Charlotte
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温かいと、思った。
誰かが手を握っている。
肌と肌が触れる感覚だ。
それはやがて離れていき、ゆっくり目蓋を開く。
降り注ぐ光が眩しく慣れるまで少しかかったが、誰かがこちらを覗き込んでいるのがわかった。
長い黒髪と同じ色の瞳。
懐かしい、妹の…。
「バージル…!目が覚めた?」
「…お前は」
彼女は目を見開くと、手を握ってくる。
この感覚。
眠っている間にずっと触れていたぬくもり。
昔から知っていたようなそれに、どうしようもなく安心してしまう。
彼女は微笑んで、艶やかな赤い唇で言った。
「エリだよ。覚えてる?」
エリ。
しっかり覚えている。
大切だった、人間の妹。
だが、今はもう死んでしまった。
…死んでしまった?
「エリ…?」
「そう、エリ」
バージルは身を起こし、目を凝らして傍にいる女性を見つめた。
眩しい笑顔に、記憶の中の幼かった妹の面影が少しだけ重なる。
生きていたのか。
長年後悔してきたことがひとつ、突然に解消され、喜びと戸惑いが同時にやってくる。
ぼんやりしていた意識も、徐々に戻ってきた。
「…どうして俺は生きている?」
確か自分は、ダンテに刺されて気絶した筈だ。
同じ血が流れているのに、再会して全く別の信念を抱くようになっていた弟。
最後の一騎打ちの時、本気の瞳で色々と語っていたが、どうしても受け入れることはできなかった。
幼い日のあの夜からずっとひとりで生きてきて、偉大な父であるスパーダの力を手にすることが正しいと考えてきた。
ダンテに腹を貫かれた時も自身の選択を間違っていたとは思わなかったが、ダンテに負けたことは揺るぎない事実。
不本意だがそのまま殺されるほどの気迫を、弟から感じた。
むしろ今、何故生きているのか。
そしてここはどこなのか。
「テメンニグルから、ダンテが連れて帰って来たの。ここはダンテの事務所だよ」
エリが諭すように言う。
どうやら自分は死に損なったらしい。
ダンテに、生かされたのだ。
計画は失敗し満身創痍で、殺し合いをした相手の家のベッドに横たわっていたことに、自然と乾いた笑いが洩れた。
「…バージル?」
エリは眉を歪めて狂ったように笑う彼の姿を見た。
ダンテと同じブルーの瞳が、心臓を射抜くように睨み付けてくる。
勝手に震え出す身体を抑えつけ、彼との距離を保つ。
兄を「恐い」なんて、何かの間違いだ。
「…今更家族ごっこをする気はない」
エリはバージルを信じていたが、彼の口から放たれたのは拒絶だった。
気づけば走って部屋から飛び出してしまった。
思い切り締めたドアの前で、暴れる心臓を落ち着ける。
呼吸も荒い。
あの氷のような瞳を思い出し、また恐怖がやってくる。
なんで。
バージルが恐いなんて、嘘だ。
ずっと会いたかったのに。
泣きそうになって、必死で堪える。
もしかして、ずっと会いたかったのは自分だけかもしれない。
そんな風に考えて、悲しくなった。
「エリ」
「ダンテ…」
1階のソファにはダンテがいて、少し救われた気がした。
彼とは目を合わせずに、俯いたまま隣に座る。
「バージル、目が覚めたよ」
「おっ良かったな」
ダンテは知らせを聞いて明るい声で言った。
でもすぐにエリの雰囲気に気づいて、顔を覗き込む。
彼女は逃げるように視線を逸らした。
「バージルに、何か言われたのか?」
「ううん、大丈夫…」
そのままエリはまたソファから立ち上がって歩き出す。
ダンテは放っておけず、後ろを追い掛けた。
絶対何かよくないことを言われたんだ。
彼女はもう完全に自分の仕事場と化しているキッチンまで進み、振り返った。
「エリ」
「ごめん、ダンテ…ちょっとひとりになりたい気分なの」
そう言って必死に笑顔を作ってはいたが、引きつっているそれは明らかに無理をしている。
ダンテは無視して1歩近づいた。
「泣いてるじゃねぇか」
「泣いて…ない…よ…」
強がりな台詞に反して、大粒の涙が瞳からぼろぼろ零れ落ちる。
昨日の嬉し涙とは違うそれ。
痛々しくて、泣き顔なんて見たくなくて、ダンテはエリを抱き締めた。
「ダンテ…!」
彼女は胸を押して引き離そうとするが、力が強すぎて離れない。
それどころか、益々拘束力が強くなる。
「泣くなら俺の腕の中で泣けよ。ひとりで泣くな」
ダンテの優しさが胸に染みて、また涙が溢れる。
抵抗していたのをやめて、素直にダンテに身を任せた。
こうしてると、心の悲しみが引いていく。
ダンテの体温が安心感を与えてくれる。
「バージルのせいだろ?やっぱりあいつを助けたの間違いだったかもな」
「そんなこと言わないで…!それは間違いじゃない!」
「でもお前に酷いこと言ったんだろ?お前が傷つくの見たくねぇんだよ…」
その言葉は嬉しいが、複雑だった。
泣いていても、バージルを信じたい。
10年の時が彼を変えてしまったなんて思いたくない。
今すぐは駄目でも、きっと心を開いてくれる筈はずだ。
エリはしばらくして泣き止んで、その瞳には光が宿っていた。
「バージル」
また眠っていたようだ。
暗闇の中から救い出すのは、いつもこの声だ。
優しくて、ずっと昔から知っていたような懐かしい声。
彼はそっとまぶたを開き、艶やかな黒髪の女性を瞳に映す。
その瞬間はいつも穏やかだ。
「だいぶ良さそうだね。良かった」
エリは微笑んでいた。
よく見ると目元が赤くなっていて、泣いたんだなとわかった。
その原因はきっと自分だ。
バージルはほんの少しだけ胸が痛くなったが、口から出たのはまた拒絶だった。
「…無断で入ってくるな」
「ごめん…でも…バージルが、心配だから」
心配だとか所詮は戯れ言だと思う自分と、嬉しいと思う自分がいる。
俯いて謝る彼女。
また傷付けただろうか。
後悔するなら言わなければいいのにと、自分自身に愚痴る。
妹は、エリはこうして生きていたのだ。
知らなかっただけで、五体満足であの時と同じように。
良かったと感じるのに、遥か昔のように優しくはしてやれない。
やがてエリは堪えきれなくなったのか、無言で出て行った。
自分で自分がわからない。
ただ言えるのは惨めだと言うことだ。
これからどうするつもりなんだ、俺は。
答えは出ない。
いつまでもこうしている訳にもいかないのは理解できる。
エリに対する態度も完全に八つ当たりだ。
彼女は生きていた。
失って絶望し後悔してひたすら力を求めた理由が、ひとつ解消した。
めでたいことだ。
バージルはベッドに腰掛けたまま、何度も考えた。
幸いに、与えられた時間は有り余る程あったから、置かれた時計を気にすることもなかった。
「バージル、食事持ってきたの。入っていい?」
「……入れ」
エリだ。
拒絶されてもめげずに自分の傍に来てくれる彼女を、少し尊敬し始める。
10年経っても、純粋で優しい彼女のままだ。
エリはドアを開け微笑んで、食事の乗ったトレーを部屋の角にある机に置く。
今まで自分から何か話す気にはなれなかったが、健気な彼女に言っておきたくなった。
「…生きて、いたんだな」
エリが目を見開く。
話し掛けられたのが意外だったのだろう。
「ずっと死んだと思っていた」
そう言っただけなのに、彼女は顔を歪める。
お互いにほんの少しだけ、心が近づけた気がする。
「また会えて良かった…!」
泣くつもりは全くなかったのに、少しだけでもバージルが受け入れてくれた気がして、エリは彼のベッドに身を伏せた。
それに何も言ってくれず、頭を撫でるとか兄らしいことはしてくれなかったが、そのまま泣かせてくれるだけで満足だった。
ひとしきり泣いた後、エリは目元を赤くしながら、申し訳なさそうに微笑んだ。
「ごめんね…新しいシーツ持ってくるから…」
バージルはあくまでも無表情だった。
昔はもう少し感情を読み取れたのに、今はまだあまりわからない。
エリは部屋の外に出て、深呼吸する。
押し付けだろうか。
勝手にここに閉じ込めて、彼の言う「家族ごっこ」をさせようとしているのだろうか。
でも、自分がしたいのは「ごっこ」じゃない。
また、「家族」を取り戻すことだ。
end.
誰かが手を握っている。
肌と肌が触れる感覚だ。
それはやがて離れていき、ゆっくり目蓋を開く。
降り注ぐ光が眩しく慣れるまで少しかかったが、誰かがこちらを覗き込んでいるのがわかった。
長い黒髪と同じ色の瞳。
懐かしい、妹の…。
「バージル…!目が覚めた?」
「…お前は」
彼女は目を見開くと、手を握ってくる。
この感覚。
眠っている間にずっと触れていたぬくもり。
昔から知っていたようなそれに、どうしようもなく安心してしまう。
彼女は微笑んで、艶やかな赤い唇で言った。
「エリだよ。覚えてる?」
エリ。
しっかり覚えている。
大切だった、人間の妹。
だが、今はもう死んでしまった。
…死んでしまった?
「エリ…?」
「そう、エリ」
バージルは身を起こし、目を凝らして傍にいる女性を見つめた。
眩しい笑顔に、記憶の中の幼かった妹の面影が少しだけ重なる。
生きていたのか。
長年後悔してきたことがひとつ、突然に解消され、喜びと戸惑いが同時にやってくる。
ぼんやりしていた意識も、徐々に戻ってきた。
「…どうして俺は生きている?」
確か自分は、ダンテに刺されて気絶した筈だ。
同じ血が流れているのに、再会して全く別の信念を抱くようになっていた弟。
最後の一騎打ちの時、本気の瞳で色々と語っていたが、どうしても受け入れることはできなかった。
幼い日のあの夜からずっとひとりで生きてきて、偉大な父であるスパーダの力を手にすることが正しいと考えてきた。
ダンテに腹を貫かれた時も自身の選択を間違っていたとは思わなかったが、ダンテに負けたことは揺るぎない事実。
不本意だがそのまま殺されるほどの気迫を、弟から感じた。
むしろ今、何故生きているのか。
そしてここはどこなのか。
「テメンニグルから、ダンテが連れて帰って来たの。ここはダンテの事務所だよ」
エリが諭すように言う。
どうやら自分は死に損なったらしい。
ダンテに、生かされたのだ。
計画は失敗し満身創痍で、殺し合いをした相手の家のベッドに横たわっていたことに、自然と乾いた笑いが洩れた。
「…バージル?」
エリは眉を歪めて狂ったように笑う彼の姿を見た。
ダンテと同じブルーの瞳が、心臓を射抜くように睨み付けてくる。
勝手に震え出す身体を抑えつけ、彼との距離を保つ。
兄を「恐い」なんて、何かの間違いだ。
「…今更家族ごっこをする気はない」
エリはバージルを信じていたが、彼の口から放たれたのは拒絶だった。
気づけば走って部屋から飛び出してしまった。
思い切り締めたドアの前で、暴れる心臓を落ち着ける。
呼吸も荒い。
あの氷のような瞳を思い出し、また恐怖がやってくる。
なんで。
バージルが恐いなんて、嘘だ。
ずっと会いたかったのに。
泣きそうになって、必死で堪える。
もしかして、ずっと会いたかったのは自分だけかもしれない。
そんな風に考えて、悲しくなった。
「エリ」
「ダンテ…」
1階のソファにはダンテがいて、少し救われた気がした。
彼とは目を合わせずに、俯いたまま隣に座る。
「バージル、目が覚めたよ」
「おっ良かったな」
ダンテは知らせを聞いて明るい声で言った。
でもすぐにエリの雰囲気に気づいて、顔を覗き込む。
彼女は逃げるように視線を逸らした。
「バージルに、何か言われたのか?」
「ううん、大丈夫…」
そのままエリはまたソファから立ち上がって歩き出す。
ダンテは放っておけず、後ろを追い掛けた。
絶対何かよくないことを言われたんだ。
彼女はもう完全に自分の仕事場と化しているキッチンまで進み、振り返った。
「エリ」
「ごめん、ダンテ…ちょっとひとりになりたい気分なの」
そう言って必死に笑顔を作ってはいたが、引きつっているそれは明らかに無理をしている。
ダンテは無視して1歩近づいた。
「泣いてるじゃねぇか」
「泣いて…ない…よ…」
強がりな台詞に反して、大粒の涙が瞳からぼろぼろ零れ落ちる。
昨日の嬉し涙とは違うそれ。
痛々しくて、泣き顔なんて見たくなくて、ダンテはエリを抱き締めた。
「ダンテ…!」
彼女は胸を押して引き離そうとするが、力が強すぎて離れない。
それどころか、益々拘束力が強くなる。
「泣くなら俺の腕の中で泣けよ。ひとりで泣くな」
ダンテの優しさが胸に染みて、また涙が溢れる。
抵抗していたのをやめて、素直にダンテに身を任せた。
こうしてると、心の悲しみが引いていく。
ダンテの体温が安心感を与えてくれる。
「バージルのせいだろ?やっぱりあいつを助けたの間違いだったかもな」
「そんなこと言わないで…!それは間違いじゃない!」
「でもお前に酷いこと言ったんだろ?お前が傷つくの見たくねぇんだよ…」
その言葉は嬉しいが、複雑だった。
泣いていても、バージルを信じたい。
10年の時が彼を変えてしまったなんて思いたくない。
今すぐは駄目でも、きっと心を開いてくれる筈はずだ。
エリはしばらくして泣き止んで、その瞳には光が宿っていた。
「バージル」
また眠っていたようだ。
暗闇の中から救い出すのは、いつもこの声だ。
優しくて、ずっと昔から知っていたような懐かしい声。
彼はそっとまぶたを開き、艶やかな黒髪の女性を瞳に映す。
その瞬間はいつも穏やかだ。
「だいぶ良さそうだね。良かった」
エリは微笑んでいた。
よく見ると目元が赤くなっていて、泣いたんだなとわかった。
その原因はきっと自分だ。
バージルはほんの少しだけ胸が痛くなったが、口から出たのはまた拒絶だった。
「…無断で入ってくるな」
「ごめん…でも…バージルが、心配だから」
心配だとか所詮は戯れ言だと思う自分と、嬉しいと思う自分がいる。
俯いて謝る彼女。
また傷付けただろうか。
後悔するなら言わなければいいのにと、自分自身に愚痴る。
妹は、エリはこうして生きていたのだ。
知らなかっただけで、五体満足であの時と同じように。
良かったと感じるのに、遥か昔のように優しくはしてやれない。
やがてエリは堪えきれなくなったのか、無言で出て行った。
自分で自分がわからない。
ただ言えるのは惨めだと言うことだ。
これからどうするつもりなんだ、俺は。
答えは出ない。
いつまでもこうしている訳にもいかないのは理解できる。
エリに対する態度も完全に八つ当たりだ。
彼女は生きていた。
失って絶望し後悔してひたすら力を求めた理由が、ひとつ解消した。
めでたいことだ。
バージルはベッドに腰掛けたまま、何度も考えた。
幸いに、与えられた時間は有り余る程あったから、置かれた時計を気にすることもなかった。
「バージル、食事持ってきたの。入っていい?」
「……入れ」
エリだ。
拒絶されてもめげずに自分の傍に来てくれる彼女を、少し尊敬し始める。
10年経っても、純粋で優しい彼女のままだ。
エリはドアを開け微笑んで、食事の乗ったトレーを部屋の角にある机に置く。
今まで自分から何か話す気にはなれなかったが、健気な彼女に言っておきたくなった。
「…生きて、いたんだな」
エリが目を見開く。
話し掛けられたのが意外だったのだろう。
「ずっと死んだと思っていた」
そう言っただけなのに、彼女は顔を歪める。
お互いにほんの少しだけ、心が近づけた気がする。
「また会えて良かった…!」
泣くつもりは全くなかったのに、少しだけでもバージルが受け入れてくれた気がして、エリは彼のベッドに身を伏せた。
それに何も言ってくれず、頭を撫でるとか兄らしいことはしてくれなかったが、そのまま泣かせてくれるだけで満足だった。
ひとしきり泣いた後、エリは目元を赤くしながら、申し訳なさそうに微笑んだ。
「ごめんね…新しいシーツ持ってくるから…」
バージルはあくまでも無表情だった。
昔はもう少し感情を読み取れたのに、今はまだあまりわからない。
エリは部屋の外に出て、深呼吸する。
押し付けだろうか。
勝手にここに閉じ込めて、彼の言う「家族ごっこ」をさせようとしているのだろうか。
でも、自分がしたいのは「ごっこ」じゃない。
また、「家族」を取り戻すことだ。
end.