鴉零
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「後65番も」
バイト先のコンビニ、午後八時半。
そろそろ上がる時間だなと気を抜いていたタイミングで来た、グレーの制服の人。
制服、そう制服。法律では売ってはいけないけれど、店長からグレーと黒の学ランには売ってもいいと入店初日に言われてからずっと守っている。
今私に頼んだのはいつも買うセブンスターの黒色。もう一年半もバイトをしているけど、未だに煙草には詳しくなれない。
「こちらでよろしいですか?」
棚から出した黒い箱をグレーの人に見せる。
私よりも上にある目が黒い箱を見て、私の方を見つめた。
黒くて吸い込まれそうな瞳と、すっと通った鼻筋。綺麗な顔をしてるなあ。
高校生にしては大人っぽい顔にこの学ランは何だかチグハグで、少しだけおかしい。
この人なら学ランを着ていても、煙草を売ってもいいなあと無条件で思ってしまう。きっと女の子にも苦労しないんだろうな。
「ねえお姉さん。」
「え、はい」
「もしよかったら、連絡先教えてくれない?」
私の上から降ってきた言葉、思いもよらなかった言葉がお客さんから降ってきた。
連絡先を交換なんて男の人から初めて言われた。多分からかわれている。だって、こんなアルバイトの女子高生に一体全体どこに魅力を感じたというのだ。きっと私がその気になったら、この人は冗談だよと薄く笑うはずだ。
「すみません、お客様とのそういったやり取りは受け付けないように言われているので。」
我ながらいい誤魔化し方だと思う。これなら誰も傷つかないだろう。
「ああそうなんだ、残念。」
そう言うとお兄さんは煙草を手に自動ドアへ向かう。後ろ姿だけで語るような、これが背中で語るということなんだろう。たまに一緒に来る悪そうなお友達がこれでもかと担ぎ上げていた理由が分かる気がする。だからこれでいい、お兄さんとはきっと住む世界が違うから。
外に出たお兄さんは買ったばかりのあの煙草に火をつける。口に咥えて吹き出した煙が弧を描くように上へ登っていく。あの黒い箱からは考えられないようなふわっとした煙がお兄さんを包むようで、思わず見とれてしまったなんてことある筈が無い。
「お疲れ様でした〜」
「お疲れ〜」
バイトを終えた午後九時過ぎ。時期にしては少し肌寒い風にブレザーを羽織ってみる。
やっぱり寒い。制服のリボンも少し曲がっているし前髪はいつもより真っ直ぐではない。スクールバッグに入れた手鏡で確認しても元には戻らないし、朝よりケープが取れている。前髪が整わないだけでこんな気持ちになるなんて、女子高生は不思議だ。
ケープが完全に取れてしまう前に早く家へ帰ってしまおう。コンビニ横に置かれた灰皿から煙がふわっと浮く。その時何故かあのお兄さんを思い出してしまって照れくさくなった。
「お姉さん」
電柱で隠れた灰皿をウォークマンを操作しながら横切ると、後ろから飛んできたフレーズ。約三十分前に聞いた声色とそっくりで肩がビクついた。
「あ、さっきの」
私に声をかけたお兄さんはじゅっと煙草を消してこっちに歩いてくる。歩幅が私よりも大きく脚が長くて羨ましい。これだけスタイルがよかったら、着る服は全て似合ってしまうだろう。グレーの学ランだってきっと普通なら着こなせない、お兄さんだから様になるんだ。
「こんばんは。」
「こ、こんばんは」
私の目の前に広がるグレー。さっきまで吸っていた煙草の匂いを私の方にまで持ってきて、煙草と大人っぽい香水が混ざっていて、まるで私より何歳も年上の人みたいだ。
「今はお客様じゃないから、いいでしょ」
お兄さんがそう言って取り出したのは無機質な携帯電話。
裏にプリクラが貼ってある私のピンク色の携帯電話とは大違いだった。
「それとも、彼氏居たりする?」
「いや、あの、居ないですけど」
「じゃ、交換」
半ば強引に交換されたメールアドレス。
男の人に教えるなんて久しぶりで、あるはずも無いのに期待してしまって恥ずかしい。
戸惑っているなんて悟られたくなくて、髪の毛を耳にかける。早く、出来るだけ早く、この場を立ち去りたい。
「あ、お姉さん名前は?何年?」
「夢です、二年です。」
「二年か。じゃあ後輩だ、よろしくね夢ちゃん」
夢ちゃん。お兄さんから発せられた自分の名前。名前だけでこんなにどきどきするなんて、指の先から流れている血を感じるなんて、今まで無かった。
「俺、鳴海大我。鳳仙の三年」
鳳仙、鳴海大我。近付いちゃいけないってクラスの男子が言っていた。
鴉と同じくらい危険だって。鳴海大我には気を付けろって、目を付けたら離してはくれないって。
バイト先のコンビニ、午後八時半。
そろそろ上がる時間だなと気を抜いていたタイミングで来た、グレーの制服の人。
制服、そう制服。法律では売ってはいけないけれど、店長からグレーと黒の学ランには売ってもいいと入店初日に言われてからずっと守っている。
今私に頼んだのはいつも買うセブンスターの黒色。もう一年半もバイトをしているけど、未だに煙草には詳しくなれない。
「こちらでよろしいですか?」
棚から出した黒い箱をグレーの人に見せる。
私よりも上にある目が黒い箱を見て、私の方を見つめた。
黒くて吸い込まれそうな瞳と、すっと通った鼻筋。綺麗な顔をしてるなあ。
高校生にしては大人っぽい顔にこの学ランは何だかチグハグで、少しだけおかしい。
この人なら学ランを着ていても、煙草を売ってもいいなあと無条件で思ってしまう。きっと女の子にも苦労しないんだろうな。
「ねえお姉さん。」
「え、はい」
「もしよかったら、連絡先教えてくれない?」
私の上から降ってきた言葉、思いもよらなかった言葉がお客さんから降ってきた。
連絡先を交換なんて男の人から初めて言われた。多分からかわれている。だって、こんなアルバイトの女子高生に一体全体どこに魅力を感じたというのだ。きっと私がその気になったら、この人は冗談だよと薄く笑うはずだ。
「すみません、お客様とのそういったやり取りは受け付けないように言われているので。」
我ながらいい誤魔化し方だと思う。これなら誰も傷つかないだろう。
「ああそうなんだ、残念。」
そう言うとお兄さんは煙草を手に自動ドアへ向かう。後ろ姿だけで語るような、これが背中で語るということなんだろう。たまに一緒に来る悪そうなお友達がこれでもかと担ぎ上げていた理由が分かる気がする。だからこれでいい、お兄さんとはきっと住む世界が違うから。
外に出たお兄さんは買ったばかりのあの煙草に火をつける。口に咥えて吹き出した煙が弧を描くように上へ登っていく。あの黒い箱からは考えられないようなふわっとした煙がお兄さんを包むようで、思わず見とれてしまったなんてことある筈が無い。
「お疲れ様でした〜」
「お疲れ〜」
バイトを終えた午後九時過ぎ。時期にしては少し肌寒い風にブレザーを羽織ってみる。
やっぱり寒い。制服のリボンも少し曲がっているし前髪はいつもより真っ直ぐではない。スクールバッグに入れた手鏡で確認しても元には戻らないし、朝よりケープが取れている。前髪が整わないだけでこんな気持ちになるなんて、女子高生は不思議だ。
ケープが完全に取れてしまう前に早く家へ帰ってしまおう。コンビニ横に置かれた灰皿から煙がふわっと浮く。その時何故かあのお兄さんを思い出してしまって照れくさくなった。
「お姉さん」
電柱で隠れた灰皿をウォークマンを操作しながら横切ると、後ろから飛んできたフレーズ。約三十分前に聞いた声色とそっくりで肩がビクついた。
「あ、さっきの」
私に声をかけたお兄さんはじゅっと煙草を消してこっちに歩いてくる。歩幅が私よりも大きく脚が長くて羨ましい。これだけスタイルがよかったら、着る服は全て似合ってしまうだろう。グレーの学ランだってきっと普通なら着こなせない、お兄さんだから様になるんだ。
「こんばんは。」
「こ、こんばんは」
私の目の前に広がるグレー。さっきまで吸っていた煙草の匂いを私の方にまで持ってきて、煙草と大人っぽい香水が混ざっていて、まるで私より何歳も年上の人みたいだ。
「今はお客様じゃないから、いいでしょ」
お兄さんがそう言って取り出したのは無機質な携帯電話。
裏にプリクラが貼ってある私のピンク色の携帯電話とは大違いだった。
「それとも、彼氏居たりする?」
「いや、あの、居ないですけど」
「じゃ、交換」
半ば強引に交換されたメールアドレス。
男の人に教えるなんて久しぶりで、あるはずも無いのに期待してしまって恥ずかしい。
戸惑っているなんて悟られたくなくて、髪の毛を耳にかける。早く、出来るだけ早く、この場を立ち去りたい。
「あ、お姉さん名前は?何年?」
「夢です、二年です。」
「二年か。じゃあ後輩だ、よろしくね夢ちゃん」
夢ちゃん。お兄さんから発せられた自分の名前。名前だけでこんなにどきどきするなんて、指の先から流れている血を感じるなんて、今まで無かった。
「俺、鳴海大我。鳳仙の三年」
鳳仙、鳴海大我。近付いちゃいけないってクラスの男子が言っていた。
鴉と同じくらい危険だって。鳴海大我には気を付けろって、目を付けたら離してはくれないって。
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