鴉零
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見た事のない鳥が、チュンチュンと鳴いている。薄目を開けて時計を見たら六時で、いつもより十五分遅いなと、働いていない頭がぼんやりとする。前髪をクリップで止めてカーテンを開けたら、勢いよく雨が降っていて、これは天気が、休めと言っているのだろう。そういえば今日は多摩雄君が勝負の日と言っていたっけ。朝から決闘なんて、一体多摩雄君達は何時代を生きているのだろう。
「今日は休みかなあ」
撮るはずだった学校の風景が頭をよぎる。机にそのままにしていた一眼レフを棚にしまう。カメラに付けている修学旅行で買ったストラップが揺れた。
着信音が鳴って開いてみたら、今日はお休み!と部長からメールが来ていた。久しぶりの何も無い休日だから、今日は足の爪のネイルでも新しくしようかな、それとも学校にしていく髪型のレパートリーでも増やそうか。いつもは考えないような事が私の心を満たしていった。
少し遅めの朝ごはんを作っているときだった。ホットケーキミックスが戸棚の奥に眠っていたから、使い切ろうと無心になればお皿の上には大量のホットケーキが出来ていた。これは一人で食べきれる量じゃない。こういう時に家族が多いといいのだろう。朝早くからライブに行くと母は出かけてしまったし、父は接待だと言ってゴルフに行ってしまった。三枚の皿に乗ったホットケーキを見るだけで、なんだかもう、お腹が満たされていく。
外の方で妙な音がして玄関を開けたらボロボロになった多摩雄君と、多摩雄君を支える学生服四人。雨が降っているのに傘も差してないし、泥だらけになったズボンの裾がコンクリートの地面に絵を描いている。座り込んだ体には無数の傷跡、顔中には青アザが出来て腫れている。それは四人も同じで、制服の至る所まで泥まみれだった。
「多摩雄君、家間違えてない?」
多摩雄君の家はもう少し先の方で、二階建てのアパート。築何年か分からないぐらい古びた、ニ○三号室に住んでいる。たまに私の家に来たり通りかかったから話をすることはあるけれど、こんな朝早くからは初めてだった。
「鍵無くした」
振り絞ったように出てきた言葉が何度も聞いたことがあって、緊張していた肩から力が抜けた。隣で多摩雄君を支えていた男の人が急かすようにこちらを見てきたから、庭の水道まで案内をする。
「ここで泥落としてください。あと学ラン、一旦ここに入れといてください。」
蛇口をひねって水を出す。まだ冷えきっていなくて、ぬるい水滴が指先に少しだけ付いた。倉庫にしまっていたホースの事をすっかり忘れていて、彼らは不便だっただろうと後になって思った。泥まみれになった手足を洗いながら、彼らは指定された籠に学ランを放り込んでいった。真っ黒の学ランを、煤のような泥が侵略していて我が家の買ったばかりの洗濯機に入れる訳にはいかない。
「夢悪ぃな」
ようやく立ち上がった多摩雄君が煤色の腕を洗い出す。蛇口に泥の粒が残って、さっきまで銀色に光っていたそれは、輝きを失ってしまった。雨が洗い流してくれればいいけれど。
「芹沢お前この後どうすんだよ」
「あー、考えてなかったわ」
多摩雄君を支えてきた人が口を開いた。何度か多摩雄君から聞いた事があるその風貌は、まさに狂犬そのものだった。きっと彼は戸梶君。その後ろで二人肩を組んでいたのは三上兄弟で、中学のときに数回顔を合わせたことがある彼は筒本君だったはず。
頭の中で名前を当てはめていたら、多摩雄君と目が合った。食べ物を強請る子供のような顔をしていた。
「とりあえずそこに座っててください。多摩雄君、ご飯は全部終わってから。」
髪型だけは濡らしたくないからと、三人よりもお風呂から上がるのが早かったのは筒本君だった。バスタオルを肩に掛けたままリビングまでやって来ると、用意してあった救急箱の前に座りこんで、夢
先輩と数回しか会ったことのない私を呼んだ。きっと彼は甘え上手で、後輩のお手本の様な性格をしているんだろう。筒本君の傷に消毒液を垂らすと、廊下からリビングに繋がる扉が開いて双子の陽気な声が聞こえた。
ずるいと同じ顔をした二人は筒本君の後ろに立って、俺もやってとせがみだすから、順番ねと笑うと、ソファ前に引かれたレジャーシートに横たわっている
多摩雄君が目に入る。
「多摩雄君、寝ないでよ」
「夢先輩、寝かしてあげてください。さっきまですごかったですから」
すごかったは多分喧嘩のことだろう。こんなにボロボロになるなんて、彼らの学校を考えたら喧嘩しか有り得ない。家の中に入る前に帰って行った戸梶君が、滝谷がと口を滑らせたから大方敵対しているグループと喧嘩でもしていたんだろう。
「多摩雄君、お風呂入ったらご飯あるよ」
「入ってくる」
ご飯と多摩雄君が世界で一番好きな言葉を出せば、呆気なくお風呂場まで向かう。ズボンのポケットから煙草を取り出してテーブルに置いた。セブンスターと書かれた黒文字はコンビニで何度か見たことがある。思い出すだけで鼻先に苦い煙が絡んで、焼いていたホットケーキの香りと混ざり出した。
さっきよりも雨が降ってきて、リビングの扉を閉めようとしたらじっとりした空気が頬を撫でた。廊下に広がる空気が心地悪くて、バタンと勢いよく扉を閉めて、テーブルに置いたホットケーキを思い出した。
「夢食っていいのかこれ、な、食っていいよな」
「いいよ食べな。てか作りすぎちゃったから食べてほしいんだよね」
私の言葉を皮切りに四人はホットケーキにかぶりつく。用意してあったメープルシロップが少しずつ無くなって彼らは糖分を求めているのか、カロリーを求めているのか分からない。多摩雄君には似合わない薔薇が書かれた皿から一枚、二枚とホットケーキが無くなっていく。多摩雄君の隣では、筒本君がマーガリンを塗っていて、傷だらけの自分に触れた消毒液のようにたっぷりと生地に付いた。
「おかわりすんなら、自分でやってね」
薔薇の皿から無くなったそれを埋めるため、多摩雄君は小走りでキッチンに向かう。それを見た三上兄弟達が、芹沢と皿を出せば、多摩雄君はセルフだと怒鳴ったから、なんだか可笑しくなってしまった。
「今日は休みかなあ」
撮るはずだった学校の風景が頭をよぎる。机にそのままにしていた一眼レフを棚にしまう。カメラに付けている修学旅行で買ったストラップが揺れた。
着信音が鳴って開いてみたら、今日はお休み!と部長からメールが来ていた。久しぶりの何も無い休日だから、今日は足の爪のネイルでも新しくしようかな、それとも学校にしていく髪型のレパートリーでも増やそうか。いつもは考えないような事が私の心を満たしていった。
少し遅めの朝ごはんを作っているときだった。ホットケーキミックスが戸棚の奥に眠っていたから、使い切ろうと無心になればお皿の上には大量のホットケーキが出来ていた。これは一人で食べきれる量じゃない。こういう時に家族が多いといいのだろう。朝早くからライブに行くと母は出かけてしまったし、父は接待だと言ってゴルフに行ってしまった。三枚の皿に乗ったホットケーキを見るだけで、なんだかもう、お腹が満たされていく。
外の方で妙な音がして玄関を開けたらボロボロになった多摩雄君と、多摩雄君を支える学生服四人。雨が降っているのに傘も差してないし、泥だらけになったズボンの裾がコンクリートの地面に絵を描いている。座り込んだ体には無数の傷跡、顔中には青アザが出来て腫れている。それは四人も同じで、制服の至る所まで泥まみれだった。
「多摩雄君、家間違えてない?」
多摩雄君の家はもう少し先の方で、二階建てのアパート。築何年か分からないぐらい古びた、ニ○三号室に住んでいる。たまに私の家に来たり通りかかったから話をすることはあるけれど、こんな朝早くからは初めてだった。
「鍵無くした」
振り絞ったように出てきた言葉が何度も聞いたことがあって、緊張していた肩から力が抜けた。隣で多摩雄君を支えていた男の人が急かすようにこちらを見てきたから、庭の水道まで案内をする。
「ここで泥落としてください。あと学ラン、一旦ここに入れといてください。」
蛇口をひねって水を出す。まだ冷えきっていなくて、ぬるい水滴が指先に少しだけ付いた。倉庫にしまっていたホースの事をすっかり忘れていて、彼らは不便だっただろうと後になって思った。泥まみれになった手足を洗いながら、彼らは指定された籠に学ランを放り込んでいった。真っ黒の学ランを、煤のような泥が侵略していて我が家の買ったばかりの洗濯機に入れる訳にはいかない。
「夢悪ぃな」
ようやく立ち上がった多摩雄君が煤色の腕を洗い出す。蛇口に泥の粒が残って、さっきまで銀色に光っていたそれは、輝きを失ってしまった。雨が洗い流してくれればいいけれど。
「芹沢お前この後どうすんだよ」
「あー、考えてなかったわ」
多摩雄君を支えてきた人が口を開いた。何度か多摩雄君から聞いた事があるその風貌は、まさに狂犬そのものだった。きっと彼は戸梶君。その後ろで二人肩を組んでいたのは三上兄弟で、中学のときに数回顔を合わせたことがある彼は筒本君だったはず。
頭の中で名前を当てはめていたら、多摩雄君と目が合った。食べ物を強請る子供のような顔をしていた。
「とりあえずそこに座っててください。多摩雄君、ご飯は全部終わってから。」
髪型だけは濡らしたくないからと、三人よりもお風呂から上がるのが早かったのは筒本君だった。バスタオルを肩に掛けたままリビングまでやって来ると、用意してあった救急箱の前に座りこんで、夢
先輩と数回しか会ったことのない私を呼んだ。きっと彼は甘え上手で、後輩のお手本の様な性格をしているんだろう。筒本君の傷に消毒液を垂らすと、廊下からリビングに繋がる扉が開いて双子の陽気な声が聞こえた。
ずるいと同じ顔をした二人は筒本君の後ろに立って、俺もやってとせがみだすから、順番ねと笑うと、ソファ前に引かれたレジャーシートに横たわっている
多摩雄君が目に入る。
「多摩雄君、寝ないでよ」
「夢先輩、寝かしてあげてください。さっきまですごかったですから」
すごかったは多分喧嘩のことだろう。こんなにボロボロになるなんて、彼らの学校を考えたら喧嘩しか有り得ない。家の中に入る前に帰って行った戸梶君が、滝谷がと口を滑らせたから大方敵対しているグループと喧嘩でもしていたんだろう。
「多摩雄君、お風呂入ったらご飯あるよ」
「入ってくる」
ご飯と多摩雄君が世界で一番好きな言葉を出せば、呆気なくお風呂場まで向かう。ズボンのポケットから煙草を取り出してテーブルに置いた。セブンスターと書かれた黒文字はコンビニで何度か見たことがある。思い出すだけで鼻先に苦い煙が絡んで、焼いていたホットケーキの香りと混ざり出した。
さっきよりも雨が降ってきて、リビングの扉を閉めようとしたらじっとりした空気が頬を撫でた。廊下に広がる空気が心地悪くて、バタンと勢いよく扉を閉めて、テーブルに置いたホットケーキを思い出した。
「夢食っていいのかこれ、な、食っていいよな」
「いいよ食べな。てか作りすぎちゃったから食べてほしいんだよね」
私の言葉を皮切りに四人はホットケーキにかぶりつく。用意してあったメープルシロップが少しずつ無くなって彼らは糖分を求めているのか、カロリーを求めているのか分からない。多摩雄君には似合わない薔薇が書かれた皿から一枚、二枚とホットケーキが無くなっていく。多摩雄君の隣では、筒本君がマーガリンを塗っていて、傷だらけの自分に触れた消毒液のようにたっぷりと生地に付いた。
「おかわりすんなら、自分でやってね」
薔薇の皿から無くなったそれを埋めるため、多摩雄君は小走りでキッチンに向かう。それを見た三上兄弟達が、芹沢と皿を出せば、多摩雄君はセルフだと怒鳴ったから、なんだか可笑しくなってしまった。
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