっ…と。ここにいる分にはよいか？」

そう言ってベッドサイドにある椅子に先輩は腰掛ける。
別に追い出す理由もないので無言で頷く。

リリア先輩の顔を見たらなんだがほっとして、あぁ好きだなって気持ちが心を満たして、さっきまで泣いていたから瞼が熱いな、なんて呑気なことを考える余裕も少しだけできてきたのに

「ふ…、そう無理せずともよい。お主は十分頑張っておる」

なんて頭を撫でて微笑みながら言われるもんだから
さっき引っ込んだ涙がまた溢れ出てきた。どうしてくれるんだ。

「うーーーっ…」

「おお、よしよし。大丈夫じゃ。リリア先輩はここにおるからの。思いっきり泣いていいんじゃよ」

そう言ってまた頭を撫でてくれる。

「頭撫でないでください…」

「なぜじゃ？嫌だったか？」

そういうわけではないので首を振る。

「ならば？」

「もっと泣いちゃうじゃないですかぁ…」

そう言うとリリア先輩は面白いことを聞いたとばかりにくふふと笑って私が落ち着くまで、ずっと隣で頭を撫でてくれた。